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【超能力捜査】史上初・事件解決で法廷に立ったサイキック

1987年6月、アメリカ・ルイジアナ州の小さな町。アンドレ・デイグルが仕事に現れず、突然姿を消した。

母親から連絡を受けた兄クリスは、毎日家族の誰かしらと連絡を取っていた弟と連絡が取れないのはおかしいと感じる。加えて、彼がペットに食べ物や水を与えずに家を空けるとは考えられないと思った彼は即警察に連絡する。

しかし27歳の男性の行方不明を警察は事件だとは受け取らない。直感で家出ではないと思った家族は、自分達の手でポスターを作り、探し始める。

アンドレが消えた夜、彼は親友ニックと一緒にバーへ出かけ、ビリヤードをしていた。ニックによると、テルマという女性がアンドレに言い寄ってきて、二人はしばらく話をしていた。テルマが家まで送ってほしいと言うので、アンドレが送っていくのを見たのが最後の姿だと言う。親友の姿を見るのがこれが最後とは思うはずもなかった。

ニックは、テルマが顔を隠しているように見えて、少し変にも感じたものの、その時は特に何を疑うわけでもなかった。

4日経過するが、何の手がかりも見つけられない。カリフォルニアに住む姉エリーゼが超能力者の元を訪れる。

ローズマリー・カーはカリフォルニアに住む超能力者で、行方不明者を探すことができると言う。彼女は4 歳の頃から不気味なほどの正確な心霊視力を持っていた。

彼女はエリーゼに、アンドレの写真とルイジアナ州の地図を持ってくるように言う。ローズマリーは一度もルイジアナ州へ行ったこともなければ、デイグル家の人々に会ったこともない。

「その写真を見る必要はありません。指で触れた瞬間に振動を感じるからです。いわば、点字を読むような感覚でしょうか。対象者とコネクションができ、周囲の人は皆消えてしまうんです。」

ローズマリーのコネクションは即座に起動し、かつ深い。

「写真に触れた瞬間、目の裏で全てが見えるんです。私はエリーゼに言いました。アンドレが黒い車に乗っているのが見えます、と。すると彼女は、『弟は小さめの明るい色の車に乗ってます』と否定しました。でも私は黒い車で追求しなくてはいけません。それがアンドレが私に見せてくれているものだからです、と言いました。」

エリーゼは弟が最近、黒いピックアップトラックに買い替えたことを知らなかったのだ。

ローズマリーは地図上でルイジアナ州にフォーカスする。

「地図を指でなぞると、指の振動がそこで止まります。振動が止まったところで目を開け、その場所を知っているかとエリーゼに聞きました。彼女は知っていると言います。『それなら今すぐに行動を起こして。今すぐに、素早く。ここが今行くべき所です。ここで弟さんの車が見つかります。居場所も分かります。』と言いました。」

ローズマリーが指摘した町は、ディグル家から30分ほど行った町。

家族は1日中アンドレを探した後、家に戻ってきたばかりで、翌日はどうするかを話し合っている最中だった。

そこへエリーゼからの電話で、超能力者が指摘した場所を知らされる。

兄クリスは言う。

「家族皆に衝撃が走り、鳥肌が立っていました。魂がそこを通過したような感覚です。肩を叩かれたように感じました。探私達に、探しに行かなきゃいけないことを知らせるために。」

クリスたち家族は、すぐさま指摘された町へと向かう。行方不明のアンドレの魂のガイドのもとに。

ローズマリーは、家族にアンドレと話すように言う。その理由を聞く家族に彼女は、コネクションをオープンにしたいと言った。

クリスは言う。

「アンドレと会話をしました。彼は怖がっているはず。というか、弟が生きているかさえ分かりませんでした。ただ、家族はここにいるよ、ということを伝えたかったんです。」

するとクリスがアンドレのトラックが目的の町に向かって走るのを見つける。一度追い越してチェックしたが、側面の傷から弟の車に間違いない。しかし運転していたのは見知らぬ男だった。

