見出し画像

【前世の記憶】エンパイアーステートビル飛行機事故で犠牲になった過去



アメリカ・ペンシルベニア州・ピッツバーグ。カレンにはクレアという娘がいる。

カレンが妊娠中、妹が電話してきてテレビをつけるように言った。その日は9月11日。同時多発テロが起こった日である。飛行機がピッツバーグに墜落したと聞いた妹が、姉の身を案じての電話だった。

その3ヶ月後、カレンは出産し、母子ともに危険な状態に陥ったものの無事に育っていく。クレアは歩き始めた時期など、他の子よりも発育が早かった。彼女は2歳ごろから不思議な一面を見せ始める。

カレンはクレアのことをベイビーと呼んでいた。もちろん名前でも呼ぶが、クレアは名前で呼んで欲しくない、ベイビーと呼んでほしいと言い出す。

3歳になった時は3という数字が大好きだと大喜びしたが、4歳になることを嫌がり、それ以上、年を取ることを頑なに拒んだ。

彼女はずっと赤ちゃんのままでいたいと言う。名前で呼ばれたくない、二度と成長したくないと、すすり泣くことさえあった。

クレアが8歳の時、テキサス州の妹を訪れることにする。最初は大喜びしていたクレアだったが、急に自分は行きたくないと言い出す。

そして飛ぶのが怖い、飛行機が怖い、と怖がった。クレアは飛行機には一度も乗ったことはない。

カレンは、バスに乗るのと同じような感覚であること、雲が見えることなどを説明するが、クレアは聞く耳を持たない。普段は高所から滑り落ちる乗り物も怖がらない子なのにである。

カレンは聞いた。飛行機で何が起こると思っているの?と。娘の答えにカレンは衝撃を受ける。彼女の飛行機に対する恐怖は凄まじいものだった。

クレアは飛行機が建物の横から衝突し、打ち砕かれたことを語り始める。そして自分はその建物の中にいたと言うのだ。飛行機の一部が壁を打ち破ってくるのを見たと。

もしかしたらテレビで目にしたシーンなのかもしれない。毎年9月11日になるとテレビでその時の映像が再生されるから・・。あるいは、クレアを妊娠中に911テロがありショックを受けたため、それが影響したのかもしれないとも考えた。

それからも、クレアはニューヨークシティのオフィスで働いていたことを話し続けた。カレンはクレアから聞いたこと全てをメモし始める。

クレアは実際に起こっているように感情的に話し、現実味を帯びていた。自分の髪は赤毛でウェイビーだったと言い、その髪をお団子ヘアにしていたことも覚えていると言う。

彼女が描写する服装は1950年代のスタイルのように思えた。カレンは限られたテレビ番組しか見せていなかったため、娘は1950年代の服装をどこで見たのだろうと不思議に思う。

クレアはオフィスの中の炎のことを語り始めた。人々が半狂乱になっているところまでは覚えているが、その後に何が起こったかの記憶はないと言う。思い出したくなさそうでもあった。

そこでその建物について聞いてみる。カレンは娘が2つの建物を描写するものだと思っていた。どっちの建物にいたのかと聞くと、エンパイヤー・ステート・ビルディングだと言う。

カレンはニューヨーク・シティでのビルの崩壊は、911以外聞いたことがなかった。全てをメモに取ると、インターネットで何らかの情報を探し始める。

すると、実際に飛行機がエンパイヤー・ステート・ビルディングに追突した事実があることを知り、ショックを受ける。

1945年7月28日、アメリカ陸軍航空軍所属のB-25爆撃機が濃霧の中を飛行中に、エンパイア・ステート・ビルディングの北側、79階に衝突した。この事故により、14人(3人の乗組員全員と建物内の11人)が死亡した。

8歳の子供がこのような情報をどうやって語ることができるのだろう。作り話であるわけがない。彼女が描写していた服装もその年と一致していた。

カレンは娘には前世の記憶があるのだと実感する。彼女はクレアに自分がインターネットで見つけたことを伝える。それは彼女の記憶が本物だという証となった。

12歳になったクレアは言う。

「私が覚えているのはローズという名前と二人の子供がいたということ。エンパイヤー・ステート・ビルディングで働いてた時、飛行機の翼が私のオフィスに衝突してきたの。覚えてるのは衝突のことだけ。他の記憶はぼんやりしてる。」

