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デザイン論

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デザイナーとして生きていく矜持を培うために学んだこと、考えたこと。
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記事一覧

デザインで肩身の狭い書き言葉 #332

「なぜデザインでは文章がアウトプットとして認められないのか?」という問いをよく考える。パーソンズ美術大学に留学していた時には「Show us, not tell us」という言葉を何度も聞いた。「言葉で説明するのではなく作品を見せろ」という意味だ。 この言葉に「デザインらしさ」を感じて身につけたいと思ったと同時に、私にとって自然にできることではないとも感じていた。つまり、「なぜ文章で伝えたいのに一度別の何かに表現し直す必要があるのか?」という疑問を抱き続けていたのだ。自分の

デザインは、社会的差異を具現化する。(『欲望のオブジェ』) #331

そんな挑発的にも思える一文が前書きにある『欲望のオブジェ』は、構造主義的な視点で近代デザインの歴史を語る一冊。副題が「デザインと社会 1750年以後」であるように、社会背景からデザインを語る視点が特徴的である。 なお、この記事は本書の要約や解説ではなく、個人的な学びを中心にまとめていく。 デザインは進歩を隠蔽する第1章「進歩のイメージ」と第2章「最初のインダストリアル・デザイナー」を通して1750年代以降のデザインの歴史を紹介しながら、デザインがアートから独立していく様子

美的デザイン&倫理的デザインの先へ。 #317

前回の記事では、Spirituality Designという用語を紹介しながら、「なぜ生きるのか?」という問いに向き合う実存的なデザインについて考えてみた。 今回はこの実存主義的デザインと従来のデザインとの関係性を整理してみる。参考にするのは、キルケゴールの実存の三段階だ。 キルケゴールの実存の三段階キルケゴールは、実存には美的、倫理的、宗教的の三段階があると提案した。専門家ではないので解説は控えるが、ブリタニカ国際大百科事典小項目事典を参照すると、以下のような説明がなさ

生きる意味をデザインできるのか? #316

Spirituality Designとの出会い『システミックデザインの実践』の共著者であるクリステル・ファン・アール氏が、「システミックデザインの次にはSpirituality Designが来るだろう」と話していた。ここでのスピリチュアルは、非科学的な現象というような意味ではない。「sense in life」や他者や自然とのつながりという文脈で話していたことから、ここでのspiritualityは「生きがい」や「生きる理由・意味・意義」というニュアンスだろう。 spi

続・デザイナーとライターの交差点 #315

以前、『デザイナーとライターの交差点』と題して自分が【デザイナー/ライター】としてすべきことを考えてみた。このテーマについて引き続き考えてみたい。 デザインにライターは必要デザインにライターが必要であることの論拠として、あらためてデザインファームIDEOのCEO(当時)であるティム・ブラウンによる『デザイン思考は世界を変える』を参照する。 『デザイン思考は世界を変える』で提案されていたライターの必要性は、この本が出版されてから十年近くが経った今でも変わらない。2021年に

デザイナーとライターの交差点 #312

私は肩書を「デザイナー/ライター」としている。パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designで修士課程を修了したので「デザイナー」であると自負しているし、公私ともに文章を書いているので「ライター」で間違いないだろう。「どうしてデザインを学んだのにライターも名乗っているの?」という疑問を抱くかもしれないが、実はデザインにはライターの役割が必要不可欠なのだ。 「デザイナーは物語の達人」デザインファームIDEOのCEO(当時)であるティム・ブラウンが上梓した

最先端のデザイン!? システミックデザインとは? #303

デザインの歴史は、デザインする対象が拡大してきた歴史。二次元のグラフィックから三次元のプロダクトへ、今では目に見えないサービスや体験までもがデザインの対象となっています。その歴史の最先端とも言える最も大きくて抽象的な対象であるシステムを扱うデザインとしてシステミックデザインという手法が提案されているようです。 そんなシステミックデザインを学ぶために『システミックデザインの実践』を読みました。この記事では本書を読んでみての学びを書いてみます。要約や解説ではないことをご了承くだ

「良い」デザインって何だろう? #291

パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designの卒業制作において、「良いデザインとは?」「倫理的なデザインとは?」という問いを考えています。というのも、Dark PatternやDeceptive Designなどの言葉が生まれているように、ユーザーを欺くようなデザインの存在が指摘されているからです。 もちろん、ハンロンの剃刀が示すようにデザイナーが悪意をもってデザインしていると考える必要はないのですが、結果的に悪影響を及ぼすデザインをしてしまっている

デザインは、コラボしてこそ意味がある。 #289

パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designでの学生生活も残り9週間。今は卒業制作を通してTransdisciplinary Designを実践的に学んでいるのですが、この記事ではその学びを一旦整理してみます。 Transdisciplinary Designは「領域横断デザイン」などと訳されるように、分断された専門領域を横断しながら社会問題と向き合います。サイロエフェクトやセクショナリズムという言葉があるように、効率化を進めるためには分業が必要で専

デザイナーの責任を学んでおく。 #286

デザイナーとして働くあなたは、デザイナーとしての責任について考えたことはありますか? デザイナーになるためにアドビソフトやビジネスモデルについて勉強することはあっても、「道徳や倫理を学べ」と言われることはないのでは? 今回はデザイナーの倫理を考えるきっかけになる情報をいくつか共有してみます。 「How Might We」よ、クソくらえ。「Design thinking’s most popular strategy is BS(最も人気のあるデザイン思考の戦略はクソだ)」と

「和魂洋才を、禅とデザインで試みる。」のメイキング。 #284

パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designの卒業制作に専心中の私。来週に迫っている中間発表は、ここまでの進捗報告の場であるとともに最終発表のリハーサルでもあるという今学期における山場の一つです。そこで、この記事では私自身の思考の整理も兼ねて、これまでのプロセスを書いてみます(ちなみに、前回の記事では卒業制作の内容を紹介しているのでご覧ください)。 デザインプロセス2022年9月から始まった卒業制作の進捗を時系列に沿って書いていきます。 1. テー

和魂洋才を、禅とデザインで試みる。 #282

今回の記事は、パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designの卒業制作で私が何をしているのかについて書いてみます。というのも、約二週間後に中間発表を控えていて自分の卒業制作の内容や目標を言語化する時期だからです。もちろん中間発表では英語で説明することになりますが、その準備として日本語で自分がこれまで調べたり考えたりしてきたことを整理しておきたいと思います。「Transdisciplinary Designってこんなことするのね」という参考にもなれば幸いで

デザインを学ぶには? #273

「デザインを学びたい」と思って私の記事を読んでくださっている方もいらっしゃると思います。そこで、私の記事の中からデザインに関する記事をピックアップしてみました。このサイトマップがお役に立てば幸いです。 デザインとは?デザインについて自分なりに調べたことをまとめた記事です。デザインの基礎知識を学びたい方向け。 クリティカル・デザインは、次世代のデザイン思考なのか? デザインが文化人類学と出会う時 デザインリサーチを、リサーチしてみる。 パーソンズ美術大学留学記パーソン

「問題解決のデザイン」から、「共に生きるデザイン」へ。 #257

パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designでの学びも2年目に突入。日々「デザインとは何か?」への答えが更新されていく日々を過ごしているが、今回は「なぜデザインをするのか? 何のためにデザインをするのか?」に対する答えが大きく変わったので、節目として現時点での私なりの考えを記しておく。 反・デザイン思考Transdisciplinary Designで学んでいるデザインは、いわゆる問題解決型のデザインではない。パーソンズ美術大学はニューヨークにあり、