ローズマリーは2000マイル(約3200km)も離れた場所から、どのように車の場所が分かったのか。アンドレはどこにいて、車を運転しているのは誰なのか。

クリスは別の車に乗っている妹に向かって叫ぶ。

「降りて母さんに電話して。 警察に電話するように伝えて。 この道路の位置と東に向かうことを伝えてくれ。」

クリスは30分ほど追跡していた。すると突然、トラックは人気のない路肩の行き止まりに停車し、向きを変え、こちらへ向かってきたかと思うと、エンジンを切りライトも消える。

「おかしいと思いました。男達は私たちが追跡していることを知っているはずです。」

その間兄弟たちは、車のドアを開けて盾として使用し銃を構える。親友のニックは近くのバーへ駆け込み警察へ通報する。

トラックはクリス達をチェックするようにゆっくりと横を通り過ぎると、再度走り去る。

そのすぐ後に現れたのがパトカーだった。クリス達は叫んだ。

「あのトラックを追ってください!弟の車です!弟は行方不明です。あの男達を停めて下さい!」

そこからハイスピードの追跡が始まり、盗難車の疑いで警察がトラックを停めた。

クリスは男達へ近づくと言った。

「弟はどこだ?彼に何をしたんだ?どこなんだよ!」

もちろん彼らは答えない。が、2000マイル離れたカリフォルニアにいるローズマリーは、その答えを知っていた。

彼女はその時のビジョンをこう表現する。

「自分の頭を抱えながら、どんどん大声になっていくのを感じました。頭部が死ぬほど痛い、と叫んでいました。鈍器で繰り返し殴られているような痛さです。それを感じた時、違うモードに切り替えました。もうこの世にいない人を探しているのだと確信したからです。」

彼女は生死の情報は自分の中に留めた。姉エリーゼも弟が生きているかどうかは聞かなかった。

「私はこの世のパイプ役に過ぎません。適切な方法で処理されるには、警察を通さなければいけません。」

警察は即座に動いた。

アンドレのトラックを運転していた男達は、チャールズ・ジェヴェ24歳と、マイケル・フィリップス21歳。二人には自動車盗難の罪状が出る。二人とも初犯ではなかった。

取り調べでは、二人は罪を認め、残忍な殺人を自供する。

男達はテルマという女性と共にアンドレをアパートに連れ込み、彼のトラックにあったハンマーで変わるがわる彼を殴った。

その動機は非常なものだった。彼らの計画は、ある売春組織を運営している者達を殺して組織を乗っ取ること。そのためには、本当に人を殺せるか試さなければいけない。そこでバーからテルマが連れてきた男を誰でもいいから殺すというとんでもない計画を企てたのだ。

テルマはターゲットを探すためにバーへ行った。不幸なことに、それがアンドレだった。アンドレは間違った時に間違った場所にいた。それだけだった。そして犯罪組織のリハーサルとして殺され、沼地に捨てられた。

警察は遺体を見つけ、二人の男達は第1級殺人罪で起訴される。令状はテルマ・ホーン21歳にも及ぶ。

警察はデイグル家に、末っ子のアンドレの死を伝えなければならなかった。

クリスは言う。

「アンドレが死ぬなんて夢にも思わなかった。でも少なくとも、彼を見つけられ、犯人も捕まりました。」

しかしこれで終わりではなかった。例え二人の男達が自供してても、無罪を主張できるのだ。被告が立証せず証言しない場合、陳述を使用することはできない。

ただしルイジアナでは、無罪の訴えは死刑につながる可能性がある。そのためジェヴェは罪状を認め、無期懲役の刑を受ける。しかしフィリップスとテルマ・ホーンは、無罪を主張し裁判を選んだ。一か八かの賭けに出たのだ。

フィリップスは警察が既に事実を把握していることを知っていたが、自身の関連が少ないことを訴えかけようとしていた。

この捜査の責任者の一人がギャリガー刑事。クリスから超能力者のことを聞いた彼は、ローズマリーに電話をかける。この電話が警察と法廷の歴史を変えることになる。

ギャリガー刑事は言う。

「彼女はアンドレの写真に触れると、頭部の痛みを感じると言いました。私は捜査から彼が頭部を殴られて死亡したことは知っていましたが。」

解剖結果によると、彼は11回殴打されていた。

遺体発見現場の話になると、ローズマリーは言った。

「自分より右側の高い所にフリーウェイか車道が見え、またそれを感じました。線路が反対側にあるのが分かりました。そこには沼地がありました。7という数字がとても強く入ってきます。」

