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パリ、UNESCOユースフォーラムで感じた世界のユースコミュニティーの力

UNESCOユースフォーラムは2年に一度UNESCOの総会中に開催される、35歳以下のユース世代の参加者が加盟国の政府関係者と対話し、提言書を提示することで若者の声を世界の代表者に届ける機会です。1999年に始まり、13回目となる今回のユースフォーラムはパリのUNESCO本部にて、11月14日と15日(13日はアイスブレイキング)の二日間にかけて行われました。
 
今回のテーマは「気候変動の社会的インパクトと公平なクライメート・トランジションの必要性 (Social Impacts of Climate Change and the need to achieve an equitable climate transition)」で、このテーマに沿って8月から3ヶ月近くの期間、オンラインミーティングを通じて提言書の作成に取り組んできました。
 
私は参加者の中から選抜された運営委員会の一員として、フォーラム全体の構成の検討やUNESCOと参加者の橋渡しなどを行いました。今回のユースフォーラムは過去最多の140以上の国から170人ほどが参加しており、準備段階ではアジア太平洋、アラブ諸国、ヨーロッパ・北アメリカ、ラテンアメリカ、アフリカの5地域に分かれて活動を行い、私はアジア太平洋地域のミーティングの統括を手伝わせていただきました。東はニュージーランドやツバル、西はイランやトルクメニスタンにまで渡る、時差的にも文化的にも広大なアジア太平洋地域のメンバーをまとめるのは決して楽な仕事ではありませんでしたが、コアメンバーとして活躍してくれた参加者からの支援もあり、なんとか提言書をまとめ上げることができました。
 
長い準備期間を経てたどり着いたパリでのユースフォーラムは、活気に満ち溢れており、非常に刺激的なものでした。参加者は皆積極的で好奇心旺盛かつそれぞれの分野で業績を残してきている人たちばかりで、最初のうちは圧倒されかけました。しかし、話をしていくとそれぞれの生い立ちや遍歴など人間味のある部分が見えてきて、興味深く実りのある会話をすることができました。特に印象に残ったのは、アイスブレイキングで隣に座ったウクライナからの参加者との会話でした。学校の先生である彼の言葉の一つ一つは非常に重く、戦争の被害によりダムの決壊などの環境問題が起きている自分の国で、どうやって子供達に自分の周りの環境問題に意識を向けさせることができるのかという質問を突きつけられた時には、何とも答えることができませんでした。平和がある上ではじめて環境保全が考慮できるようになるという現実を今一度理解すると共に、人の心の中に平和のとりでを築くUNESCOの活動は、環境問題について世界が一丸となって歩みを進めていくためにも必要不可欠なのだなということを強く感じさせられました。

ウクライナからの参加者ミコラ・ポパディウク氏とアイスブレイキングセッションにて

フォーラムの二日間の内容としては、開会式と閉会式の他、参加者と各国のユース世代を担当する大臣との議論のセッション、提言書の最終確認、提言書の採択、UNESCO総会の代表への成果発表、UNESCOの各部門とのネットワーキング・セッション、そしてUNESCOの中期プランの草案に対するUNESCOの担当者と参加者の協議などがありました。これらの中でも特に白熱したのは、ユース担当大臣との議論と、提言書の採択の二つのセッションでした。
 
ユース担当大臣との議論は、約25カ国からUNESCO総会に参加している大臣クラスの代表者に対して、参加者の我々が提言書の内容に沿った質問をすることができる貴重な機会でした。私は運営委員会の一員であったこともあり、発言の機会をいただき、デジタルテクノロジーの活用に関する質問をさせていただきました。各国のトップレベルで活動をしている方々の声を直接聞くことができただけでもかなり充実した機会ではあったのですが、このセッションはそれだけでは終わりませんでした。

大臣とのセッションで発言する茶山

このセッションは、事前に用意されたいくつかの質問と、その質問への回答に対する参加者からの自由な質問の二段階に分かれていたのですが、基本的に大臣たちは用意された質問に対し、用意された回答を読み上げるだけで、我々参加者の追加の質問に直接答えることがありませんでした。これに対して痺れを切らせた参加者の一人が「真剣にユース世代のことを考えているならば何故我々の質問にしっかりと答えてくれないのか?原稿を読むだけならば、このセッションの存在意義がないだろう。」と声を上げると、会場は参加者からの拍手喝采に包まれました。大臣たちにとっては下手なことをいうことができないというプレッシャーと責任があるのは理解できるのですが、その現実をしょうがないと受け入れるのではなく、しっかりと声をあげていくという姿勢に感銘し、自らも見習わなければと感じさせられました。ただ、この発言があった後退席し、議論の場自体からいなくなってしまった大臣も何人か見られ、理想の追求と現実との妥協の難しいバランスを感じる機会ともなりました。ただ、大臣一人一人の発言に対し的確な回答には拍手をし、そうでないものに対しては静かな対応をすることで、発言という形以上に自分たちの声を伝え、影響力を高めていこうという参加者全体の強い意志を感じられる時間でした。
 
提言書の採択の議論では、国際的な場で幅広い意見を持つ参加者全員の同意を得られる文書を作成する難しさを感じました。運営委員会の一員として活動してきた私としては、オンラインで3ヶ月近く行われてきた協議によって練られた提言書に、参加者全員で目を通し小さな修正を加えて採択するだけの円滑な議論になると想像していたのですが、実際はオンラインのミーティングに様々な理由で参加できなかった参加者や、譲れない信念がある参加者の多くの主張が飛び交い、どう折り合いをつけるのかを考えなければならない非常に困難な話し合いでした。具体的には一つ一つの言葉のニュアンスや意味、提言の主張の強さなどの部分について激しい討論がなされました。結果的には予定よりも2時間ほど延長した議論が行われ、やっと採択に漕ぎ着けることができ、肩の荷が降りるのを感じました。ただ、やはり皆が納得できる提言というのは主張をある程度抑え、過激になりすぎない配慮をした表現が必要となってしまい、妥協はするが納得はできないというような意見を口にしていた参加者も多くいました。ここでも現実と理想の衝突が見られ、個人的には運営委員会の一員としてどうすれば良かったのだろうかという葛藤を感じたのも事実です。
 
 
イベント全体として、このユースフォーラムは国際舞台で活躍するために必要なものは何かということを考えさせられるものでした。それと共に、若者世代の我々は個人レベルでできることはそう多くなくても、ユースコミュニティーとして一丸となって活動をすることで大きな力を持つことができるということを実感することができました。そういう意味では、どうやって他の若者を自分たちの活動に巻き込んでいくことができるのか、次世代国内ユネスコ委員会でも考えていく必要があると感じさせられました。また、将来の活動という意味では、ヨルダンからの参加者と共にヨルダンにある世界遺産・ペトラ遺跡を活用した環境教育プログラムを設立するプロジェクト考案しプロポーザルを提出したところ、競争を勝ち抜き、ユネスコから資金・技術援助をいただけることとなりました。パリでの経験をもとに、様々な形で今後の活動につなげていきたいと考えています。

開会式の様子

【DATA】
イベント名:UNESCOユースフォーラム
日時: 2023年11月 13日(月)~ 15日(水)
場所:パリUNESCO本部
執筆:次世代ユネスコ国内委員(2023年11月現在)茶山健太