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アフターコロナの映画界はこうなった(映連データを読み解く2024ver.)

U-NEXT映画部の林です。映連から映画概況データが発表されましたので、昨年までと同様、この数字から気づいたことを書いていきます。コロナ禍真っ只中だった2年前はこの数字を元に、アフターコロナの映画界に思いを巡らせたわけですが…

アフターコロナが実際にやってきた2023年は、果たして映画界にとってどのような年になったのでしょうか。


公開本数は史上2位と完全復活

まずは公開本数から。邦画は史上2位の676本、洋画も史上5位の556本と2010年代後半の水準にまで戻り、合計1232本は過去最高だった2019年の1278本に次ぐ数字です。コロナ禍の一時的減少から完全に回復しました。

この数字、映画が娯楽の王様だった1950~60年代の量産体制下よりも大きく(当時のMAXは1961年の邦画535本+洋画229本=764本)、ヒットの二極化の「当たらない」側の映画も大量に産み落とされており、数字だけ見ると流石に供給過多なのかもしれません。ちなみに、日本よりも観客動員数が多いフランスやイギリスでの年間公開本数は、日本の半分程度で推移しています(コロナ禍前の安定した数字で比較)。

若干停滞の入場者数×料金上昇=合格ラインの興収に

入場者数もコロナ禍の1.4~1.5倍にまで回復して1.56億人に。ただし2010年代の平均は1.68億人で、その水準までには届いていません。

一方、平均入場料金は前年から22円増の1424円と過去最高値。IMAX、Dolby Cinema、4D等、ラージフォーマットの浸透に加え、大手シネコン各社が一般鑑賞料金を1900円から2000円に値上げした影響が出ています。ちなみに2010年代の平均料金は1288円でしたので、そこから10%アップしたことになります。

結果、入場者数の減少を単価の上昇でカバーし、年間興行収入は前年比104%の2214億円とコロナ禍前の水準に回復。2020年当時には「2000億円台に回復するまで10年20年はかかる」といった悲観的な声も多く聞かれましたが、映画界は見事、2020-21年のグラフの凹みを一時的な陥没に終わらせました。

ところで、改めて2つ上の入場料金グラフを見ると、2021年からベースが一段上がったことがわかります。後年にはきっと、コロナ禍きっかけの段差とされるのでしょう。歴史を振り返ると映画界は、TVに娯楽の王様の座を奪われ、絵に描いたような斜陽産業扱いを受けた時代もありましたが、入場料金の上昇で逞しく乗り越えてきました。年間動員数がピークだった1958年から、20年後の1978年までの変化を見ると、

年間動員:11.3億人→1.6億人(約1/7に
平均料金:64円→967円(約15倍に
興行収入:723億円→1605億円(約2.2倍に

と、当時の物価変動の影響を差し引いても、極端な値上げを行っています。映画館は昔、動く画を観られる唯一の場所でした。TVがその専売特許を鮮やかに奪い、ビデオが家での映画鑑賞を可能にし、スマホが面白映像をタダ浴びさせるようになっても、映画館は特別な体験ができる場所=アトラクションとして力強く残っています。

映画館側が「これくらいの料金なら取ってもいいよね」と設定したラインと、お客さん側が「これくらいの料金なら払ってもいいよね」と判断したラインがせめぎ合ってきた歴史が、この料金と動員数と興収の変遷に表れているのでしょう。

前高後低で推移した2023年

2023年の興行は前半が絶好調でした。特にGWの客入りは凄まじく、『名探偵コナン 黒鉄の魚影』(138.8億円/年間総合3位)『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(140.2億円/年間総合2位)で連日ファミリー層がひしめき合う劇場ロビーの景色は、コロナ禍の終了を強く印象付けました。結果、前半(22年12月~23年5月公開作)の10億円突破作品は24本でそれらの合計は952億円、後半(23年6月~11月公開作)は25本と本数は変わらないものの特大ヒットに欠け、669億円と若干物足りない結果に終わりました。

