見出し画像

再エネとガスとドイツの失敗

ドイツの失敗はエネルギー転換そのものなのか?


一般に再エネ、中でも太陽光と風力が成長すると再エネの変動に対応するために柔軟性の高い電源が必要となり、そのためにガス火力がたくさん必要になると言われます。
これは技術的には正しい一方で、「だから再エネに邁進したドイツは失敗した」かとは分けて考えるべきです。
特にドイツは、再エネ成長を急ぎすぎたことが今のエネルギー危機の原因だという声もあり、完全に否定はできないですがこれだけでは説明として不十分です。

ドイツの本当の問題は電力における再エネ比率が高いことよりも、最終エネルギー消費に占める化石燃料の割合がとても高いことです。グロスのエネルギー消費における自給率は29%、輸入率は71%になります。石油では98%、石炭は100%、天然ガスは95%が輸入です(原子力もドイツは輸入率100%とすることが多いです)。

ロシアはガス、石油、石炭すべてをEUに輸出しているので、ドイツは長期的にはロシア産ガスへの依存から脱却するだけでなく、すべての化石燃料輸入からできる限り早期に脱却(そのためにまずは需要削減)すること、短期的には(需要を減らすのは難しいので)ロシア以外からの調達を多様化することが求められます。

今回の危機でEUは再エネを進めるという方向性を強化しつつ、原発の重要性を再認識しつつあります。
そのため、EUにとってもドイツにとっても太陽光や風力という変動再エネに対応できる柔軟性をどうするか、原発は十分な柔軟性を提供できるか、電力以外のエネルギーをどうするかはなお重要なポイントです。

他方で、ドイツはタクソノミーの議論では原発に反対しながらもガスは入れるように求めていました。ドイツにとって再エネを伸ばしつつ脱原発と脱石炭も目指すためにガス火力発電がどうしても必要なのです。

ただ、ドイツがさらに急速に再エネ転換を進めることがロシアガス依存の悪化につながるかどうかは慎重に見極めるべきだと思います。そこで、いくつか数字をご紹介します。

再エネとガスの関係

太陽光と風力の変動性再エネが増えるとガスやバイオマス、揚水など、太陽光と風力以外の電源がバックアップとして必要になると言われます。そのため、太陽光と風力以外の電源が重要である、というのは技術的に正しいですが、バックアップ電源が必要という時はkWかkWhを考える必要があります。

以下の2つのグラフは、(統計が手に入る)1995年から2019年までのドイツのグロスの電力消費に占める原子力、石炭・褐炭、天然ガス、再エネの推移(上のグラフ)と、ガスだけ取り出したもの(下のグラフ)です。

画像1
ドイツ国内の電源構成(抜粋)
画像2
ガス発電量の推移

この2つの図を見ると、ガス発電は2007年までに伸びたことがわかります。その後はリーマンショックや他の化石燃料の価格低迷などの要因があって大きく落ち込み、2007年頃の水準に戻ったのは2015年です。
他方で再エネの成長が本格化するのは2010年代ですから、ガス火力の伸びと関連があるのは再エネ成長よりも2005年ころまでの電力需要増といえます。

そこでこの期間を前半と後半に分け、1995年から2007年と2008年から2019年までの天然ガスと再エネの関連、天然ガスと粗電力消費についてエクセルで相関係数を求めたものが以下です。

画像3


2008年以降は天然ガスの変動は再エネともグロス電力消費ともほぼ無関係となっています。

ただし、1995-2007年程度の再エネ比率では技術的には柔軟性電源はそこまで必要ないため、2007年までの天然ガスと再エネの成長には再エネが成長することでガス火力が必要になったと言い切るのは難しく、因果関係というよりは相関があるという表現に留めるのが良いと思います。

1次エネルギーに占めるガスと再エネ

ここまでは電気の話でしたが、1次エネルギーにおけるガスと再エネの関係も示しておきます。天然ガス消費は2000年以降は割と一定で推移し、再エネは伸びていることがわかります。

