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コンテンツ鑑賞録

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本や映画の要約・感想など。
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記事一覧

デザインは、社会的差異を具現化する。(『欲望のオブジェ』) #331

そんな挑発的にも思える一文が前書きにある『欲望のオブジェ』は、構造主義的な視点で近代デザインの歴史を語る一冊。副題が「デザインと社会 1750年以後」であるように、社会背景からデザインを語る視点が特徴的である。 なお、この記事は本書の要約や解説ではなく、個人的な学びを中心にまとめていく。 デザインは進歩を隠蔽する第1章「進歩のイメージ」と第2章「最初のインダストリアル・デザイナー」を通して1750年代以降のデザインの歴史を紹介しながら、デザインがアートから独立していく様子

脱完璧主義の読書論(『読んでいない本について堂々と語る方法』) #329

『読んでいない本について堂々と語る方法』という本を読んだ。いや、本書を知った後では「読んだ」などと軽々しく言えなくなるのだが、とりあえず一般的な意味において読んだことにして話をする。 本書はキャッチーなタイトルだが、決して「知ったかぶりがバレないように振る舞う方法」のような小手先のテクニックを羅列した本ではなく、「本を語る」という日常生活にありふれた行為をユーモラスに論じた一冊である。本にまつわる行動を「読む」と「語る」という二つに分けてそれぞれを考察することで、読んでいな

資本主義の論点を整理してみる。 #327

現在の日本は資本主義を採用しています。そのため、日本社会に不満がある時には資本主義自体を疑う声が上がります。しかし、「資本主義が問題だ」という時、具体的には何を問題視しているのか? 「ポスト資本主義を目指す」という時、何を実現したいのか? 資本主義が影響する範囲の広さゆえに、人によって答えはバラバラです。 そこで、今回は資本主義についての書籍を読んで勉強してきたことを整理してみました。現時点では個人的なメモのような状況なので、詳細な説明は割愛していることをご了承ください。

『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか』を読む。 #326

ジョナサン・マレシックの『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか』を読んだ。著者は学生の頃から夢見ていた大学教授になり、終身在職権まで得ているという恵まれた境遇だったにもかかわらず、バーンアウト(燃え尽き症候群)になった。そんな自身の経験をきっかけにバーンアウトについて調べた結果をまとめたのが本書である。この記事では本書の要点と個人的な感想を記してみる。 バーンアウトの定義バーンアウトという言葉は医学的に定義されていないが、著者はマスラーク・バーンアウト・インベントリー(MBI)

私はどう生きるか(「シン」仏教哲学講座by松波龍源さん)#325

私はパーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designへの留学時の卒業制作で仏教をテーマにし、そのリサーチも兼ねてNew York Zen Centerで禅を体験していたが、日本に帰国してからは仏教に触れる機会が身近になかった。 帰国後も継続して仏教を学びたかったので、松波龍源先生の「シン」仏教哲学講座を受講してみた。松波龍源先生は「a scope」仏教回のゲストとして初めて知ったのだが、西洋哲学を参照しながらの説明が個人的に分かりやすかったのが今回の受講

『万物の黎明』を読む。 #323

デヴィッド・グレーバーとデヴィッド・ウェングロウによる『万物の黎明 人類史を根本からくつがえす』を読んだ。本書は紙で708ページ、Kindle版で1097ページという大ボリュームであるため、大まかな論旨を追いつつも、個人的に気になった部分を中心に取り上げながら紹介していく。 『万物の黎明』で印象的だった部分不平等は自然状態or文明病? 「どうすれば不平等を是正できるのか?」という問いを考えると、「なぜ不平等が発生したのか(平等だった時代や社会はあったのか)?」という問いも

ティム・インゴルド『人類学とは何か』を読む。 #318

ティム・インゴルド流人類学まず、彼が人類学の定義について述べている部分を引用してみる。彼は「私たちはどのように生きるべきか?」という問いを中心に据え、そのアプローチ方法として人類学を設定する。 人類学では「世界に入って」いく参与観察(フィールドワーク)の結果を民族誌(エスノグラフィー)としてまとめることが基本的な手法とされているが、インゴルドはこの前提に批判的な立場をとる。民族誌を書くという目的のために参与観察という手段があるという関係性を拒否するのだ。 ちなみに、イン

