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【前世の記憶】タイタニック号沈没事故の瞬間を語りだす息子

アメリカ・ウィスコンシン州。

スーザンは前の結婚で長女を産み、18年後に現在の夫ジョンとの間にジェイミーを儲けた。ジェイミーは生まれた時から手がかからず、笑顔の絶えない子だった。

家族皆が泳ぐのが好きなため、自宅にはスイミングプールがある。しかしジェイミーは階段から先に進もうとしない。抱っこして水の中に入ろうとするとパニックを起こし、浅い場所へ連れて行くように懇願した。深いところでは怯えていた。

長女ティールはジェイミーの一連のことが始まった時、すでに大学生だった。法心理学者のティールは言う。

親が泳ぐのが好きなら普通の子は自然と水に適応し水が好きになる。家族皆が泳ぐのが好きで、ジェイミーには水に関するネガティブな経験もないはず。それにもかかわらず彼は最初から水を嫌がったためその原因が分からなかった。

ジェイミーが3~4歳の頃のこと。自転車の練習に付き合った時、ママが青い自転車に乗っているのを見たと言う。ティールが写真で見たのかと聞くと、「違うよ、窓越しに見下ろしたときに見えたんだ。」と言った。

実際スーザンは5歳くらいの時に青い三輪車に乗っていたと言う。が、そのことをジェイミーに話したこともなければ青い三輪車の写真もない。ジェイミーはその姿をよく見ていたと言うのだ。どういうことかと聞くと、彼は少し憤慨したように言った。

「天国に窓があるんだよ、ママ。」

ジェイミーには小さいころから少し英国なまりがあった。彼には言語障害もあったためそのせいだろうと家族は思っていた。

そのうちジェイミーは専門用語を話し始める。左右を示すのに「Port」と「Starboard」を使うのだ。訂正しようとしても聞かず、「Port」と「Starboard」以外の言葉は使わなかった。この時も家族はテレビで見たものに夢中になっているのだろうと思っていた。

4~5歳の頃、ジェイミーは悪夢を見るようになる。眠りについた後に何かをたたく音がしたかと思うと突然走りはじめるのだ。家族や周囲の者に目もくれず、パニックになりながら逃げるかのようにひたすら走った。かなり困窮しているように見え、家族も途方に暮れた。

医者からは夢遊病だろうと言われるが、繰り返される悪夢に家族は動揺する。悪夢と簡単に言うが現実は恐ろしいものである。しかしこれは始まりに過ぎなかった。

息子を起こさないようにアドバイスされていた家族は、ただそれを見ているしかなく、つらいものだった。就寝につき眠りに落ちるところまではいいのだが、しばらくするとたたき始める音が聞こえる。汗をかき、泣いて叫び声をあげ、悪夢が終わる頃には彼のパジャマはぐしょぐしょに濡れていた。そしてベッドから飛び出し廊下を走るのがパターンだった。

いつまで続くのか、終わりがあるのかさえ分からない状況に、スーザンは無力さを感じる。悪夢を見ている時に話すのは、水、溺れる、下を通るといったことだった。

スーザンはこれらに関係している何かがあるはずと思うようになる。ひどいトラウマとなる何かの記憶を持っていて戦っているのではないかと。

これに対しティールは家族に落ち着いた方がよいと助言する。心理学者の彼女は悪夢はよくあることだと知っていたからである。 

ジェイミーが4歳の頃のこと。家族は外出しジェイミーはベビーシッターが見ていた。家に帰ると彼が映画「タイタニック」の後半を観たことが分かる。家族としては余りうれしくないことだった。

その翌日、ジェイミーはタイタニックの絵を何度も何度も描く。2週間の間に約50枚は描いた。

スーザンは最初、映画を観たせいだろうと思っていた。とても感情的になる映画だからである。ところがその後も彼はどこへ行こうが、ノートブック、学校、紙のランチョンマットなどにタイタニックを何度も何度も描き続ける。憑りつかれたかのように描き続ける姿は家族を動揺させた。

その中の何枚かは大人が描いたもののようだった。ある絵には100以上の窓が描かれ、鉛筆一本で船の全ての階層が描かれていた。まるで船を半分に割って、中の全てが見えるかように。

