しもやみてなえいずる

霜止出苗(しもやみてなえいずる)

その日はとにかく食べ続けていた。久しぶりに会う友人との遅めのランチは、昭和の香り漂う渋いスナックの看板が並ぶ通りにある店で、古風なカレーライスとチーズケーキのセット(紅茶付き)。チーズケーキの持ち帰りが人気のようで、ぽつりぽつりとお客さんが来ては買って帰る。スフレ仕立てで軽い口どけ、なるほどこれは無限にいける。常連客が大きなワンホールを買って一人で食べるなどというので、ご主人自ら止めたらしい。人がいい。続いて古本屋、軽く珈琲でも、と思っていたのに(いたのに)、だし巻き卵セット(あれ)、おにぎりセット(あれれ)などというパワーワードの前にすっかりノックアウト。悩みに悩んで結局おにぎりセットを注文(あちゃー)。刻んだセリとゴマの香るおにぎりと、とろとろ味玉、不思議な色のお新香、日本茶。まさか古本屋でこんな罠が待ち受けているとは思わなんだ。肝心要の本の品揃えはというと、どの本棚の並びもグッとくるもので、よく選ばれていている。居心地もよく、暫く滞在しているうち、甘味も気になりはじめる悪魔の店だった。最後に入った喫茶店。店先には与謝蕪村の句と菜の花、店内はバッハ、そしていたるところに舟越桂。メニューはブルーインクの万年筆で書かれていた。当然ブレーキは効かず、「森へ行く日」と名付けられた珈琲、クルミとアーモンドのクッキーをセットで。マスターと舟越桂のエピソードが素晴らしかったが、この話はまた今度。トリプルでセットのコンボをきめた暴食の日曜日。ごちそうさまでした。

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