画像5

ここには示していませんが、原発が1次エネルギーに占める割合が最も高いのは2000年の12.5%で、2019年は5.6%です。過去20年で7%ほど減りました。原発はドイツではほとんど電気としてしか使っていないのですが、電力におけるkWhでみれば再エネが完全に代替しています。

ということで、過去のドイツの天然ガス消費の増加は2010年以降に大きく伸びた再エネとはほぼ関係なく、2000年代前半までのエネルギー政策によるところが大きいといえると思います。

ついでに欧州主要国と日本のガス消費の推移ですが、やはりドイツがEUで一番ガスを使っています。

画像21

ドイツのエネルギー政策

これまでの経緯からは、

ドイツでは再エネを増やす→バックアップ電源としてのガス需要が増える→ロシアのガスに対する依存の悪化要因となる

とはいえません。

もちろん、再エネは完璧な電源ではなく、風力と太陽光の発電量は天候で変動します。太陽光と風力の発電量をあわせて定格出力の10%を下回る時間帯をドイツ語でDunkelflaute(ドゥンケルフローテ)と言いますが、経験上、48時間以上続くケースが年に2回、2週間程度続くことが2年に1回程度発生します。
そのため、太陽光と風力の変動に対応できる電源を残しておくことは必要であり、(柔軟性の低い)石炭と原発の新設はしない方向のドイツは2050年頃にはガス火力を合計で50-80GW程度必要とみています(ピーク電力需要は80GW程度)。21年末時点でガスの設備容量が31GW程度なので、脱石炭達成までに20-50GW程度新設が必要です。ただし今後設置をすべきは分散型のガスコジェネで将来的に水素に転換できるものが理想です。

ドイツの理想は脱原発と脱石炭で減っていくkWhを再エネで補いつつ、ガス火力のkWを確保することです。これはガスのkWh需要はさほど増やさなくてもなんとかなることを意味します。

話を過去の経緯に戻すと、グラフで見たとおり、2010年代前半ドイツはガス火力の発電量(kWh)が落ち込んでいます。実はこのとき、ガス火力への投資が進まなかったために、脱原発と脱石炭で停止する電源のkWを補えるほどのガス火力新設が進まないという課題も起こっていました。
ドイツがタクソノミーにガス火力をいれたい理由はkWhよりもkWの問題です。脱原発と脱石炭で今後不足する20-50GWの新設に投資を呼び込むと同時に補助金を出す必要があるからです。ただし、すでに述べたとおり、脱原発と脱石炭で減るkWhを埋めるのは主に再エネです。

ガス需要の予測

今後脱石炭を進めれば、それを補うエネルギー源が必要であり、ガスの重要性が高まることは間違いありません。脱石炭によってエネルギー消費(≠電気だけ)に占めるガスの割合が高まることは確実だと思われます。

こうした事態にどう対応するかの手がかりとして、ドイツのガス需要に関する予測調査がいくつかあります。中でもドイツのガス需要が大きく伸びるとしているのは、Exxon Mobilの予測です。

Exxon Mobilの評価

2018年のレポートではガス需要が2040年には338万PGまで伸びると予測しています。これまでの最大が2010年の317万PJだったので、20万PJの伸びです。

画像5

PEVは1次エネルギー消費を意味します。こちらがこのシナリオでの再エネの成長です。

画像6

1次エネルギー消費は30%削減する一方で、1次エネルギーに占めるガスの比率は今の25%から34%まで増えると予測しています。

次に電力を見てみると、ガスは今後20年間で53万PJから113万PJに成長します。

画像7

この時の再エネ電力の成長です。

画像8

個人的には2020年以降の再エネ電力の成長が低すぎると思いますが、前政権の政策は再エネに対して後ろ向きだったので、そのトレンドが続くと仮定したのだと思います。

他方で、ドイツのガス消費で大きなシェアを占めている暖房では、逆にガス消費は減っていきます。ドイツ国内のエネルギー消費合計が30%減るとなっているのも、この建物での暖房需要の低下が大きく効いています。これは、省エネ建築が普及することで、暖房需要が減っていくためです。

