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【起業】新規事業開発における立ち上げ手順と社内制度

成長したいビジネスパーソンの為の、幅広い知識を横断的に身につけてリベラルアーツ化を目指す note。

本稿では「イノベーションの再現性を高める新規事業開発マネジメント;北嶋貴郎」を引用して、新規事業開発におけるナレッジを紹介していく。

【読んでほしい人】
・新規事業開発に関わる人
・新規事業のコンサルティングファームに属する人
・新規事業に興味のある人

【プチコメント】
新規事業開発は不確実性が高いので、これが正解というのはどれだけ多くの書籍を読んでも確立できない。ただ、新規事業開発を幾度も繰り返していく中で共通事項や進め方の大枠のテンプレートが見つかるものである。本稿ではそういったナレッジを展開していこうと思う。

図1.参考図書

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#1.今こそ新規事業の市場が熱い!

冒頭で述べた通り新規事業領域に正解はないので新規事業を起こせば必ず成功する人はいない。GAFAですら新規製品を発表しては失敗することも多い。━━━過去最大の過ちと悪評高いAmazonの発表したfire pnoneを知っているだろうか。

ただ、2023年、日本において2つの観点で新規事業開発を学ぶ大きな意味がある。

1点目は、日本が今後イノベーション大国になり得るからである。グローバルに見ても大手企業にリソースが偏りつつ中小企業が溢れかえる日本市場は珍しい。最近になって海外でもGAFAのような一強企業が出てきたが、それでも毎年ユニコーン企業が表れては古い企業が消えていくというような一定数の新陳代謝が機能している。

日本ではこれからそんな古い角質が残る大手のリソースにイノベーションをかけて生まれ変わらせていかないといけない。それによってこそ今一度日本を盛り上げることができる。

厳しい状況にある日本ですが、見方を変えれば少子高齢化をはじめとするさまざまな「社会課題」に他の先進国より先に直面する「課題先進国」でもあります。

そういう時流にあるということは必然的にイノベーション人材━━━テクノロジーを理解していて新規事業など不確実性の高いプロジェクトを推進できる━━━の市場価値は高くなる。

という状況にも拘わらず日本のイノベーター人材は米国に比べてかなり不足している。今後どこの企業でもさらにこぞって必要とされていくだろう。

図2.DX白書2023 エグゼクティブサマリー

2点目は承継問題に関わる事柄である。現在日本では約100万件ほどの中小企業が承継先に困っている。中には黒字なので引き継げる人さえいればビジネスとして全く成立する企業も多くある。

こういった会社をM&Aで買収してバリューアップ、バイアウトするPEファンド的な動きが向こう10年で加速し、ここに非常に大きなビジネスチャンスがある。


ただ、既存ビジネスをバリューアップするにはそれなりのイノベーティブな掛け算ができる基礎知識や理解が必要となる。

その際に、新規事業開発における事業をグロースする観点が役立つ。新規ビジネスをグロースさせた経験を活かすことができるのだ。━━━これで君も未来の新規事業マスター!

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#2.新規事業開発で必要な手順とは

まず最初のステップとしては新規事業を実施するためのビジョンを固めることである。「なんだ。ビジョンなんかはどこの会社にでもあるじゃないか」と思われるかもしれないが改めて”新規事業における”ビジョンを立てる必要がある。

特にメインの事業が既にあり、2本目以降の事業として新規事業を開始する場合に注意が必要である。大抵の場合は既存事業で収益を生み出し、そのリソースを新規事業にあてる形になる。

そうなれば既存事業を回しているメンバーからすればその収益分を給与に回してほしいと感じるし、新規事業にアサインされたメンバーも大義名分がなければ真に腹落ちして使命感に燃えることはないだろう。

━━━いやいや事業は違うとは言え、同じ会社またはグループに属するんだから協力するだろう!

