手紙を買った。
貰ったことがなかったのでどんな内容でもいいと思っていたが、手紙とはこういうものなのだろうか。
やや一方的な考えたことの押し付けようなものが手紙として成り立つのか。
紙に文字を綴って封をしたら、手紙になるのか。
最初の黒い一滴か、俺も思い出せはしない。
物心というものが着いた頃ではもう最初の一滴では無いのだろう。
もっと昔のことなのだ。
きっともっともっと昔のこと。
流れる時間と共に垂らされてきた黒い染みはだんだん薄くなるところか深く濃い染みになっていると思う。
染みか…、俺は職業柄染み抜きのことばっかり考えちまう。
クリーニング屋を営んでいるから、真っ白いシャツに染み付いた汚れをいかに落とすかだけを考えちまう。
最初の黒い一滴、一滴でもついちまったのだからもう汚すのは怖くねぇな、もっともっと垂らしちまえと二滴目や数十滴目のことに目を向ける。
一滴だって、数十滴だって衣類なら染み抜きしてやるからな、なんて手紙を書いた人に伝えたくなってしまった。
そんなやりとりが手紙だっていうんなら、わりと悪くはないもんだ。