画像9

最後にガスの用途別の消費量を示したグラフです。電力と産業用途が占める割合が大きく暖房需要減を相殺してしまっています。

画像10

これは、2010年代後半のように再エネが成長しないまま脱石炭を実行するとどうなるかを示したシナリオと言えます。また、天然ガスには水素などが含まれていますが、集計は分けていないようです。

その他の評価

他方、政府が2030年のガス消費のあり方について2018年に議論したペーパーではガス需要のメタ分析が紹介されています。
こちらは2050年の温室効果ガス排出80%、95%を達成するためにエネ転換に取り組んでいけば、ガス需要はどうなるのか?というものです。ここでは2030年と2050年が示されていますが、2030年でも2018年のガス消費量を上回ることはないという結果になっています。

画像11

次は政府の依頼でPrognsが行った研究の結果(2020年)です。こちらも1次エネルギーに占めるガス需要が増えるのは2025年まででその後は減り始めます。ただし2025年のガス需要は2000年に次いで2番目に多くなります。

画像12

同調査の最終エネルギー消費に占めるガスの消費量でみた場合は、2025年のガス消費は過去を上回ることはありません。

画像13

電力における電源ごとの発電量の推移です。

画像14

ガスは2025年に86TWhとなり、2020年の71TWhを上回り、2010年の87TWhと同水準になります。その後は減りますが、2038年の脱石炭を受けて2040年にはガスが91TWhで過去最高になります。しかし、この天然ガスには水素ガスも含まれるため、すべてが化石燃料由来ではありません。

もう1つ、ケルンエネルギー経済研究所の調査(2017年)です。上が最終エネルギー消費、下が電力におけるガス消費です。

画像4
画像15

このシナリオでもガス消費量は全体では今後減っていくことが示されています。

PrognosとEWIは政府目標である、2050年のCO2排出80-95%削減(90年比)をベースとして作成されたものですが、いずれのシナリオ分析でも、ガス需要は今後減っていくことが示されており、過去の実績も再エネの増加にともなってガスの消費量が増えるとは限らないことを示しています。

もちろんExxon Mobileは間違いということではありません。2010年後半の再エネと省エネの停滞を前提としたある意味リアルな試算と言えます。

ドイツのガス輸出入

これまで国内の話をしてきましたが、ドイツにとってガスは国内消費だけでなく、輸出入も関わってきます。

ドイツの2000-2018年のガスの輸入量を国別に並べたものです。ちなみにNordstream1の開通が2011年です。赤がロシアで2014年ころから増えています。また2014年から2018年にガス輸入量が31%増えたとも書かれています。これは一度落ち込んだガス火力発電が回復していることと関係しているでしょう。
それらと並行して、ドイツからのガス輸出量も増えてきています。

画像17

ドイツのガスの輸入量の推移を1975-2018年まで示したものです。

直近10年の推移です。

画像19

ドイツは(2020年)で1555億m3、世界の輸出量の10.8%を占める最大の輸入国です。ちなみに日本は1073億m3で第3位だそうです。

すでに示した通り、ドイツのガス消費は長期間ほぼ同じ水準です。ドイツの輸入量増加は近年のガスの備蓄の推進と輸入増を進めていることが関係しているかもしれません。EUのガス消費に占めるドイツの割合の推移を示しておきます。EUのガス消費に占めるドイツの割合は1970年代からあまり変わらず、20-25%前後をウロウロしています。

画像8

これまでのデータからグラフから(多分)言えること

流石に疲れたのと無料データでは限界が出てきたので、ここからは私の考えを書くことにします。(数字のエビデンスだけでいいという人はここからは読まなくても大丈夫です)

