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鎌倉悪い顔選手権

一昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第33回で、仏師運慶が北条義時にこう言う。

「お前、悪い顔になったな」

それを聞いて、チョコレートプラネットがYouTubeでやっていた名物企画「悪い顔選手権」を思い出した。中でも古館伊知郎さんの回はとんでもない傑作である。悪い人が悪い顔なのはある意味当たり前なのだが、古館さんのそれは、真面目で責任感のある普通の人がやむに止まれずダークサイドに堕ちた、という苦渋と迫力に満ちた悪い顔だった。

ちょうどその頃「トップガン・マーヴェリック」を観た。非の打ちどころのない娯楽映画であった。でも、どこか引っかかる。ありていに言えば殺し合いをしているのにこの爽やかさは一体何なのだろう。こちらには悪い顔の人はほとんど出てこない。仲間や家族への愛情と気遣い、困難な任務にチームで挑む汗と友情の物語だ。しかし、敵の命や仲間や家族のことは一切想像しない。それでいいのだろうか。

運慶は義時に言う。「お前の顔は悩んでいる顔だ。己の生き方に迷いがある、その迷いが救いなのさ。悪い顔だが、よい顔だ」

殺すたびに顔が悪くなる小栗旬より、いつも爽やかなトム・クルーズの方が怖いのは私だけだろうか。

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