だが、情熱はない

世間で言われるところの管理職という仕事を数年前からしている。運よく得意領域を見つけることができてそれらしい成果を少々は出せているというのと、世の中の流れとして女性管理職比率の引き上げというのが課題となっており、その流れに乗れたというのも多分にあるだろうと思う。

昨日が国際女性デーだったりもしたので、今回はそんなかんじのことを少し書く気になった。


女性の社会進出とか活躍といった潮流の中で、女性の経営者が登壇したり記事で取り上げられたりというのもよく見かける。各企業の内部でも、なにかしらの取り組みがされていると思う。女性の部長へのインタビューとか、座談会とか、何かそういうようなDEI活動がきっと何かしらはあるんじゃないだろうか。

たいてい、そこでは一大プロジェクト推進の傍らお子さん何人を育て上げて……みたいな、こう、かなりスタミナがありそうな方が取り上げられている。どうやって両立されているんですか? みたいなインタビュアーの質問とかね。家庭との両立をいかにうまくやっているかが、多くの方々にとっての大きな課題かつ関心事項なのかもしれない。
家庭との両立は、ご家庭のある男性の経営者も同じくやられているはずなので、それなら女性の方以外にもぜひ同様に質問したらいいのではないかと思っている。

ただわたしには、両立なんていう器用でパワフルなことはできない。
ワークライフバランスという言葉があるけれど(この言葉もなかなか謎だけれども)、ワークのほうで周囲よりもより成果を上げようとしたら、当然ライフのほうは疎かになる。わたしというリソースの総量は増えないのだから、そりゃそうだ。質量保存の法則である。
しかもわたしは、どっちもいまいちになるくらいならと、若干意図的にワークのほうにパラメータを全振りしてしまった。わたしのライフはもうゼロです。
なので、女性管理職比率を上げよう的セミナーや記事の大半は、残念ながらまったく自分にとって参考にならないのだった。

手先がうそみたいに不器用で紙をまっすぐに折るのにも苦労する。
わたしが脇腹をおさえながらマラソン完走するのを待ちくたびれた全校生徒が拍手するみたいなレベルで体力がない。
汗水を流して働いたり何か物を作ったりする仕事が壊滅的な中、それでも仕事ではなんとなく得意領域を見つけることができた。でも、家庭に関しては本当に駄目だった。本当に、駄目だった。複数人数での共同生活がそもそも合わなかった。不思議なもので、プライベートで共同生活ができなくても、仕事ならいくらでもチームでやっていける。ただ、仕事でなければ無理だ。やってけない。だから今後も家庭を運営しようという意志はない。

そうした状況だからこそ、わたしは仕事偏重の道を選ぶしかなかったわけだ。けっして積極的に選んだ道ではない。仕事が大好き! と言ったら大嘘になる。仕事に対して情熱があるかと問われても即答はしかねる。そうではなく、単純に、圧倒的に、仕事しかできなかった。すべての選択肢において、自分の能力で対応できそうな方に進んだルートが今ここだ。

先に書いたようなセミナーであったり記事だったりに触れるたび、自分は致命的に欠けている、みたいなことを感じてしまってよくない。仕事と家庭の両立が大前提で、その中でいかに成果を出すかが問われている。そういう空気が周囲に満ちているように感じてしまうからだ。本当にその空気があるのだとすれば、わたしは実際のところスタートラインにすら立てていない。
いや、ほんとうにそうか? 少なくともこの領域の仕事においては成果を出せているのに、それでもスタートラインにすら立てないなんてことある?

ない気がするんだよなあ、というのが、わたしが最近思っていること。

仕事と家庭の両立が大前提、というこの空気には従いたくない。できている人たちがすごいだけだ。すごいので、もちろん賞賛すべきだ。でもまあ、せめて、わたしを見たもっと若い世代の誰かは、わたしのこういう振る舞いを選択肢のひとつとしてあたりまえに認識してくれるといい。この人のこのくらいのへらへらした感じなら余裕で目指せるかも、なんて、思いっきり舐めてかかってほしいところ。

そもそもの話、情熱もべつに仕事には必須ではない気がするんだよなあ。普通に考えてこれをやるべきじゃないか? ということを順にやっていけば、そこに熱い思いが伴ってなくて全然いい。思いがあるほうが続けていきやすいというだけの話だ。
パワフルでスタミナがあって度胸があって情熱に満ち満ちていて、みたいな主人公タイプしか管理職になれない、なんてことないでしょう。そんなに世の中にたくさんはいないもの、そういう人は。

家庭は激烈に壊滅的なんだけど仕事はすごいから仕事ができてほんと命拾いしたね、みたいな人の話ももっと世にあったらいいな。参考にしたい。ちょっと目指してみようかなと思えるかも。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?