と思ったそこのあなた、実は話はそんなに簡単ではない。むかし私が新規事業コンサルの社長に聞いた逸話で面白いものがある。

とある企業で新規事業を立ち上げることになり、新会社を設立した。法人設立するところまで順調だったがとある事件をきっかけに本社側の協力を得られなくなり事業はぽしゃることになった。

とある事件というのはなんと本社よりも新会社のオフィスに設置されている自販機の飲み物が10円安かったというものだった。

組織理論でよくある2:6:2ではないが、会社規模が大きくなればなるほど帰属意識は薄くなり自己の利益が先行するようになる。スタートアップではなく新規事業を立ち上げるということはそういった社内力学みたいなものを理解しておかないと到底立ち上がるものではないということがわかるだろう。

ポイントとしては、以下の5つの観点に照らし合わせて会社としての目指す方向を考えることである。

①定量的で達成しているかどうかが「客観的」に判断できる
②社会課題の解決など貢献性がある
③自社ならではのオリジナリティがある
④実現に至るまでのロードマップがある
⑤策定までに至るプロセスが開示され、納得感がある

ゴールである「ビジョンが達成されている状態における企業の事業内容や事業ポートフォリオ、それぞれの事業規模、対象としている市場や顧客と提供価値」を想定したうえで、現状の既存事業が持続的な改善や漸進的な成長を積み重ねたとしても「埋められないギャップ」があれば、それこそが新規事業に取り込む意義です。

目指す方向が完成すれば会社としての向かう方向と新規事業の意義が定量的にかつビジョナリーに社員に届くようになっていると思う。

次のステップとしては、企業が持つリソース(=経営資源)について分析する。

クライアント数、クライアントの業界知識、会社の運用ナレッジ、資本、社員のスキル(資格保有など)、パートナー数、オウンドメディアなどなど

「うちには特に使えるリソースがない」と感じている人は多いが探してみると自社社員からすると当たり前になっていて気づいていないものはたくさんある。それらを洗い出して活用できるかを精査する。

3ステップは、いよいよ具体的に何をするか?を考えていく。上記で考えた新規事業の意義と社内のリソースを加味して市場を決めていく。進出する領域は大きく分けて3領域だ。

隣接領域
比較的不確実性が低い新規性を取り入れているケースで、中核領域━━━既存事業と共通する要素も多く、既存の経営資源を転用できる範囲や可能性が大きい「隣接領域」という定義になります。比較的短期間で成果を上げることが期待でき、新規事業としてはローリスク・ローリターン取り組みになる傾向があります。

隣接領域では、既存のお客様に対して新商品をリリースする、など顕在化しているニーズを対象にすることが多い。ニーズは既に顕在化しているので新しく市場を創るような不確定要素は少ないものの競合が既に同様の事業を展開していることも多く、後発でブラッシュアップするような事業が必要になる。

周辺領域
比較的不確実性が高い新規性を取り入れているケースを「周辺領域」と定義します。中核領域━━━既存事業と共通する要素や既存の経営資源をそのまま転用できる範囲や可能性も限定的になり、新たな用途開発や経営資源・組織能力の拡張が必要になります。成果が出るまでの時間軸が比較的長く、新規事業としてはミドルリスク・ミドルリターンになる傾向があります。

売り切りモデルで販売していたものをフリーミアムモデルに置き換えるような同商品を異なるビジネスモデルに転用するケースや、既存のお客様の潜在化しているニーズを発掘するケースが該当する。潜在化しているニーズを発掘していくので競合が事業を展開していることは少ない一方で正しくPOC検証できないとニーズのない製品を作ってしまうこともしばしば。

私自身も幾つかコンサルに入っている中で、先に製品を完成させてしまってお客様に売りに行っても全く受け入れられずイニシャルコストだけが嵩んでしまったケースを知っている。この領域で参入する場合は有識者に知見を借りるのが賢明だ。

革新領域
市場/顧客や製品において全面的に新規性が高い「飛び地」に挑むケースです。中核領域━━━既存事業と共通する要素・既存の経営資源がそのまま転用できる範囲や可能性も小さくなり、新たな用途開発や経営資源・組織能力の獲得・強化が必須になる「革新領域」という定義です。この領域の事業はその他の領域の事業の競合や脅威となる可能性も多分にはらんでおり、また成果が出るまでの時間軸は中長期で、新規事業としてはハイリスク・ハイリターンな取り組みになります。

革新領域では、周辺領域に比べてさらにそもそも市場やターゲットを創りだすようなスタートアップの色が強い。例えば、馬車が主流であった時代の車や現代におけるメタバース、チャットGPTのような出てくるまで誰も想起しないような新規性のあるものを指す。

