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酒屋、只見線の講演会(&懇親会)へ行く。


ごあいさつ

はじめまして。
JR小出駅から徒歩1分、新潟県魚沼市にある酒屋「富士屋」の娘です。
店を手伝い始めて2年目の若輩ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

今回は、今月18日、只見線の講演会(&懇親会)に参加して感じたこと、考えたことをまとめました。

・講演会で学んだこと
 「一つ一つ着実に、今できることをやる」

・懇親会で学んだこと
 「人と人とをより強く結びつける地酒の力」


只見線の講演会に参加した経緯


只見線というローカル鉄道を知っていますか。

福島県会津若松駅から新潟県小出駅までの36駅、全長135.2kmを走るローカル鉄道・只見線は、四季折々の絶景が楽しめることで、国内外から人気を集めています。

只見線の新潟県側の始点であり終点である小出駅。そこから徒歩一分ほどの酒屋で生まれ育った私は、実はこれまで一度も只見線に乗ったことがありません。

物心つく前から只見線が家の横を走っていたため、それはもはや日常の風景と化しており、走る列車にあえて目を留めることすらありませんでした。

ですが、当たり前だった風景を脅かす出来事が起こります。2011年7月に発生した新潟・福島豪雨です。氾濫した河川に鉄橋が流され、土砂崩れにより線路が崩れるなど、只見線は甚大な被害を受けました。当時中学生だった私は、氾濫して濁った河川に鉄橋のがれきが沈んでいる映像を見て、大変なことが起きたと思いました。「失うかもしれない」そう思って初めて、只見線の存在が当たり前でないことに気づいたのです。

ですが、その後は進学のために小出を離れ、只見線のことは再び頭から抜け落ち、約7年が過ぎました。もう地元に戻ることもないのかな…そう思っていた矢先、父が体調を崩し、母だけになった酒屋を手伝うために小出に戻ることになりました。

一方、豪雨により被災した只見線は、沿線住民の強い思いが実を結び、2017年6月、復旧が決定しました。そして被災から11年となった昨年(2022年)10月1日、ついに全線で運転が再開されました。

全線開通の半年ほど前から酒屋を手伝い始めていた私は、全線開通とともに明らかに増えた来客に、只見線の影響力を実感しました。いつか、自分も一度は乗ってみたいという思いをつのらせながらも、仕事を覚えるのに精一杯で、昨年の乗車は叶いませんでした。

そして今年三月。ようやく春の気配が感じられるようになった矢先、雪解けによる落雪のおそれから只見線の一部区間が運休になるとの知らせを受けました。

そのことを知らずに会津若松まで行こうと楽しみにやってきたお客さんが、肩を落としてうちの店を訪れることが何度かありました。やむなく小出駅で下車し、周辺で次の電車までの待ち時間を潰そうにも、駅の周りには2、3軒の飲食店と酒屋があるだけ。外から来た人にしてみれば「何もない」に等しい状態と言えます。何かないかと淡い期待を持ってうちに来店されるも、置いているのは日本酒と少しの食品のみ。当然お酒が好きな人ばかりではありません。がっかりしたままの背中が去っていってしまう…

この状況をなんとかしたい。切実にそう思いました。

只見線に乗る人の気持ちを知れば、なにか店作りに活かせることがあるのではないか。そう思い、それから毎日SNSで只見線の情報をチェックするようになりました。

そんな時、たまたま只見線の講演会が隣町の堀之内で開催されるという案内を見かけ、これは行かなきゃ!と思いました。そのときすでに申込締切を1日過ぎていましたがダメ元で連絡し、電話を受けてくださった堀之内公民館の職員さんの計らいで、無事に参加を受け付けてもらえました。


講演会での学び

「一つ一つ着実に、今できることをやる」


小出駅から上越線下り列車で一駅の越後堀之内駅。そこから徒歩10分のところにある堀之内公民館で講演会は行われました。今月18日(土)のことです。

講師である郷土写真家・星賢孝(ほし けんこう)さんは、福島県金山町の出身。金山町を含む奥会津地域と只見線を年間300日、30年間撮影し続けて来たというすごい方でした。その他にも、金山町の「霧幻峡の渡し」と呼ばれる渡し船の再興、地元建設業者の雇用保護、東南アジア諸国での只見線イベント開催、主演ドキュメンタリー映画の制作・公開など奥会津活性化に向けて精力的に活動されてきたそうです。その活動の軌跡から、郷土への強い想いと並外れた行動力が伝わって来ました。

星さんが成してきた数々の功績を前にして、自分にできることは何だろうと、講演を聞きながら考えていました。今まで只見線のことを気にも留めず生活してきた時間と、酒屋を手伝い始めて1年弱の経験の浅さを思うと、自分に一体何が出来るのかと心細く、勝手にプレッシャーのようなものを感じていました。

そのような現状を踏まえて、講演後の質疑応答で、思い切って質問しました。
「小出駅周辺を盛り上げていくために、何ができるでしょうか」

すると星さんは言いました。
「小さくても、できることを実行すること。例え会議を100回やろうと何もしなけりゃ意味がない。行動に移すことが大事。一人より二人、二人より三人で。」

この言葉から感じたことは、どれだけ背伸びをしても自分は自分でしかなく、一人でできることはとても小さく、それでも行動に移して形にし、それを積み重ねていくしかないということ。そしてその積み重ねをさらに大きくしていくには人との協力が不可欠であると、そう教えられた気がしました。

おそらく今回いただいた言葉は、自分をこれからもずっと励ましてくれると思います。


講演会メモーーーーー

●只見線の魅力
・海外からの観光客(インバウンド)にとって
 →四季折々(特に夏の川霧と冬の雪原)の絶景
・沿線の地域住民にとって
 →これまで守ってきたという誇り、いつも近くにある親しみやすさ
  ★外の人(観光客)が気づかせてくれた魅力

…只見線を通じて生まれる人と人のつながりが只見線の存在をより強固にする。只見線が人をつなぎ、人のつながりが只見線を支える。そのような循環にあるということがわかった。それ自体が只見線の魅力のひとつではないかと感じた。

●課題:鉄道マニア以外の国内観光客にとって魅力は薄い?