前世で自分が誰だったか分からないことは、本人にとっては辛いものだった。クレアは、はっきり分からない事が怖かった、と言っている。

カレンの調べによると、前世の記憶を持つ子供は、事件現場を訪れることで更なる記憶が蘇ったり癒されたりする。

そこで母娘はNYのエンパイヤー・ステート・ビルディングに行くことにする。

クレアは言う。

「現場に行ったらフラッシュバックが起こるのか興味があるの。前世の自分を知ることは、現世の自分を理解するのに役立つかもしれない。」

カレンにNYに行くことへの迷いが全くなかったわけではない。現場に行くことで感情的な反応があるかもしれないし、何が起きるか分からないからだ。だが娘にエンパイヤー・ステート・ビルディング行きを提案すると、行きたいという答えが返ってきた。

クレアは言う。

「私には未回答の質問がある。その日何があったの?なぜ衝突したの?とかね。」

その回答を求めて母娘はニューヨークのエンパイヤー・ステート・ビルディングへ来ていた。事故当時クレアが居た79階を見られるのか、少し覗けるのか、近くには行けるのか、分からないが、トライするのみだ。

クレアはローズという名前以外には、アンという名前の記憶があるだけで、死んだ時の記憶はない。彼女は当時働いていた同僚の名前や自分が誰だったのかなど、記憶が蘇ることを期待していた。

建物の中へ入るとクレアは内装を覚えていると言う。美しい内装だ。しかし79階には入ることは許可されていないと言われてしまう。母娘はエレベーターで最上階まで上がる。

建物のタイムラインを探すが、事故の記録は一切ない。どこを探しても1945年の飛行機衝突で亡くなった人々のことは記されていない。

クレアは言う。

「小さな出来事なら記録に残さないと思うの。でもあの事故について一切の記録がないことに驚いたわ。」

母娘は失望する。

カレンは、事故の記録が忘れ去られたと言うよりも、消去されたように感じていた。

クレアは言う。

「でもあの事故は起こったの。ほとんどの人はあの事故が起こったことさえ知らない。でも私は知ってる。」

過去を消し去ることはできない。

事故機の残存燃料が少なかったことも幸いし、 建物への被害は少なかった。 事故の被害と人命の損失にもかかわらず、建物は48時間以内に多くの階で営業を再開した。

クレアは、ここで死んだかもしれないと感じていた。

新しい記憶が蘇ってこなかったことは残念だが、テレビのプロデューサーが、エンパイヤー・ステート・ビルディングで犠牲となった女性10人の名前と情報を見つけてくれた。

母娘はそのリストに目を通す。カレンが名前を読み上げていく。

「メアリーは飛行機の衝突で亡くなっている。アナの名前もあるわ。これはパトリシア。エレベーターから転落した女性もここにいるわね。そしてマーガレット・・」

クレアは一番馴染みがある名前はアナ・ガラッチだと言う。

アナはアイルランド人だった。前世は赤毛だったというクレアの記憶と一致する。そしてアナの母親の名前は記憶にもあるローズ。アナに二人の子供がいたこともクレアの記憶と一致している。

クレアの記憶の全てがアナの情報と一致した。全てが真実だったのだ。このことはクレアに癒しを与えただけでなく、記憶がただの想像ではなかったのだという安堵感も与えた。

クレアは言った。

「ずっと記憶の解明をしようとしてた。パズルのピースが一つになって自分が誰だったのか分かって嬉しい。」

その後、クレアの飛行機に対する恐怖はなくなり、今ではたくさんの旅行を計画していると言う。

カレンが言う。

「飛行機に乗ることに極度の恐怖感を抱えていた娘が、前世の解明という一つのことでこんなにも癒されるなんて。」

最後にクレアが言った。

「ママとニューヨークシティーに来れて良かった。おかげで飛行機への恐怖を克服できたから。これからの人生でもう苦しんだりしないと悟ったの。もう怖がらなくていいんだもの。」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?