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オルタナティブストーリーを求めて (パーソンズ美術大学留学記 番外編) #242

パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designでの二年目が始まって一か月ほどが過ぎました。二年目に突入してもまだまだ新しい学びがあるので、引き続きどんどん吸収していきたいと思います。

この記事は、これまで『パーソンズ美術大学留学記シーズン3 Week1-4』に書いてきた学びを整理することを目的としています。個別の授業で学んだ知識を自分なりに体系化することができそうな予感があったので、見切り発車ですが書いてみます。


一か月の学び=社会構成主義的デザイン?

今学期のメイン授業であるSuperstudioでは、3つのキーワードに沿って進んでいます。それは"Relationship" "Narratives" "Community Wealth"です。今学期はこれらのキーワードを踏まえながら「デザインとは何か?」を考え続けていくことになりそうです。

ただ、「どうしてこの3つをキーワードにしているのだろう?」という問いが個人的に気になっていました。この一か月の間考えていた中で、これらのキーワードはある一つの考え方から派生しているとみなせるのではないかという仮説に辿り着きました。その考え方とは、社会構成主義(または社会構築主義)です。私も知ったばかりで詳しくないので、以下の記事から引用してみます。

社会構成主義とは、「社会の様々な事象は人々の頭の中で作り上げられたものである」とする立場のことです。そもそも社会構成主義は、本質主義と呼ばれる考えの反証として発展しました。

そして、社会構成主義を前提として誕生したのが、ナラティブ・アプローチ(ナラティブ・セラピー)です。このナラティブ・アプローチを通して行うのは、個人が苦しんでいるドミナントストーリーから解放し、オルタナティブストーリーを紡ぐ手助けをしていくことのようです。

ナラティヴ・セラピー(narrative therapy)とは「クライエントが自分の人生の専門家であり、その個人の行動はその主観的に形成された価値基準に基づいて行っている」という原理の元行われる心理療法です。

このように社会構成主義を知ると、関係を重視する、ナラティブ・アプローチを使う、社会を人々のナラティブの積み重ねと捉えるという理由が明確になり、"Relationship" "Narratives" "Community Wealth"の3つが一つの軸によって整理されるのです。

Transdisciplinary Designの先生方は「本質主義ではなく社会構成主義に基づいてデザインを考えよう」などと明言していませんが、もしかしたら参考にしているのではないかと思えるほど自分の中では腑に落ちた解釈です。今度聞いてみようかしら。


自分の方向性=東洋思想&脱物語のデザイン?

夏休みの間に「デザインとは何か?」を自分なりに考えていた中で、実は私も「デザインが本質主義を前提としているのではないか?」と考えを巡らせていました。本質主義のアンチテーゼとしてTransdisciplinary Designでは社会構成主義を置いているとしたら、私は以下の記事で東洋思想を置いてみたりしていました。

また、従来の本質主義的デザインに対するアンチテーゼとして「脱物語のデザイン」を考えていきたいと言っていたのは、ナラティブ・アプローチにおいて「ドミナントストーリーから脱することを目指す」のと似ているように感じました。

とすると、一年間のTransdisciplinary Designの学びから「デザインは本質主義的である」という解釈をしたのは、案外的外れではなかったのかもしれないと思えました。


理想は対話。だけど、限界もある?

社会構成主義では、対話(ナラティブ・アプローチ)を重視します。ただし、人間が対話できる範囲には限界もあるように思います。たとえば、人間が安定的な社会関係を維持できるとされる人数の認知的な上限は約150人であるとするダンバー数があるように、ナラティブを更新し続けられる関係は有限のはずです。

つまり、たしかに対話は必要だけど、社会を構成する全員(地球全体だと約80億人)と対話することは現実的に不可能です。このジレンマにどう向き合えばいいのかを考えていくことになるのではないでしょうか?


ドミナントストーリーを自覚できないか?

Transdisciplinary Designは「ナラティブによってドミナントストーリーに気づき、オルタナティブストーリーへと移る」ということをデザインによって目指しているとしてみます。ただ、前述のように全ての人と対話することができないならば、対話を補完する別の方法も必要なのではないかと考えられます。

そこで考えられるのが、対話を二人以上で行うだけでなく自己の中での対話も促すというアプローチです。現時点でのアイデアとしては、自己の経験を文章にしていくオートエスノグラフィーや自分の思い込みやバイアスを自ら気づくマインドフルネスが役立つのではないかと予感しています。

また、ナラティブアプローチのデメリットとして挙げられているのが、対話によってドミナントストーリーを引き出すことの難しさです。なぜなら、ドミナントストーリーに囚われている人にとっては、それがドミナントストーリーであると気づいていないからこそドミナントストーリーだからです。

いくら他人との対話を繰り返したとしても、「いや、自分はドミナントストーリーに縛られていない」と思っていれば、オルタナティブストーリーを考えてみようという意志は働きません。最後は自覚するしかないのです。

対話の限界を乗り越えるため&対話の効果を高めるために、オートエスノグラフィーやマインドフルネスといった対話の準備をするための方法が必要なのではないかというのが現時点での私の解釈です。


まとめ

従来の問題解決型のデザインとは異なるアプローチを試みるTransdisciplinary Designの背景を考察してみました。「デザインとは問題解決を目指すもの」というデザイナーの抱くドミナントストーリーを自覚して、21世紀に適うようにナラティブ型デザインなどのオルタナティブストーリーを模索するのがTransdisciplinary Designの使命なのかもしれません。

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