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さいはて宛の手紙…6


ただ今、稲刈りが終わりました。秋ですね。
しかし肌寒さはまだこず、日差しの強い日が続いております。温暖化ですね。

そうそう、ご存知ですか?
新米の玄米たちは色彩選別機という通称色選と呼ばれる機械に通されます。
通常は規格外の虫食い米をはねてくれる代物なのですが、まれに精度のよくない機械にあたります。

農協さんもかきいれ時ですものね、全然精度のいい機械の予約がとれません。
困ります。
しかし、こちらも新米を売らねばならぬのです。
なので、しぶしぶ空いている機械に予約をいれ通してきます。
1袋300円、わりとします。

さすがは精度の悪い機械、白米に精米したときに全然黒点米があります。
あなたたちが下手くそにお米をつくったせいでは?という疑問はどうか抱かないでくださいませ。

となれば、家で黒点米を目視ではねてゆきます。
なかなかの作業です。

白米に1つ黒い点があるお米をみていると、なんだか無垢な存在に1つの染みが落とされるようなイメージがわいてきました。

赤ん坊の頃はみなさま、白米のようにまっさらで無垢な存在…そこに1つの黒い染みが垂らされた瞬間ははいったいいつだったのでしょうね。
たった一雫…黒い濁りが染み付いた日に思いを馳せます。
最初の一滴はなんだったのだろうか、と数十滴、いや数百滴?染みがついた私が問うのです。
 
生憎と思い出せはしないのです。
あなたは、最初の黒い一滴を覚えておられますか?

手紙を買った。
貰ったことがなかったのでどんな内容でもいいと思っていたが、手紙とはこういうものなのだろうか。
やや一方的な考えたことの押し付けようなものが手紙として成り立つのか。
紙に文字を綴って封をしたら、手紙になるのか。

最初の黒い一滴か、俺も思い出せはしない。
物心というものが着いた頃ではもう最初の一滴では無いのだろう。

もっと昔のことなのだ。
きっともっともっと昔のこと。

流れる時間と共に垂らされてきた黒い染みはだんだん薄くなるところか深く濃い染みになっていると思う。

染みか…、俺は職業柄染み抜きのことばっかり考えちまう。
クリーニング屋を営んでいるから、真っ白いシャツに染み付いた汚れをいかに落とすかだけを考えちまう。

最初の黒い一滴、一滴でもついちまったのだからもう汚すのは怖くねぇな、もっともっと垂らしちまえと二滴目や数十滴目のことに目を向ける。

一滴だって、数十滴だって衣類なら染み抜きしてやるからな、なんて手紙を書いた人に伝えたくなってしまった。

そんなやりとりが手紙だっていうんなら、わりと悪くはないもんだ。

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