以上のように、領域を検討する中で顧客や市場の課題発見ができたら、その課題を具体化するために顧客にヒアリングを重ねて検証していく。

検証が完了すれば実際にMVPと言われる最小限のプロダクト・サービスを創って、課題がそのプロダクト・サービスで解決できるかを検証をする。

その検証ができれば実際に本格的なプロダクト・サービス開発と販売、セールス、カスタマーサクセスチームの立ち上げに入っていく。

このプロセスの解説はかなり長くなるので細かい話はPMFという概念で以下に譲ることする。

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#3.新規事業開発の組織開発

ここまで新規事業開発におけるSTEPを話してきたが、もう1つ大事なアイデアがある。どこまで行っても結局は事業を立ち上げるのは人であり、組織である。その前提に立つと、社内でイノベーター人材を支援する仕組みを整えること肝要だ。

事業開発するうえで、#2(新規事業開発で必要な手順とは)で説明したそれぞれのステップには課題が潜んでおり、初めて新規事業に携わるメンバーが1人で解決するにはハードルが高いものばかりだ。

そこで、IRM(=Innovator Relationship Management)という社内外のイノベーター人材と良好な関係性を構築するために、各ステップで発生する課題を解決するべく伴奏する新しい組織を立てる。

図3.IRMの概念図

無我夢中で新規事業開発に取り組む中で、イノベーター人材やそのチーム自身は進捗や状況を客観視することが難しいものです。チームや現場から一歩引いた別の立場から、冷静な視点を持って有効な支援を提供できること。

IRMの推進していく内容としては、

▼新規事業のリーダーに適した人材=イノベーター人材の発掘・配置
 ①イノベーター人材の要件や定義を理解・検討する
 ②イノベーター人材の志向性・資質を把握し、発掘・配置する
▼イノベーター人材やチームの能力・成果を最大化する育成・活躍
 ③事業開発プロセスにおいてイノベーター人材が直面する壁や課題を知る
 ④人材や事業フェーズに合わせた支援を行い、育成・活躍を促進する
▼健全な多産多死を構造的に実現する組織文化や仕組みの構築・定着
 ⑤客観性のある明確な撤退基準を定めて対話する
 ⑥成長やプロセスから得た知見や示唆を蓄積して体系化・形式知化する
 ⑦次の挑戦につながるサイクルを生み、挑戦しやすい組織文化と構造を作る

2点だけピックアップする。

③(事業開発プロセスにおいてイノベーター人材が直面する壁や課題を知る)において、図3で説明している通り、各開発フェーズにおいて課題がある。例えば検証フェーズにおいては、検証先がなく検証が進まないor同様のターゲットに偏って検証することで誤った検証にたどりつく。

試作品を開発するフェーズでは、試作品をつくる技術者がいない、外注したものの要件と異なるものができあがる、などなどの課題がある。

これらを理解しながら社内リソースや知見を用いてイノベーター人材をサポートすることがIRMの意義である。

⑥(成長やプロセスから得た知見や示唆を蓄積して体系化・形式知化する)において、社内で新規事業を立ち上げていく際に必ずナレッジが生まれる。それは新規事業における一般的なもの━━━事業開発にはスキルや能力だけでなく、ビジョンへの共感やチーム親和性の高い人材にするべき━━━もあれば、その企業内においてのも有効な汎用性の低いものもある。

例えば、自社の社名やブランド名を伏せたままスピーディに新規事業に取り込む運営スキームやパートナー企業との連携パターンを体系する、新規事業開発における人事異動や配置展開のタイミングなどである。

このような自社特有のナレッジはどこのコンサル会社にも書籍にも載っていないが、自社新規事業が成功する上で最も大事な暗黙知になるのでしっかり形式知化して、引き継いでいくことが大事である。

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#4.まとめ

繰り返しではあるが、全ての新規事業開発に万能な理論やナレッジは存在ない。それでも本稿であげたようなものは一助にはなるだろう。

▸今後日本市場において新規事業開発ができるというスキルは必ず重宝されるので経験しておいて損はない。
▸勢いだけで新規事業は成功しない。ビジョンの策定、新規事業の意義の浸透、社内力学の理解というベースがあって初めて成功する。
 ①定量的で達成しているかどうかが「客観的」に判断できる
 ②社会課題の解決など貢献性がある
 ③自社ならではのオリジナリティがある
 ④実現に至るまでのロードマップがある
 ⑤策定までに至るプロセスが開示され、納得感がある
▸既存事業に近い市場にするのか、革新的な市場にするのかはメリデメがあるのでビジョンや社内リソースなどを考慮して決定する。
▸新規事業をやってやりっぱなしにならないようにIRM(=Innovator Relationship Management)という組織を立てて再現性を持たせる。

━━━FIN

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