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【歴史群像シリーズ】自動販売機は無人店舗の夢を見るか?~特化したがゆえの繁栄と限界~③オートレストランについて

飲料自販機から物販自販機へと2回に渡って「自販機ビジネス」について触れてきました。自販機であるがゆえの特長や、それゆえの弱点などについて書いてきましたが、ここで過去無人店舗として利用されていたことがある時代の話をしてみようと思います。

■実は無人店舗として稼働していた自販機

いきなりそんなオチ?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は自販機って昔から無人店舗として活用されているのです。比較的年齢の高い人だと「オートレストラン」というものをご存知だと思いますが、要するにコンビニ程度の広さを持つ店舗に自販機と机椅子を詰め込んで、自販機で物を買ってそこで食べる、という店舗形態の無人販売所は過去存在していました。今でも一部では残っているようです。

《参考》あらいやオートコーナー
https://icotto.jp/presses/3487

こうした業態は主にロードサイドでの需要が高く、例えば高速道路のPA/SAなど夜になると店が閉まってしまうようなところでも暖かい商品が手軽に手に入るということで様々な種類の自販機が開発され、普及していきました。中には冷食用の専用機まで開発され、右肩上がり状態の自販機業界の流れに合わせて少しづつですが数も増えます。

さらにはコンビニチェーンが物販自販機を使った無人店舗の実験店をやっていた時期もあるそうです(ただし、そのコンビニチェーンは今無人店舗をやっていません)。

■複雑化する機構と追いつかないメンテナンス

当時加温食品を提供する自販機は基本的に作っておいた商品を自販機に詰め、それを最後に加熱して提供するという形を取っていました。構造は物販自販機に近く、ボタンが押されると商品を一旦加温スペースに搬送、加温し最後は搬出口に搬出、という流れです。

ところがこの機能、量産型の自販機と異なり事実上販売形態につき1種類あるというようなイメージの機材で、部品の共通性がない、汎用機ではないため高コストであり、かつ一品ものが多いので複雑な機構を理解するメンテナーじゃないと扱えないなど機構的な理由で普及が進まず、数が減りメンテナンスできる人が減り扱えなくなると稼働率が大きく落ち込み、動かなくなりメンテナンスできなくなると廃棄してビジネスを畳む、というような流れができました。

当時を知る人だとなんとなく分かると思うのですが、ハンバーガー自販機とかって汚い、機械音がうるさい、などの悪いイメージが多いと思います。これは「メンテナンスできないので壊れるまで使う」人が多かったせいで、これもまたオートレストランの評判を下げる一因となりました

■安全意識の高まりと規制強化の荒波

それでも深夜に暖かい食事が買えるということでそれなりに評価はされていたオートレストランですが、時代の荒波に洗われてしまいます。コンビニの出現?いえいえコンビニの隆盛はもう少し先です。じゃあ何が起きたのか…無人販売における規制強化です。

自販機は基本的に誰も管理していない状態で販売します。なので、虫が入ったりするのはもちろん、状態が良くない(庫内は中途半端に加温されているので雑菌類が繁殖しやすい)ものが売られたり、中には「農薬を入れた飲料を搬出口に置く」という犯罪まで発生した結果、自販機での販売に大きな規制の網がかけられるようになります。

特に大きかったのは「加温に対する大幅な制限」。加温商品を提供するために越えなければならない壁が多く、実質的に新しい加温提供自販機を設置することが難しくなりました。そのため、既に販売許可を取っている機材のみが残り、故障次第終了していくこととなります。加えて最大の消費地である東京における規制はかなりの厳しく、これも自販機で食品を扱うことに大きな制限となります。こうして自販機で販売される食品関連の商材は「卵などの規制品を使わない」「賞味期限が長い」「常温保存が可能」なものに絞られることになります。物販機にお菓子やコモパンのような長期保存パンばかりなのはこうした背景がある訳です。

# もちろん軽食を販売する自販機もありますが、この話はまた別の機会に。

■今や「昭和レトロ」なオートレストランの未来

こうしてオートレストランは一部の規制が少ない地方部において生き残っている状態で、今後発展の可能性はほとんどないと考えて問題ないと思います。規制もそうですが日本人の食の安全に対する意識の高まりがあるため、小さな箱の中で何をしているのか分からないまま出てくる料理は一部の好事家かインスタ組以外には受けることはないでしょう。

ただ、無人レストランという意味では別の方向から萌芽し始めています。米国や中国では調理の段階を無人化する技術が出てきており、それを使った無人レストランも出てきているようです。

《参考》中国初となる「ロボットレストラン」を開店 注文から配膳まで全行程をロボットにより自動化
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000038.000034149.html

本当にペイするのか疑問な豪華さですが、それでも将来的にこういう技術が店舗としての無人レストランを提供できるようになる未来は近づいた気がします。自販機という小ささでは成り立たせるのが難しくても、店舗として作れればビジネス規模が見込める、そんな形で「オートレストラン」は復活するかもしれませんね。

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