坐禅でくつろぐ。(『現代坐禅講義』を読む) #311

國分功一郎先生の『退屈と暇の倫理学』を読んだ時、パスカル『パンセ』に人間は部屋でじっとしていられないから余計なことをして自ら不幸を招いていると書かれていることを知りました。これを踏まえて、禅を本で独学しながらNew York Zen Centerで坐禅をしていた私は、「坐禅とは人間が部屋でじっとする行為であり、不幸を招かず幸福に近づく実践である」という文章を書きました。ただし、あくまでも私の独自解釈で、禅の専門家からすれば誤っているのかもしれないと思っていました。 しかし、

『水星の魔女』をやっと観た。 #309

SNSで話題になっていて気になっていたアニメ、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』。留学していて観れていませんでした。先日、遅ればせながらAmazon Prime Videoで観ることができたので、感想を書いておきます。なお、考察や解説ではないことをご了承ください。また、ネタバレがあるので未視聴の方はご注意ください。 私は『水星の魔女』を、子供が大人へと成長する様を描くジュブナイル作品として観ていました。 子どもは大人の影響下にある主人公のスレッタは母親のプロスぺラを尊敬し、

「シン・仮面ライダー」、面白かった! #308

2023年7月21日0時になった瞬間に、Amazon Prime Videoで「シン・仮面ライダー」を観ました。というわけで、初めて観た感想を書いておきます。考察や解説ではないことをご了承ください。また、ネタバレがあるので未視聴の方はご注意ください。 線路、トンネル、電柱、工場、海などエヴァでも頻出するシーンや、シン・ゴジラとシン・ウルトラマンと同じく「政府の男」として竹野内豊さんが出演しているのを見ると、「庵野監督の作品を見ている」と思わされます。極端に近いor低いor高

"The Unknown Unknowns" #306

デザインはリサーチから始まる。でも、リサーチをすると何が得られるのか? そんなことを考えていると、パーソンズ美術大学・Transdiscplinary Designの先生であるJamer Huntから聞いた"The Unknown Unknowns"の逸話を思い出しました。 彼は元アメリカ国務長官のドナルド・ラムズフェルドの言葉を引用しながら、以下の4つのカテゴリーを紹介しています。 「リサーチをしてほしい」と頼まれた場合、それは「既知の未知について調べてほしい」という意

自信過剰はうつを呼ぶ。 #272

ランドルフ・M・ネシーの『なぜ心はこんなに脆いのか: 不安や抑うつの進化心理学』を読みました。個人的に気になった箇所を参照するだけなので、要約にはなっていないことをご了承ください。 六つの進化的理由本書では「なぜ自然選択は、私たちを精神疾患に対して脆弱なままにしたのか」という問いを考えていきます。この「なぜ~?」という問いへの答え方についてティンバーゲンの四つの問いを紹介し、「完全な説明を得るためには、四つの問いすべてに答えなければならない」と言います。 精神疾患は「遺伝

習慣ではなく、儀式をつくろう。 #263

友人に半年ほど前に紹介されて今も気に入っているニュースレターがある。その名も『Lobsterr Letter』。「毎週月曜7:00am、編集チームがキュレートした記事の要約をニュースレターとしてお届け」してくれる。自分では見つけられないような英語系メディアから「イケてる」記事を紹介してくれるからオススメだ。 今回はその中から自分のデザインを考えていくうえでキーワードになりそうな記事があったので、ご紹介したい(というより自分用にまとめておきたい)。それが『In the Nex

『プロ倫』を知っておきたい! #262

資本主義の構造を論じる代表作がマルクスの『資本論』ならば、資本主義の成り立ちを紐解くのがマックスウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』、通称『プロ倫』です。 いつか読んでみたいと思いつつも読んでいなかったのですが、デザインの授業で「資本主義や宗教に興味があるなら、プロ倫を読んでみるといいかも」とアドバイスをもらいました。そこで、まずは解説本を読んでみることにしました。この記事では以下の2冊をもとに、『プロ倫』の概要をまとめてみます。 問題設定:禁欲と成