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あの頃何を考えていたか

音楽を聴いている間は気が紛れる。
自分にとって音楽とは、その為のものだと言い切ってもいい。目に映るすべてを壊してしまいたい時、立ち止まってゆっくり人生を振り返りたい時、色んな邪魔や雑念から逃げる為に、音楽を聴く。

しかし、気を紛らわす為には気を引くだけの引力が必要だ。ただ曲を聞き流しているだけでは、停滞して鬱屈とした気持ちを動かすことはできない。メロディーでも、歌詞にしても、相手を引きずり込もうとしなければ、ましてや自分自身に問いかけた所で、人の心を動かすことなどできないのだ。内省的な思いをただ共感させるようなやり方ではなく、他の誰でもない私に聞かせてくれと願う。

先日、どこかの会社が出した新作のスピーカーの発表記者会見に、GLAYのギタリストであるTAKUROが出席しており、そのインタビューの様子がニュースで特集されていた。

**TAKURO、世界初“歌詞表示スピーカー”に感嘆「TERUも2台発注」 | ORICON STYLE http://www.oricon.co.jp/news/2078402/full/ **

そのスピーカーは、インターネットの歌詞サイトと連動する機能があり、曲が流れるとその歌詞がスピーカーのボディーに次々と映るというものだった。カラオケの歌詞表示のタイミングとよく似ていて、ワンフレーズごとにフォントや文字の大きさも変化していた。今までありそうでなかったそのスピーカーについてTAKUROはこう述べていた。

「テクノロジーが発展してゆく度に、楽曲中心の世の中になり、シンガーソングライターはどこか、 さみしさみたいなものを感じていた。そんな中、このスピーカーの存在は僕たちにとって大きな支えとなっていくだろう」

と語った彼の、ほっとした表情を見た途端に、何故か涙が噴き出してきた。歌という手段でたくさんの人の心を勇気付けてきた彼の誠実さはもちろん、たゆまぬ努力の陰で揺れる彼の脆さを、初めて感じたからだ。ギタリストであると同時に作詞家でもあるTAKUROの、言葉にかける思いの真摯さは、ここまで上り詰めたGLAYの絶えることない人気を支える大きな要因であるにも関わらず、彼は不安に揺らいでいた。

いかにしてやり過ごすか

私が中学生のとき、XJAPANに出会い、ファンになった。今でも一番好きなバンドだ。当時にはもうすでにHIDEが亡くなっており、バンドも解散したままで、YOSHIKIが亡霊のように音楽活動を続けていた頃だった。そんな中、同じような音楽のジャンルにグルーピングされていたGLAYにたどり着くのは時間の問題だった。

こうしてTAKUROの音楽に出会い、初めて「ALL STANDARD IS YOU」を聴いた時から彼の生む歌に影響されて生きてきた。単純に彼が書く詞が自分好みだった。なぜなら、彼の詞には、言葉と熱情を、いかにして「やり過ごす」か、という考え方があったからだ。ぶつかる事なく、遮ることもなく、逃げることもない。どうしようもないけどなんとかしなくちゃいけない。彼の歌にはそんな諦念のようなもの感じた。それがとても心地よかった。

思いきり人を傷つけてしまいたい
それでしか自分の存在を語れない
淋しい瞳を…どうかしてるだろう?
心の空洞もてあましてる今日のNEWS達
いつからか歯車が歪みだしたんだ
思うように笑えなくなっているんだよ
眠れるなら…もう疲れたろう?
目覚めれば夢より狂いだしたSTORY
夜毎悩まし気な声に殺されそうになる
足早に過ぎる何かを追い掛けた事が
一つの救いだった
ALL STANDARD IS YOU/GLAY

さらに、彼の詞は、暗闇の中に居ながら、幸せや、あたたかい光や、人として生まれた喜びを願い続けているようにも思える。言葉づかいや言葉選びのセンスは、その人がどんな風に感情と向き合ってきたかが影響すると思う。彼の歌詞には、彼の人生が反映されている。