ジェイミーはこの船を知っている。心で記憶しているのだとスーザンは確信する。タイタニックの映画を観ただけでこれは描けるものではない。それに映画のメインはラブストーリーだ。

そして彼は事故そのものについて話すようになる。彼はボイラールームの人々が閉じ込められて最初に亡くなった事実に対し、それが自分のせいであるかのように完全に取り乱していた。

事故は起きるべきではなかった。ミスがあり、それは手抜きによるものだった。ボイラールームの人たちは閉じ込められずに済んだはずだ、と言って泣いた。それはスーザンにとっても悲しく辛いもので、息子と一緒に泣いた。

ジェイミーのタイタニックの悲劇への執着は明らかにひどくなり、ティールはセラピーの必要性を考える。もしかしたら映画でトラウマを受けたのかもしれない、そして絵を描くことで解決しようとしているのかもしれないと。しかしそれも説明がつかない。近年の子供たちはもっとさまざまなことに触れているのに、100年前に沈んだ船に動揺するものだろうか。

彼には船について相当の知識があった。その関心のレベルも何か深いつながりがあるに違いないと思えた。

スーザンは輪廻転生を常に信じていたため、人生は一度きりではないという考えに抵抗はなかった。彼女はジェイミーが言った言葉を集めジャーナルを作る。

そして徐々に息子はタイタニックに乗っていたのに違いない、それ以外にこの船についてこれほど知り尽くせるはずがないと確信するようになる。

ジェイミーは5歳の頃から、船を造る時ミスがあったことを主張していた。鋼を使う代わりに鉄を使ったことが間違っていたのだと。5歳児が母親にこのようなことを話していたのだ。

船が氷山にぶつかった時、ボイラールームにいた人達は非常ドアに閉じ込められた。

「彼らは最初に亡くなったんだよ、ママ。分からないでしょ。」

と言ってジェイミーは泣いた。 

スーザンが「ハニー、分かるわよ。」と言うとジェイミーは

「ノー、ノー、ママには分からない!起こるはずのない事故だったんだよ。彼らはあんな風に死ななくて済んだんだ。あれはミスだったんだ。」

と泣き叫んだ。

スーザンはもしかしたらジェイミーは前世で船の製造にかかわっていたのかもしれないと思うようになる。

一方でティールは母親と真逆で前世を信じなかった。特定のことに夢中になる子供はたくさんいる。特にハリウッド関連では。スターウォーズはある世代の子供全員がハマったが、だからといって前世と関連付けようとは思わない。

これに対しスーザンはジェイミーが知る船の詳細について指摘する。ティールが反論を唱える度にジェイミーの奇妙な言動は度を超すようになり、彼女もどちらが正しいのだろうと考えるようになる。

ジェイミーは4つの煙突を描き、そのうち煙が出ているのは3つのみ。スーザンが残りの一つが機能していない理由を聞くと、当時4~5歳のジェイミーは言った。

「4本目のはダミーの煙突だよ、ママ。見せかけだけなの。」

と言う。

見せかけだけとは?

スーザンが聞き返すと、彼はこう説明した。

「本物じゃないから使ってないの。煙突は3本しか必要なかったんだけど、4本の方がいいと思って造られたんだ。」

もちろんスーザンはそんなことは知らなかった。数年後にタイタニックのドキュメンタリーを見るまでは。

スーザンは息子に記憶を語ることで落胆してほしくなかった。言いたいことを内に秘めてほしくないと考えた両親は、あえてタイタニックのコンピューターゲームをジェイミーに購入する。

ティールにとっての転機は、ジェイミーがこのゲームをもらった時。ゲームの概要は、船が沈むのを止めるために、質問に対するさまざまな手がかりを船全体から探さなければならない。船にいる自分が視点なため、上から見下ろしたり他の場所からの視点はない。

ある質問は特定の場所に行くというもので、ジェイミーは「ポートに行って」と強調した。ティールが「こっちに行って探してみない?」と言うと、「ノー、ポートに行って」と主張する。それに従って進むと、迷うことも探すこともなくまっすぐに目的地へ到着した。ゲームの目的は船全体を通して探すことであるが、彼は目的の部屋がどこにあるかを正確に知っていた。前準備も何もすることなく。

