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【歴史群像シリーズ】 自動販売機は 無人店舗の夢を見るか?~特化したがゆえの繁栄と限界~⑤たばこ自販機について

第5回目を迎えた自販機歴史シリーズですが、今回は販売規制があるもう1つの商品「たばこ」の自販機について語ろうと思います。前回お話しした通り、お酒は自販機での販売が原則禁止なのに対してたばこは自販機での販売が可能となっています。この2つの商品、どこでどう違ったためにこうなったのでしょうか?

■自主規制に走りコントロールを試みるも…

同じ大蔵省の管轄下であったたばこ業界ですが、酒類同様に厳しいお達しがあるのではないかと思い先手を打ちます。業界全体でたばこ販売に関する自主規制組織を作り、そこがルール化することで大きな網をかけられることから逃げたい…その中心となったのが、後にたばこ成人認証機「taspo」を手掛ける社団法人日本たばこ協会、通称TIOJでした。

ところがこのTIOJ、この動きに際して少し揉めます。戦後たばこの専売を担い、たばこ業界の事実上のボスであった日本たばこが難色を示すのです。この反応を理解するためには、まず最初にたばこ業界の構造について理解する必要があります。

■日本のたばこ業界の事情と自販機の関係

元々日本でのたばこ販売は専売公社(現日本たばこ)が担っていました。そのため日本におけるたばこ文化は日本銘柄のたばこ文化と言っても差支えがなく、消費者のほとんどは専売公社のたばこを喫い続けました。「セブン」「マルセン」なんて略語がたばこ屋のおばあちゃんでも理解できる程度に支配力が高かったんですね。そのため、店舗で買うたばこはそのほとんどが指定銘柄として日本たばこの製品が選ばれていました。

販売店で売れるのは基本指定銘柄という逆風の中、事実上の後発組だった外国産のたばこはどうしたのか?…実はその売り上げの多くは自販機から上がっていました。販売店と違いさまざまな商品がフェイスに並ぶため目に触れやすかったこと、そして「店舗で買うとバレるけど、自販機ならバレない」という若者層からの支持があり、外国産たばこは自販機で販売数を伸ばしていきます。マルボロを初めて自販機で買った、みたいな人は少なくないのではないでしょうか?

ちなみにたばこは専売事業であったため、外国産と言えど日本たばこを通じて販売されるため、日本たばこの自販機であるにも関わらず搭載されていました

そうした状況の中、日本たばこは自社自販機の撤去を促進します。たばこの自販機は日本たばこが店舗に貸与していたものがその多くを占めていて、その維持費の割に実入りが少ない自販機は日本たばこにとって重荷に過ぎず、しかも「自販機で若者がたばこを買うのはけしからん!」という社会風潮もあり、耐用年数がなくなった機材から順番に「買い取るか撤去するか」を店舗に選んでもらうことを進めたのです。コンビニで買えるようになったからたばこ自販機は減ったと言われていますが、実はその前から撤去を始めていたのが正直なところだそうです。

■そもそも成人認証が狙いではなかったがゆえに成功した?

そこに危機感を覚えたフィリップモリスはTIOJをベースに成人認証機器の開発に乗り出します。全国たばこ販売協同組合連合(全協連)と日本自動販売機械工業会(JVMA、現日本自動販売サービス機械工業会)を巻き込み、成人認証サービスtaspoを立ち上げます。日本たばこはこの投資に強く反対しますが結果として2001年にサービスインされました。日本たばこはこの判断を不服とし一時TIOJからの脱退を匂わせますが、会長職から退くこと(=この事業に責任を持たない)を前提にTIOJに残ることとなります。さすがに業界のトップがその主力団体から抜けるというのは大蔵省から見ても見栄えが悪かったのでしょうね。

こうしていろいろな混乱はあったものの、こうした業界の自主規制が進んだため大蔵省は酒類業界のような大ナタは振るわず、業界団体に任せる判断をしました。その結果たばこ販売は比較的規制が緩めになったのです。もちろん、規制が緩いから売れるということではなく、taspoはその役割を事実上終えようとしているのですが…。

■明暗を分けた2つの業界と2つの教訓

こうして自主規制に失敗して大ナタを振るわれた酒類業界と、自主規制に成功し自販機の市場を守ったたばこ業界の2つに分かれたわけです。この流れ以降、様々な業界で自主規制を強める方向に傾きましたが、そうした流れにこの2つの出来事は少なからず影響を与えたと思われます。

もし酒類自販機の話を読んでいない方はこちらもどうぞ!


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