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詩ことばの森(68)「断崖」

断崖

この断崖から
飛べよ
と彼は言った
空は果てしなく広い
海はどこまでも深い
お前の小さな悩みなど
どれほどのものであるか

空に向かって
自らの翼をひらき
断崖を蹴る
石が転がり落ちる音を
たしかに耳にしながら
わたしは飛んだ

寝室の闇のなかで
夢のさめきらぬまま
わたしは身動きのできぬ
重い体と心を感じていた

悲しみとも
苦しみとも
言いあらわせぬ
冷たい気配に覆われながら
わたしの傷ついた翼は
どこへいったのだろう
と思った

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