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懇親会での学び

「人と人とをより強く結びつける地酒の力」


講演会終了後、たまたま隣に座っていた男性から懇親会のお誘いをいただきました(後にこの方が魚沼市社会福祉協議会の会長だと知る)。
突然のことに正直戸惑いましたが、思い切って参加してみることにしました。快く店番を引き受けてくれた母に感謝です。

夕方、小出の町中にある焼肉店に集まり、魚沼(新潟県)メンバー6名、会津(福島県)メンバー6名、計12名でテーブルを囲みました。その中では私が最も若輩で、しかも周りは初めてお会いする方ばかりでした。

魚沼側は、堀之内公民館館長、同公民館元館長、只見線の保線に携わった元JR職員、魚沼市社会福祉協議会会長、奥只見郷ネイチャーガイド会長。
会津側は講師の郷土写真家・星賢孝さん、ボランティア団体「オールおくあいづ」の理事、地元建設会社社長、会津を拠点とするグラフィックデザイナー、奥会津かねやま福業協同組合(通称「金福」)の事務局員、金山町建設課長。

そうそうたるメンバーに囲まれて、緊張を通り越し、なんだか現実感がありませんでした。

浮足立った気持ちのまま、自分も一応の自己紹介を済ませ、乾杯酒には「霧幻峡」という会津の日本酒をいただきました。
ラベルの写真を星さんが、題字をデザイナーの斎藤さんが、製造を地元・花春酒造さんが手掛けた、オール会津の限定品です。霧幻峡の川霧をイメージしたといううすにごりのお酒は、すっきりした甘みでとても美味しかったです。

その後、小出の地酒も振る舞われました。こうした飲みの席で地酒が親しまれている。その光景を直接目でみて、その空気を肌で感じたのは、実は初めての経験でした。

というのも、成人してから「飲み会」にはそれなりに参加したことはありましたが、当時は小出を離れていたし、同年代が頼むのはチューハイやカクテルなど、日本酒以外のアルコールがほとんどでした。そうこうするうちにコロナ禍となりついには「飲み会」自体がなくなりました。小出に戻って来てからも、飲むときは自宅で身内と、または一人で、がほとんどでした。

そのため今回、みなさんが小出の地酒を傍らに楽しんでいる様子を目の当たりにして、心の中でひそかに感動しました。それは地酒を販売する酒屋として、とてもありがたい光景でした。

美味しい地酒や料理に緊張も少しずつ緩み、皆さんのお話を聞いたり、自分からも話したりすることができました。

テーブルを挟んで星さんと対面してみると、思っていたより柔らかい印象で、親しみやすい雰囲気を持つ方なのだと気づきました。講演会で意志を貫き実行する強さが印象付けられていたから、余計にそう感じたのかも知れません。

また、堀之内公民館の館長・大桃さんはなんと父の学生時代の同級生だと知りました。店の事も昔から知ってくださっており、地元の祭りに積極的に参加してみてはどうか、など具体的なアドバイスを頂き、とても有難かったです。

また今回の講演会は、ボランティア団体「オールおくあいづ」の理事で、星さんの長年のご友人でもある諏江さんが、星さんと大桃さんの間を取り持ち、10回以上もの打ち合わせを経てようやく開催にこぎつけたということでした。定員は60人でしたが、当日の参加者は70人にもなったということです。星さんと大桃さん、二人を繫ぐ諏江さんのご尽力があって実現された今回の講演会であったことを知りました。

そういったこれまでの経緯や、これからの活動について、皆さんが楽しそうに語っている姿は素敵でした。この場に参加しなければ聞けなかったお話や出会えなかった人に、こうして巡り会えたことをふと実感し、なんとも言えない温かい気持ちになりました。

そして、この場を柔らかく包んでいる地酒の力を感じていました。
地酒をきっかけに、その土地やそこで生活する人々の話に花が咲く。時間とともに酔いが少しずつ人の心を解放し、心を開いて話すことで、人と人のつながりをさらに強いものにしてくれる。時には開放感から、普段隠している本音がこぼれてしまっても「酒の席だし仕方ないね」と笑って忘れられる。それもまた酒の力だと感じました。

人と人との出会いの間に地酒があることを、地元の酒屋として心からありがたく、幸せだと感じた夜でした。

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翌朝。8時の開店とともに、懇親会をともにした会津の方々が店に地酒を買いに来てくださいました。昨日一緒に飲んだ銘柄を手に、「頑張ってね。」「またね。」と言葉をかけてくださり、とても嬉しかったです。
会津の皆さんを乗せたバスを見送りながら、体の底からエネルギーが湧いてくるような気がしました。



只見線は昨日22日から一部区間運休が開け、全線再開通となりました。
気候も暖かくなり、これから只見線の利用客が増えることが見込まれます。
只見線の利用客の方をはじめ、みなさんに少しでも喜んでいただけるような店作りを目指して、自分にできることを一つずつやっていきたいと思います。

また、来月には只見線に乗って会津若松まで行ってみようと計画中です。実際に乗車することで只見線利用客の気持ちを体で感じ、そこから店作りのヒントを得られたらと思っています。

会津の町をめぐり、会津の地酒を買って帰るのが、今から楽しみです。

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