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詩ことばの森(56)「木にふれる」

木にふれる

木にふれると
指先に温かさを感じた
木の肌に
耳をつけると
水の流れる音がした

木は生きているね
と  きみに話したら
それは
ぼくの体温で
ぼくの血の
流れている音だ
という

なるほどな
と感心しながら
ぼくは
ぼく自身にふれてこなかった
重大な過失に気がついた

生きていることを
自覚しない生き物を前に
木は驚いたことだろう
不思議とも
不気味とも
思ったにちがいない

ぼくはふたたび
木の下に立った
そうして
手のひらで
木の幹にふれた
あたたかい命が
ぼくのうちに流れていた

秋の風が
大きな木の枝葉を
さやかに鳴らした








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