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アーノルド・ローベルの全仕事

アーノルド・ローベルの全仕事 がまくんとかえるくんができるまで
アーノルド・ローベル
ブルーシープ株式会社
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2023年1月18日に「ふたりはともだち」の感想文を書きまして

そこからシリーズ一通りを読んだ「ふたりはしんゆう」の感想文を書きまして

それらは作品の感想だったわけですが、わたし、映画も本もメイキングだったりラフスケッチだったりの「作る過程」のものが大好きなのもありますので、こちらの本を読んでみた次第です。
「がまくんとかえるくん」のシリーズを生んだ絵本作家、アーノルド・ローベルさんの……伝記?履歴まとめ??そんな一冊です。

やはりといいますか、一番有名と思われるがまくんとかえるくんのシリーズの生まれた経緯やラフスケッチ、版下などで本の半分近くを使っているのですが、ローベルさん、生前に100冊以上の絵本を上梓されているので、他作品の紹介やカット掲載なども相当量あります。いやしかし絵が上手いな…(貧相な語彙ですみません)。
動物ももちろんなんですけれど、個人的には植物の描写が抜群に感じます。種類の描き分けやさりげない花の入れ方、それでいてあくまでも添え物として淡く塗られているところなど。
仕上がりのメリハリ画面ももちろん素晴らしいですが、鉛筆描きのラフの時の全部が同じ強さで描かれている画面ものびのびとしていてとても好きだなあ。結構スケッチと仕上がりで植物の造形が違っていたりするんですよね。動物の方はあまり変わってないんですけれど。画面のデザインの試行錯誤を結構重ねてるてことなんだろうかな…こういう「より良い画面」を作るところに執着出来るのが絵が好きな人なんだよなあ…わたしあは漫画描いて生活してた時期があったくせして、これが出来なくてなあ…

なかなかおもしろいのが、ローベルさん、固定の絵柄や作風があまり無いように見受けられるんですよね。作品ごとにわりとがらっと画のイメージが違ったものになっていまして、色々なことを試すのが好きだったのか、一冊ごとに世界を作り出していたのか…後者だとしたらすごいイマジネーションと技術ですよね。
御本人、絵を描くのはデザートで、お話を考えるのはホウレン草と言っていたそうで、なるほどなと思える芸幅の広さです。……ホウレン草もおいしいよねえ…??ローベルさんは苦手だったみたいなんですけれども。

巻末には賞をとったときのスピーチの文字起こしや、ローベルさんの息子さんと娘さんがお父さんについての様々な思い出をお話した対談の文字起こしが、少しページ多めに掲載されています。で、著作リストと続き、あとがきのような位置に、がまくんとかえるくんシリーズをはじめ、ローベルさんの著作を多く翻訳されていた三木卓さんの文が載っています。至れり尽くせりのファンブックですね。三木さんもがまくんの水着をあそこでかえるくんが笑っちゃだめだと思ってたんだ…よかった…と、安心を感じたりしましたよ。
がまくんとかえるくんのシリーズ以外も読みたくなる三木さんの名コメントでした。ローベルさん作家流しもコツコツと読んでいけたらと思います。児童書面白いんですけれど、わたしはどうも子供の気持ちになって読むのがあまり上手くないみたいなので、楽しむためにワンクッション必要になったりするんですけれども。読みたい本がどんどん増えていくわね…

メイキングや裏話系って、着ぐるみの中身を見ちゃうみたいであまり知りたくないという人もいるらしいので、万人向けの本ではないんでしょうけれども(分厚いし文字も細かいですしね)、ローベルさんのファンやいろんな絵を見たい人にはとても良い本なのではないでしょうか。別にこう、暴露話とか実は嫌な人だったなんて話題が出ることもなく、いかに子供らをかわいがり、芸術や物語を愛していたか、など知れて嬉しかったです。
名作の生まれる過程を知ってみたい人はぜひぜひ。

ローベルさん、54歳と非常にお若くして亡くなられてしまった方なので、長く存命でいらしたらどれだけ多くの良作を残されていたんでしょうね。そこは本当にもったいない話です。

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