まず、ドイツのエネルギーがロシアに依存している点は大きな問題だ、NS2は自体を悪化させるだろうというのは、正しいと思います。
事実、ドイツはロシアのガスに依存しており、(再エネ増強が進まない状況が続けば)NS2の開通で石炭からガスへ移行が進展し、ロシア以外からのガス輸入が減り、ロシア依存度がさらに上る可能性がありました。

また、見てきた通り、エネルギー政策の目論見ではドイツのガス消費量は増える見込みはあまりなかったので、仮に今後ロシアからのガス輸入が増加していたとすればより多くのガスがEU加盟国に転売されることになっていたでしょう。ドイツはおそらくロシアを信じ、エネルギー転換を信じ、EUを信じ、アメリカと中東を嫌い、善意でやってきたつもりだったのだろうと思いますが(とはいえ政治家と一部大企業のロシアとの癒着の問題も大きいですが)、ドイツのやり方はEU全体のロシア依存を高める可能性があったと思います(最終的には各国の意思決定の問題だとも思いますが)。

こうしてドイツがガスをこれまでどおり大量に輸入し、大量に消費し、さらに転売を増やすつもりで色々な政策をとってきたことは結果的にEUに大きな打撃を与えることになりました。

ドイツはどこで何を失敗したのか?

今回のことで、ドイツの失敗を批判する声はあちこちにあります。そして、失敗したという指摘は当たっていると思います。

では、ドイツはどこで失敗したのか?

ドイツの第一の失敗は70年代のオイルショックで暖房を石油からガスに切り替えるようにしてきたことだと思います。当時の判断として合理的だったとも思いますが、結果的には今回の原因となったと言えるでしょう。
ドイツはオイルショックの時に石油の安全保障を相当真剣に捉えていたことは色々な文献から伺えます。エネルギー転換という単語が初めて使われたのも1980年、省エネをしようという意味でした。

そのため、電力と暖房でガスの消費量が大きく増え、2000年ころまでに1次エネルギーの20-25%前後を占めるまで伸びました。

つまり、ドイツの失敗は気候政策が議論され始める前、2000年までの政策に起因するところが大きいと思います。そして、2000年代に入ってから本来進めるべきだった政策は、暖房でのガス消費の削減、つまり省エネ建築の普及でした。まずはガスを消費しない国を作ることが最重要課題だったはずです。

ドイツは建物は100年くらいは使います。なので、古い建物の改修が難しいという課題はありますが、本来はお金をかけてもっと良い家を作ることができたはずです。しかし、ドイツはここで失敗してしまいました。

次に、2010年代後半からは再エネの普及に失敗しました。建てやすい場所での普及が一段落した時にさらに加速させる政策を怠り、系統整備やガス火力などの柔軟性への投資が難しいといった課題を抱える現行制度に手を付けなかったために、再エネ電気をうまく使うことができなくなってしまいました。

これまでは再エネの成長が原発、石炭を代替してきたのでドイツはなんとかなりました。他方で、減価償却の終わった安い原発と石炭を最新鋭の高いガス火力と「公平に」市場で競わせたためにガス火力が建設できず、ガス火力のkWを増やすことが出来ませんでした。本来取るべき手段はガスのkWを増やしつつ、kWhはできる限り増やさないことだったはずです。

2010年代後半には再エネの中でも特に風力の成長がとまり(バイオマスはその前に止まっていた)、再エネが成長しないことで問題は深刻化していきました。再エネのkWもkWhも成長速度が不十分で発電量不足が顕著になりつつあり、間もなくドイツは電力輸入国に変わると言われます。

これまでのガスへの投資不足は石炭の残留、再エネの伸びでごまかしてこれましたが、それも限界です(なのでドイツが石炭を悪魔化してきたとか嫌ってきたというのは間違いです)。さらに、ヒートポンプと電気自動車の普及で電力需要が増えることもわかっています。
電化自体は悪いことではないのですが本来はそれを見越して再エネを増やしておくべきでした。(ただし電化によってこれまで系統に流れずに捨てられていた再エネ電力を使えるようになる面もあります)。