前向きに生きたいけどできない、けどいつまでも暗闇に入り浸る自分が嫌いでしょうがない。酔ってるわけじゃない、ただ怖くて前にも後ろにも動けないだけだ。彼はそんなことを言っている気がした。中学生の時の自分には、まだ彼の言いたいこと1つも分かってなかったかもしれないけれど、TAKUROの焦燥感やもどかしさや悲しみが、身に覚えがあることばかりで、泣きたくなるほど感動したことを覚えている。

GLAYというロックバンド

GLAYは、2000年代の他のロックバンドとは少し違う存在だった。当時のロックバンドといえば、苦しみや世の中との軋轢や生きづらさのようなものを叫ぶスタイルのバンドが多かった。ロックを聞く人の為のロックというような、限られた世界に向けられたものだったように思う。そんな中GLAYは、ロックとかポップスとか、そんな境界を超えて、皆にとって聴きやすいメロディーと、わかりやすい言葉で、愛で支えられている世の中を歌おうとしていた。派手な風貌でありながら、やさしく正しくバラードを奏でる姿は、その当時の音楽シーンには新鮮な存在で、たくさんの人の胸を打つ存在だったに違いない。限られた世界で表現し続けるのではなく、できるだけ多くの人に伝わるべきなのだということは、TAKUROの音楽活動における哲学でもある。人は誰しも1人では生きていけないのだから、愛したり愛されたりして生きるべきなのだということを、彼は誰よりも願っている。

TAKUROが2003年に出版した自叙伝の「胸懐」では、

「人は結局、自分の幸せのために生きている。ただ、その自分の幸せは、周りの人間の幸せなしにはあり得ないのだということを、どれだけ心の深い部分で感じられるかどうかなのだと思う。」TAKURO「胸懐」

と語っていた。私はTAKUROの、やさしい所が好きだ。人間のあらゆる欲望の根源に、結局は、やさしい心があることを、TAKUROは信じきっている。そんな思いが歌詞の節々に滲み出ていると思う。どす黒く、どうしようもなく暗く、陰湿で、生きてるのか死んでるのかわからないような思いの中でも、きっと世界は美しいのだと、彼は希望を持っているように感じる。彼の曲を聞くたびに、どんな境遇に生きても人間は幸せになるべきなのだと、言い聞かされているようだった。

ALL STANDARD IS YOU

私は今でも、ALL STANDARD IS YOUを教えてくれた人を思いながらこの曲を歌う。自分にとって大切な一曲でありながら、最も忘れてしまいたい曲でもある。あの頃どんな気持ちで、どんなことに敗れて、どんなことを望んで生きていたか。もう10年以上経つけれど、驚くほど鮮やかに、悲しいほど明確に蘇る。

いつでもこの歌を、あの時の気持ちのままで、歌うことができる。今でも会いたいよ、抱きしめてほしいな。あなたの存在を強く強く思うことで、何にも怖くなかった頃があった。子供だった。失うことすらも怖くないと思っていた。失うということがどういうものなのかも分からぬまま、痛みとか苦しみとか後悔とか、何もかも分かったような気がして、何もかも受け入れられる気がしていた。今でもあなたを想わない日はない。あなたが残したこの歌を歌って、もうどうにもならないあなたへの想いをただ抱きしめている。

あなたの 優しさ降らない日はない
あなたの 夢を見ない日はない
あなたの 空が曇る日はない
あなたの 歌が届かない日はない
あなたの 温もり求めない日はない
あなたの 未来支えない日はない
あなたの 道を照らさない日はない
あなたの 笑顔に酔わない日はない
あなたの口唇に触れていたい
あなたの愛に そのものになりたい
どこかで失くした心のかわりに
全て引き受けるそれもかまわない
あなたの幸せ願わない日はない
ALL STANDARD IS YOU/GLAY


#GLAY
#TAKURO
#エッセイ

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