ギャリガー刑事が遺体発見現場に戻ってみると、その正確性に驚く。

「この車道に来るには、7番出口で高速を降りる必要がありました。彼女は長い橋も描写していたのですが、後ろに55号線道路があります。これは24マイル続き、沼地にかかっていて橋のようになっています。彼女はアンドレは水に囲まれていると指摘していましたが、このとおり沼地がすぐ横にあります。彼女は詳細な情報をたくさん知っていました。私達から得た情報でもメディアから得た情報でもありません。驚きました。彼女と話した後に、超能力を信じるようになりました。」

しかし、超能力者のビジョンは法廷でも通用するのだろうか。ルイジアナ州の検察官、W・Jレブランクは、ローズマリーの証言が鍵だと言う。

「証拠の観点では、オフィスにも裁判中に超能力者を使うことに過敏な人もいました。私の観点は、彼女は事実証人であり、彼女が見たことが第三者から他の第三者に伝達された。そしてそれが逮捕につながった、ということです。」

*アメリカの法廷における「証人」は大きく分けて二つ。「fact witness事実証人」と「expert witness専門家証人」である。事実関係について証言するのがfact witness、事実証人でありexpert witness専門家証人は専門的な立場から意見を述べる証人を指す。

この残忍な殺人事件は、新聞の第1面を飾る。しかし本当に世間の注目を浴びたのは超能力だった。

このケースで裁判所速記官だったボイド氏は言う。

「このケースは、犯罪化学において超能力者との関わりは、重要な手段ということを確立しました。10年の私の経験の中で最も素晴らしく、驚くべきことでした。」 

アメリカ史上初めて超能力者が証人台に立ち、彼女のビジョンがいかに事件解決に役立ったかを述べることとなる。ローズマリーは、不安やプレッシャーなどは全く感じなかったと言う。

1988年2月2日、裁判が行われ、残忍な殺人の詳細が語られた。

1987年6月9日、アンドレはバーで、親友ニックとビリヤードをしていた。彼はそこでテルマという若い女性と出会い、家まで送ってと頼まれる。テルマはフィリップのガールフレンドだった。

アパートでは、ジェヴェとフィリップスが待ち伏せしていて、アンドレのトラックのツールボックスにあったハンマーで襲う。そして掃除機のコードで首を絞めた。遺体をカーテンに包むと、カウチの後ろ部分に閉じ込める。次の日の夜、2人は遺体を沼地の土手道の下に遺棄した。

2人の男に対する証拠は説得力のあるものだった。そして検察官がローズマリーを証人台に呼ぶ。

裁判所速記官だったボイド氏は言う。

「驚いてペンを落とす人もいました。それくらい皆彼女から目が離せない状態でした。」     

ローズマリーは、自分のビジョンがどのようにアンドレの車に導いたかを法廷で語る。

フィリップスは有罪を認めた。

州の検察官、レブランク氏は言う。

「彼が電気椅子に直行なのは明らかでした。証拠が圧倒的だったのです。」

陪審員は証人全員の言葉にしっかりと耳を傾けていた。

ギャリガー刑事は言った。

「ローズマリーからの情報なしでは逮捕できませんでした。アンドレが身元不明遺体になった可能性もあったでしょう。」

のちの裁判で、テルマ・ホーンも殺人を幇助したとして、第二級殺人で有罪の判決が下される。3人全員に無期懲役が言い渡された。

クリスは言う。

「アンドレは素晴らしい弟でした。人生が短縮されてしまったけど。ローズマリーの2000マイル離れた場所からあちらの世界とコンタクトを取る才能には驚かされました。」

ローズマリーはかなりの有名人になり、テレビ番組「サイキックウィットネス」や「サイキック探偵」に出演したり、彼女について話しているトークショーに出演した。2015年に80歳で亡くなるまで、その特殊能力を使って行方不明者の捜査に尽力を尽くした。




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