ドイツのエネルギー関係者でもアカデミアでエネルギー転換を推進する人は、最も効果的な対策として省エネと熱の再エネ化で暖房でのガス消費を減らすことを重視していました。
そして、脱石炭と再エネ推進で一時的に増えるガス電力の需要を、暖房でのガス需要減少で相殺できると考えていました。ちゃんと再エネ中心のエネルギーシステムを推進すれば電力でのガス需要増も制御できたはずでした。

紹介したガス需要予測シナリオ(Exxon Mobil以外)はそうした前提で作られたものです。ですので、ドイツは脱原発、脱石炭がそのままガス消費量の大幅な増加やロシア依存の悪化につながらずにすんだはずだったのです。

とーこーろーがー

2013年から始まった中道右派と中道左派の大連立はこうした様々なエネ転換の芽を次々と摘んでいきました。
CDUは足元の経済を優先して安い褐炭と石炭の延命を図り、建物の省エネ改修が進んでいないのにテコ入れせず、SPDはシュレーダーの口利きによるロシアの安いガス依存に邁進し、本来最も力を入れるべき再エネをその場しのぎにすらならない政策でぶち壊してきました。
風力は現在建設許可を得るのに6-7年かかります。今後新政権が許認可を2年以内に短縮しても立つのは2026年とかです(それでも原発よりはるかに早いですけど)。

本来丁寧に省エネを進め、再エネを増やしていけば、ガスのkWを増やす必要はありますが、ガスのkWhやPJはそこまで増やさなくて済むのです。ドイツのエネルギー政策は本来そういう目論見で考えられていたはずなのです。

省エネ対策を怠り、再エネと系統、柔軟性の整備を怠った結果、エネルギー源としてのガスの重要性が増してしまい、ロシアにつけ込まれる、という痛恨の結果になりました。

ただ、あえて言えばドイツのガス消費がEUに占める比率は20-25%なので(もちろんとても大きいですが)、ドイツだけが頑張っても解決しないことも残念ながら事実です。ドイツは自らを犠牲にする覚悟で(本来はCDU、SPD議員とエネルギー関係者に責任をとって欲しいですが)、EUのために動く必要はあります。こう言うとドイツ擁護と言われますが、個人的にはそういうつもりはありません。なんせ(ロシア産)ガスを広めたのはドイツと言う側面は事実ですから。ドイツはもっとできる限りのことを検討すべきだと思います。

最後に

ドイツが失敗したことは明らかとはいえ、私は失敗の根本は再エネ政策よりも1970年代から始まる住宅等の建築政策(ガス暖房推奨)によるところが大きいと思っています。

再エネ推進はこれまではどちらかといえばその悪影響を相殺する手段として機能してきたと言えます。
少なくとも過去10年、本来学術的に求められる(経済的にも)実施可能な政策を丁寧に実行していれば、短中期でも1次エネルギーにおけるガス需要増や、さらにはロシア依存強化を避けてエネルギー転換を推進できていたはずなのです。電力でもガス発電の発電量を2025年ころを目処にピークアウトできていた可能性はあったわけです。
今のエネルギー高騰を考慮すれば、同じくらいのコストで遥かに良い結果を出せていたはずです。(電気代は今もヨーロッパで一番高いですが)

「ドイツは失敗した=ドイツの再エネイケイケは失敗した」と考える人が多いようですが、データを追う限りは別の見方もあります。

ドイツは省エネと再エネを進める本来のエネルギー転換を怠ったという失敗です。

おそらく再エネを推進しすぎたもしなさすぎたも、どちらもそれなりに説得力があります。もちろん日本とドイツは違うので、日本は、本来ドイツが目指していた政策を実現すべきとは言いません
しかし、「ドイツから学べることは再エネを慎重に少しずつ増やすことだ」は違う気がします。むしろドイツの2010年代後半はブレーキを踏みすぎたことが失敗だったからです。

