いつかのラストクリスマス #パルプアドベントカレンダー2022


 クリスマスソングが古びたスピーカーから流れ聞こえてくる。ノイズ混じりのメロディは物悲しい。かつては人々に溢れた広場も世界秩序の再編後は人気もまばらだ。私は広場の古びたベンチに座り電子タバコを吸った。
 「メリー・クリスマス!」
 小学生ぐらいの女の子がクリスマスの挨拶をした。なんの害もなさそう笑顔だ。
「はいはい、メリー・クリスマス」
 私は適当に挨拶をした。
「おじさん、せっかくのクリスマスなんだからもっと盛り上がろうよ」
「おじさんじゃない、お兄さんだ」
 私は女の子にお兄さんだと訂正させた。
「ほら、クリスマスツリーがとてもキレイだよ」
 そう言って女の子はクリスマスツリーを見せた。鉄パイプをデタラメにつなぎ合わせた異形のクリスマスツリーを見せた。
「あれがクリスマスツリー? 私の見たクリスマスツリーはもっと緑にあふれていたはずだ。そんなクリスマスツリーは見たことがない」
「もう、何年前の話をしているの?ネオンがとても綺麗だよ」
 そうは言っても鉄パイプに絡んだ電飾に美を感じる感性を持ち合わせていない私は電子タバコを一服することで言葉を濁した。
「……おじさんはロマンがないなぁ」
「私はリアリストなんでね」
 女の子は頬を膨らませて拗ねた。灰色の夜空に星の光が漏れている。まったく陰鬱な夜だ。
 女の子は広場の何処かに駆けていってしまった。私はクリスマスツリーと名乗る鉄パイプを眺めていた。風情も何もない鉄パイプの無骨な樹に電飾に輝くのは終末を感じさせた。
「まったくなんて世の中だ」
 私は思わず愚痴ったが虚空に消えていった。灰色の空を見れば雪が降り出していた。
「……雪か」
 目が細かい雪が降り注ぐ広場はどこかセンチメンタルに感じていた。
「あーっ! 見つけましたよ!」
 白衣の男たちが私の姿を見つけて駆け寄ってきた。やれやれ、厄介なことになったぞ。
「また病院を抜け出し、外で電子タバコを吸って! 探すのは大変なんですよ!」
 屈強なサイボーグ病院職員が私の両腕をロックし連行した!その動きは手慣れていた。
「まったく記憶チップをアンドロイドに移植したのはいいけど、電子タバコの喫煙癖が止まらなくなるとは思いませんでしたよ!」
 白衣ほ男は愚痴をこぼした。生身の頃の習慣を忘れられないだけだ。
 私はサイボーグ病院職員に連行され病院のバンに乗せられたのだ。まったくメンテナンスの検査入院は退屈で仕方ない。

【終わり】

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