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『ハウス・イン・ザ・フィールズ』タラ・ハディド監督インタビュー:「撮影し終わってフッテージを見た際、彼女たちの痛みがどれほど強いのか、私はやっと理解しました」

アトラス山脈の四季折々の自然風景と、モロッコの山奥で暮らすアマズィーグ人の姉妹の慎ましくも美しい日々の営みを記録した映画『ハウス・イン・ザ・フィールズ』が、4月9日(金)よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、4月16日(金)よりアップリンク京都にて公開となります。

本作は、アトラス山脈の四季折々の自然風景と、モロッコの山奥で暮らすアマズィーグ人の姉妹の慎ましくも美しい日々の営みを記録したドキュメンタリー。第67回ベルリン国際映画祭フォーラム部門最優秀ドキュメンタリー賞にノミネート他、世界の映画祭に出品され話題を呼びました。

世界的建築家ザハ・ハディドを叔母に持ち、写真家としても活躍するタラ・ハディド監督のインタビューをご紹介します。

タラ・ハディド監督インタビュー

ーーなぜこの作品を作ろうと思ったのでしょうか
20年ほど前初めてこの村を訪れた時、圧倒されました。マラケシュから10時間以上かかる場所で、たどり着くのが非常に大変なのですが、荘厳な風景や、そこに住む人々に魅了され、数年後にまた訪れました。数百年前から変わらないコミュニティの、失われつつある生活様式を記録し、彼らのクロニクルを撮りたいと思いました。人里離れて、閉鎖された山間部に暮らす特定の家族、特定の女の子たちを撮ろうと思ったのです。
7年かけて、彼女たちの生活に入っていって、カメラも一緒に生活を共にし、たくさんの映像を撮りました。撮影し終わってフッテージを見た際、彼女たちの痛みがどれほど強いのか、私はやっと理解しました。自分の気持ちをはっきり表明しない人たちなので一緒に生活している時にはわからなかったのですが、カメラが彼女たちの内面を捉えていたんです。

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ーー モロッコの女性の地位
15年ぐらい前にモロッコ政府は、女性の地位を根本的に上げる、革命的といっていい家族法を作りました。離婚したら財産は半分に分ける、就業の自由などが書かれているわけですが、法案が通っても実際にそれを適用しないと意味がない。男性たちがそれに応じて動かないといけない。とくに田舎では、まだまだ時間がかかる。
ただ、実際に生活を共にして見えてきたことは、女性が犠牲になっているだけではなく、男性も犠牲になっていたということ。つまり、このコミュニティが、犠牲のうえで成り立っている。伝統があまりにも強く存在しているので、そこを破るわけにはいかない。個人のためではなく、共同体のため。個人の犠牲によって共同体が今まで生き延びてきたのです。
とはいえ、男の子のほうが少し特権的な立場にあることは確かです。自分がやりたいことを主張できる立場にはあるからです。女の子が「大学に行きたい」というのはタブーですが、男の子だとそれほどタブーではありません。

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ーー 彼女たちのその後は?
ハディージャはとても活発で頭のいい子です。家族法が変わったことにより、今までになかった権利が女性に大きく与えられた、それを知って彼女は弁護士になりたいと思ったようです。ですが、夢を追いかけるために共同体を離れるということは、とても大変なことです。私はハディージャのご両親に「彼女を大学に行かせてあげてください」と懇願したことがあります。でも、それは行き過ぎたお願いだったようです。お母さんに「彼女がいなくなったら誰が畑仕事を手伝ってくれるの?動物の世話をするの?」と言われました。

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村の人たちも「教育は必要ない」と考えているわけではありません。しかし子供たちが学校に行くと、仕事を手伝う人間がいなくなる。「村を出たい」という願望を持つ若者たちも多いと思いますが、実際には、彼らは村の一部であり、山の一部なのです。山間の暮らしに愛憎を抱きながら、その一部として生きている。ここは、外部の人間が立ち入ることのできない、白黒ではない難しい問題です。

わたしは教育が大切だと考えています。ただ、あの村をとても尊敬し敬意をもっていますので、彼らのルールを尊重したいとも思っている。コミュニティの価値観を変えるというのは、とても長いプロセスが必要で、政府とかNGOとか、いろんな人が関わって根本から変えていかなくてはいけない。

今、彼女は結婚して、夫と息子と幸せに暮らしています。でも、まだ全然遅くないと思うのです。彼女はまだ19歳です。マラケシュの郊外に住んでいるので時々会いますが、いつも言っています。「まだまだあなたは若いし、遅すぎるということはないのだから、また勉強したらいいんじゃない?」と。

監督プロフィール

タラ・ハディド監督

タラ・ハディド Tala Hadid
脚本家、監督、プロデューサー。建築家のザハ・ハディドは叔母にあたる。
1996 年に『Sacred Poet on Pier Paolo Pasolini』で監督デビュー。何本かの短編を監督した後『Tes Cheveux Noirs Ihsan』(2005)で学生アカデミー賞を受賞し、ベルリン国際映画祭パノラマ部門最優秀短編映画作品賞に輝いた。
2014 年、『Itarr el Layl』 (英語タイトル:The Narrow Frame of Midnight)を完成。この作品は、トロント国際映画祭でプレミア上映された後、ニューヨークのリンカーン・センター、ローマ国際映画祭、ロンドン国際映画祭、 ウォーカー・アート・センターなど世界中の数多くの映画祭や映画イベントで上映された。
ニューヨークの売春宿を撮り続けた写真ドキュメントのプロジェクト“Heterotopia”や、2芸術写真の出版を手がけるスターン出版から、新進の写真家を紹介する “Stern Fotografie Portfolio” シリーズでハディドの写真を特集した本が出版されるなど写真家としても活躍している。

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『ハウス・イン・ザ・フィールズ』(モロッコ、カタール/2017年/86分/1:1.85/アマジグ語/原題: TIGMI N IGREN)
監督・撮影:タラ・ハディド
出演:カディジャ・エルグナド、ファティマ・エルグナドほか
字幕翻訳:松岡葉子
配給・宣伝:アップリンク

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