エネルギー政策は電力だけでなく、あらゆる面に及びます。ドイツのエネルギー政策シナリオも、電力や産業、エネルギー以外の形で使う化石燃料の消費も分析しながら作られています。

こういうとドイツも原発を進めるべきだという意見もあると思います。私はこれを皆が納得できるよう否定することはできません。さらに言えば、脱原発よりも脱石炭を先にやるべきという指摘はわかります。ただし原発を維持推進する困難さもわかっています。
私自身は再エネを積極的に推進することが大事で、脱原発は再エネ推進の政治的なツールの1つになるし、脱原発によって結果的にカーボンニュートラルが早くなる国もあると思っています。ドイツはその1つです。

以下のグラフはEU27カ国の原発の容量と原子炉の数の推移です。

画像22

フランスも含め、1900年にはピークを迎えて2000年ころには数も容量も減り始めています。
こちらは新設と停止した原子炉を1960年から示しています。

画像25

EUは27カ国ありますが、原子力政策を持っているのは15カ国です(建設中の原発だけの国も含む)。
特に、西ヨーロッパの原子力の発電量は2000年をピークに減少比率は容量の減少幅よりも大きくなっています。つまり、西ヨーロッパの原子力の減少は福島第一原発事故の前から始まっている構造的な問題です。

画像23

その結果、稼働開始後30年以上の原子炉が106基中89基となっています。

画像24

これはドイツではなくEUの現状です。

つまり、原発は「建てたほうがいいと知っていても建たないもの」であるという現実を認めることが必要です。私はタクソノミーをもってしても、この30年前から始まった構造を変更することは容易ではないと思いますし、それはフランスでも同じです。フランスが2050年までに17基新設する話は一見解決策に見えますが、現在の計画では原発の容量は純減します。

そしてEUはタクソノミーでも原発を過渡的な電源と位置づけ、2045年までに計画が承認されているもの以外は投資を推奨しないとなっています。(あくまで投資の推奨なので、原発禁止ではないですけど)

ドイツも1990年代には原発の新設が非常に困難なことに気づいていました。

気候変動政策の実現手段として、ヨーロッパのどこを見ても建設が困難な原発の新設は諦め、再エネの推進をすることにしたのはそれなりに合理性があるのです。(ただし、既存原発の活用については政策は二転三転しますが)。

そして今、フランスは老朽化する原子炉で問題が起こって供給力に支障が出ています。(良いか悪いかは別として)ドイツは石炭の電気をフランスなどに(ドイツ・ベルギー連係線も含めて)10GW近く輸出し続けています。もちろんフランスも老朽化した原発を修理し、フラマンビル3号機が稼働すれば危機は脱します。しかし、老朽化する原発を今後も維持するには、常に不具合発覚で計画外の長期停止のリスクと隣り合わせの安定供給を強いられます。だからフランスは洋上風力を50ヶ所、太陽光を100GWという目標も掲げているのです(原発新設は時間がかかるしそこまで増やせないことを理解している)。

ドイツを批判する際には、脱原発によって再エネ建設を加速化し、脱原発や減石炭の中でガス消費を大きく増やさずにこれた点は正しく評価すべきであり、原発は建たない、原発は今般の危機で役に立っていないという現実と向き合うことも必要です。

日本のエネルギーに関心を持ってこれを読んでくれた方に言いたいことは、結局「省エネ建築推進は最優先課題である」ということと、ドイツはそこで失敗したということです。

ここではあえて論点としなかった点も多くあります。市場メカニズムとエネルギーシステムの違いの話、スポットと先物の違い、系統対策の遅延、柔軟性の課題など、思いつくだけでも色々ありますがいずれ別の機会にでも。

ありがとうございます!