邦画は実写/アニメのバランスよく史上2位の好成績

洋邦別に見ると、邦画は前年からの高水準を維持。『君の名は。』が公開された2016年の1486億円に肉薄する1481億円で史上2位の成績を収めました。

邦画のTOP3は、『THE FIRST SLAM DUNK』(158.7億円/年間総合1位)、前述のコナン、そして『君たちはどう生きるか』(88.4億円/年間総合4位 ※上映中)と、3年連続でアニメ映画が独占し、相変わらずの強さをキープしています。

邦画における実写とアニメのバランスを見ると、実写が前年の12本から22本と大幅に10億円超え映画を増やして均等に。『キングダム 運命の炎』(56.0億円/年間総合5位)『ゴジラ-1.0』(55.9億円/年間総合6位 ※上映中)の2作品が50億円を突破しました。

また2023年は、『ミステリと言う勿れ』(48.0億円/年間総合8位)『劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(45.3億円/年間総合9位)『Dr.コトー診療所』(24.4億円/年間総合25位)等、TVドラマの映画版が改めて強さを見せつけました。TVの観られ方、使われ方は確かにここ10年で激変し、視聴率や広告収入額等の指標からその力の減退が指摘されていますが、SNS、TVer、有料配信サービスとの組み合わせによって、日本全国に影響を伝播させる初速はやはり桁違いのものを持っているように感じます。

非シリーズ作品としては、『わたしの幸せな結婚』(28.0億円/年間総合16位)『ラーゲリより愛を込めて』(26.7億円/年間総合19位)『レジェンド&バタフライ』(24.7億円/年間総合22位)『怪物』(21.5億円/年間総合30位)が20億円以上のスマッシュヒットを飛ばし、興行を支えました。

洋画は4年連続の大苦戦

スーパーマリオ以外の洋画で50億円を突破したのは『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(54.3億円/年間総合7位)のみと、完全にヒット作不足で、洋画の年間興収は7330億円と4年連続の絶不調。ミッションにしても、公開直前に全米映画俳優組合のストライキが直撃してトム・クルーズの来日が中止になり、お祭り感の醸成が叶わないという不運に見舞われました。

洋画界で最強のファンダムを築き上げていたディズニー(マーベル、ピクサー、スター・ウォーズ含め)がコロナ禍、興行よりも自社配信を優先した戦略の余韻は今も色濃く(現在は大規模興行を行い、配信は公開数カ月後に実施しているものの)、2019年以前なら50億~100億円クラスを狙っていたであろう作品群も物足りない結果に(『リトル・マーメイド』は34.0億円、『マイ・エレメント』は27.0億円、『ホーンテッドマンション』は21.7億円)。洋画全体の苦戦に影響を及ぼしています。

ヒットの一極集中傾向、変わらず

続いて、10億円以上のヒット作品が、全興収の何%を稼ぎ出しているのかを表すグラフです。2000年以降の推移を見ると、そこまでのアップダウンはなく、2023年は73.2%でした。

続いて、全公開作の何%の作品が10億円を超えるのかを表すグラフです。こちらは2000年から大きく減少が続いており、2023年はわずか4.0%。それら作品群だけで全興収の73.2%を占めているわけです。

参考までに、10億円以上の作品の金額シェアを本数シェアで割ってみると、一極集中の度合いが強まっている事実が浮き彫りになります。2010年以降じわじわとその度合いを増してきましたが、コロナ禍を経て、そのベースが一段上がったように見えます。

品質保証、満足保証を求める傾向はより顕著に

日本を代表する映画レビューサイト「Filmarks」における評点とヒットの相関関係を調べてみました。下は興収10億円以上を記録した実写映画における平均評点の推移です。洋画は4.05点、邦画は3.78点と、ともに過去最高を更新しました。もちろんFilmarksの数字はあくまでもひとつの参考と捉えねばなりませんが、興収と評価には正の相関が強まっているようです。

Filmarksにおいては、5点満点中3.7点以上だと「ある程度安心して観られる良作」、4点以上だと「傑作」というイメージ(※あくまで私個人の感覚です)