これにティールは衝撃を受ける。たとえその位置を地図上で知っていたとしても、自分のいる場所を視点として迷わず進んでいくことはできないだろう。説明がつかない。この時だった。ティールが違う観点から見るようになったのは。

ジェイミーがタイタニックの記憶を話し出してから2年が経とうとしていた。両親は彼が前世で誰だったのかを知ることは、彼が経験している一連のことへの終止符になると信じ調べ始める。最初は誰にも行きつかなかったが、タイタニック及びその歴史を学ぶうちに、ジェイミーは設計者の一人、トーマス・アンドリューズだった可能性が高いことが分かる。

ジェイミーは造船について大きな興味を示した。トーマス・アンドリューズはホワイトスターラインの船をいくつも設計していた。ホワイトスターラインとは、タイタニックを所有していた海運企業。彼は自分が設計に携わった船の処女航海には全て同行した。

そしてタイタニックが沈んだ夜、彼はライフボートに乗らない選択をし、船とともに沈んで行った。

トーマス・アンドリューズは主任設計士で、JPモーガンと対抗した一人でもある。彼はタイタニック号には十分な救命ボートがないと主張したが、聞き入れられなかった。企業は特定の日までに仕上げようとしていたため、あまり注意深く造られなかったのだ。

トーマス・アンドリューズは鋼を使いたがっていたのに対し会社は鉄を使った。鋼ほどの強度を持たない鉄は氷点下ではもろかった。それが文字通り粉々になったもう一つの理由だ。

救命ボートの数が足りないことを十分に知っていた彼は、嫌がる人々をせきたてて、できるだけ詰めて救命ボートに乗せようとした。生存者の証言から、彼は周囲の人の安全だけを考えて、英雄的な死を迎えたことが分かっている。

タイタニックの展示会がシカゴで催されると知り、スーザンはすぐにチケットを買う。ジェイミーを連れて行くべきだと思ったのだ。彼の症状はますます激しくなっていた。もし展示会で実際に存在するものを見れば、憑りつかれたようには執着しなくなるかもしれない。

展示会にはたくさんの骨董品があり、ジェミーはその一つ一つの詳細を見ていた。他の子供たちが普通に見て走ったり遊んだりするなか、彼はディスプレイにあるひとつひとつの部品を吟味する。彼は息もつけないくらい震えていた。

スーザンは展示会で何らかの変化を望んでいた。ある夜、ジェイミーが寝ついた後、母はテレビを見ていた。すると突然、ジェイミーの部屋の壁から大きな音が聞こえる。それは一定のリズムのように、バン、バン、バンバン、と聞こえた。

走って彼の部屋に行くと、彼はベッドに座り床を見つめ、まるで痙攣を起こしているように激しく震えている。怯えた母は息子を揺さぶるべきか、どうしていいか分からずにいた。

すると彼は叫びだし、その時の恐怖におののいた声は説明のしようがないとスーザンは語る。

そして彼は「彼女を潰す」と言った。それはとても少年の声とは思えない、成人男性のものだった。

スーザンは泣き出しジョンに電話をかける。タイタニックの展示会で刺激を受けたのに違いない。前世で死の間際に見たものを目にしたのだから。

しかしその後2週間ほどタイタニックのことを話していたものの、徐々にその頻度は減り、自然と話さなくなっていた。あれほど何年も続いたジェイミーの症状はついに終止符を打ったのだ。家族は自然な成り行きに満足している。

ジェイミーは19歳になっていた。

「今大学で3Dモデリングとコンセプトアートのアニメの勉強をしてる。子供の頃いろんな理ににかなわない記憶があった。タイタニックは自分の家と同じくらい馴染みがあったよ。前世はトーマス・アンドリューズだったと思ってる。彼の気質とか彼がやったことは僕がやったであろうこと。彼は自分が犠牲になり他人を船から脱出させた。あれは歴史上悲惨な出来事だった。自分がタイタニックで死んだと知ってても今は安心したような気持ち。タイタニックは常に自分の一部だけど、今は現世を生きている。もうあの事故が自分のせいだなんて感じてない。」

スーザンはこの経験はジェイミーに将来何だってできるという希望を与えたのではないかと思っている。


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