「映画館にまで足を運ぶなら、絶対に失敗したくない」という欲求はますます強くなり、確実に満足できる保証があるものを選ぶ観客が増えています。ここに近年のファンダムカルチャーが掛け合わさって映画館はファンが詣でる場所となり、『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』(29.2億円/年間総合15位/Filmarks4.3点)や『BTS:Yet To Come in Cinemas』(25.7億円/年間総合21位/Filmarks4.5点)のように、通算数十回足を運ぶような推し活リピーターが、"普通の映画"とは全く異なるタイプのヒットを生み出しています。2023年の国民的出来事のひとつとなったWBC優勝をもう一度反芻しようと多くの観客が集った『憧れを超えた侍たち 世界一への記録』(17.9億円/年間総合31位/Filmarks4.3点)も、新しいタイプの大ヒットです。

また、品質保証、満足保証を求める動きが、リバイバル映画のヒットを生み出しています。2023年象徴的だったのは『タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター』です。なんとFilmarksは異常値ともいえる4.7点を記録し、数多ある新作を押しのけて興収を10.9億円まで積み上げました。歴史に裏打ちされた安心感は、評点や満足度を上げることにも繋がるようです。

【まとめ】アフターコロナの映画界はこうなった

さて、以上をまとめましょう。

  • 公開本数は1200本台に乗り完全復活

  • 動員数は1.5億人台でコロナ禍前の水準に若干届かず

  • 単価上昇続き、興収は2214億円とコロナ禍前の水準に

  • 邦画はアニメが3年連続TOP3独占

  • TVドラマ発映画が大ヒットし、邦画の実写/アニメは均等に

  • 洋画はスーパーマリオ一強で不調から脱せず

  • ヒットの一極集中傾向続く

  • 映画館に満足保証を求めるムード強まる

  • ライブ、スポーツ、リバイバル上映からのヒットも

アフター・アフターコロナの映画界はどうなっていく?

2020年のコロナ初年度から邦画偏重の片輪走行が続いているような状況で、これから何よりも求められてくるのは洋画の復活です。が、ストライキの影響による作品供給の減少は2024年中は続き、洋画の復活が本格的に期待できるのは2025年以降になるでしょう。当然ディズニー配給映画が、2019年以前の力を取り戻すことも切に求められます。

一方で、邦画にとってはチャンスと捉えるべきかもしれません。実写の邦画は海外では絶対に当たらないと言われ続けてきた中での『ゴジラ-1.0』の快挙(2/1時点で5641万ドルの北米興収を記録し、外国語映画史上3位に)は極めてエポックメイキングな出来事です。

また国内でも、2023年末からヒット邦画の種類がグッと増えてきた印象で、コロナ禍前のそれに似てきたように感じるのは嬉しい兆しです。11月公開の『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(24.7億円/年間総合22位 ※上映中)や12月公開の『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』『PERFECT DAYS』は、口コミが各層に上手く広がって予想以上のヒットを飛ばしています。

今後も、満足保証を求める傾向は続き、シリーズもの、ファンダムものの強さは際立っていくでしょう。かつての傑作のリバイバル上映も、確実に数字が見込める企画としてさらに増えていくのではないでしょうか。それらはもちろん悪いことではありませんが、一方で新たなチャレンジをしなければ、次のシリーズ、次のファンダムは生み出せないのも事実です。

我々も配信サービスの立場から、新しいチャレンジを応援し、多様性を保つお手伝いをしたいと思っています。U-NEXTポイントを使って映画館へ送客する、新作は見放題ではなくレンタル配信することで製作者へ還元する、アーカイブは見放題作品を”映画図書館”のように揃えることで、様々なテーマ、監督、キャストの沼を用意し、映画ファンを醸成する。こうした行動を通じて、映画産業・映画文化を盛り上げていければ……などと堅苦しいことも言いつつ、個人的にはこれからも、涙腺ガバガバな私を号泣させてくれる映画に、1本でも多く映画館で出会えたら、と願っております!