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闇鍋人狼デザインノート

闇鍋人狼というゲームをリリースしたので企画意図とかを書きます。作り始めていたときに考えていたことや、何がしたかったのか、何ができて何ができなかったのか等を振り返っていきます。

闇鍋人狼とは

おいしい鍋を作る店員陣営と、それを邪魔しようとするスパイ陣営に分かれて遊ぶ正体隠匿ゲームです。最大4人までのマルチプレイはもちろん、1人でシナリオを読みながらゆっくり練習できるソロモードでも遊べるほか、直接ゲームをプレイしていない人とも一緒に鍋が作れる点などが特徴です。デジタルゲームとして実現されていて、モバイル2ストアで配布中です。

開発期間はおよそ1年半くらいで、基本的には1人で作業しつつアセットの発注やテストプレイなどで適宜協力してもらうという体制でした。

企画のスタートと問題意識

筆者はアナログゲーム、特に正体隠匿系が好きでボドゲ友達と集まったときはよく遊びます。作るのも好きで、闇鍋人狼を作る前はマーダーミステリーを作っていました。

プレイヤ・デザイナとして色んなタイトルと関わっていくなかで、特定のギミックやフレーバーに依らず、ジャンル自体に共通する問題があるのでは?と感じるようになってきました。主に以下のような点です。

  • 雰囲気が悪くなりやすい

  • 人数を集めるのが大変

  • 小規模開発だとマネタイズしにくい

このあたりにうまくアプローチできれば良いものが作れるのではないか、というのが企画のスタートでした。まずは、それぞれのトピックを掘り下げていきます。

雰囲気が悪くなりやすい

仲間同士で疑い合ったり殺し合ったりするゲームなのでギスギスしがちです。当然といえば当然なんですが、普段からジャンルで遊び慣れてる人や勝手知ったる仲間同士で嬉々として騙したり殺したりができる人達は、それが殺伐としてることを見落としていまいがちです。

最近だとAmongUsが流行ってあんまり正体隠匿系をやらない人が入った卓でよく起きていたように思います。初めて遊ぶ人がインストもままならない状態でいきなり吊られたり、露骨なプレミで議論中ボコボコにされてしまうなどです。

経験豊富な人や競技志向の人ならまだしも、友達に誘われたからちょっとやってみた、ぐらいの温度感の人がいきなりこんな目にあうのはなんとか避けられないものかと思います。

正体隠匿ゲームの多くは論理パズルとトークゲームの側面を持っています。パズル部分は定石やパターンなどがある程度決まっているものの、それを理解するためにいきなりリアルタイムのトークゲームをこなして体で覚えるしかない、という状況は何かしら解決できる余地があるのではと思います。

正体隠匿系をあまりやらない人にも届いたAmongUs

人数を集めるのが大変

これも当然と言えば当然なんですが、ある程度の人数を集めないと遊べません。ボードゲームの中でも特に正体隠匿系は要求人数が多いことが多く、普段から一緒に遊ぶ人が潤沢だと見落としがちなんですが、遊びたくても気軽に一緒に遊べる人がいない人は多いのではないでしょうか。

加えて、プレイするために必要な最低人数だけでなく最大人数や推奨人数が設定されていることも多く、『急に来れなくなった』や『呼びたい人がいるんだけど』に対応できないのも問題の1つでしょう。

アナログゲーム体験の良し悪しの大部分は一緒に遊んだ人に依ります。身も蓋もない話をすると、仲の良い友達と一緒に遊ぶ時間を設けれた時点でだいたいどんなゲームで遊んでも楽しいとまで言っていいと思います。

プレイ人数にまつわる問題は直接ゲームの中身には関係ないものの、体験には大きく影響を与えているでしょう。

小規模開発だとマネタイズしにくい

これはデザイナ視点での問題意識なんですが、マネタイズしにくいなと感じています。

ボードゲームに限らず、マルチプレイ前提のゲームは繰り返し遊ぶようにできている割にはお金が動くポイントを作りづらいです。またそもそもプレイ自体は無料を期待されており、課金によってゲームに優劣がつくことも敬遠されがちです。

結果的にスキン課金やシーズンパスなど、ゲームルールや競技性の部分には直接関わらず、無くても遊べるけどあるとより楽しいといった方法が主流なようです。これは、膨大なアセットを継続的に提供し続ける前提でできており、それなりの開発体制に依存しています。

一方で小規模な個人開発で採用されているマネタイズの方法は時短やリトライなど、アセット量に依存しないものが多いです。

開発規模によって取れるマネタイズの手段に制限があるのはどうしようもない問題ですが、うまく工夫してそれぞれの良いとこ取りができれば汎用的な知見が得られる可能性もあります。

要件と制約

上記のような問題意識から『ソロでも遊べる正体隠匿ゲーム』を作ろうと思いました。具体的には正体隠匿をデジタルゲームで作って、そこにCPUを実装するという手段です。

正体隠匿ゲーム(=トークゲーム)は会話を楽しむゲームなので、そもそもCPUを入れるのは難しいのですが、逆にゲームの内容をCPUによせてあげれば実現できる可能性があります。

つまり、CPUが入っても破綻しないという制約を満たしつつ、正体隠匿系の面白さを最大化するようにゲームをデザインしていくということです。

CPUが実現できるとプレイ人数が可変になるので、集まった人が多かったり少なかったりする状況に強くなります。また、可変ということは1人も含まれるので結果的にソロモードも実現できます。

これにより、ソロモードをマルチプレイのチュートリアルという位置付けにして、皆で遊ぶ前に知っておいた方がいい知識を自分のペースで遊びながら学べるということが可能です。

同時に、マルチプレイ前提では難しかったマネタイズの仕組みも色々と取り入れられる可能性もひろがります。

既存プロダクトの調査

さあ作っていくぞ、と言いたいところなんですが、まずは既存プロダクトの調査をします。

実際に開発しているときは完全に調査が終わってから実装を始める、ということはなく調査と実装を繰り返しながら徐々に試行錯誤を進めていくことになります。

このプロダクトでも調査したものは沢山あり、有名なものからマイナーなものまで、無数の既存プロダクトを参考にしました。ここでは、その中のいくつかを紹介します。

『コマンド化』したグノーシア

グノーシアは1人用の人狼です。本来、他プレイヤやゲームマスターが必要なところを全てCPUがやってくれるので人数がいなくても遊べるし、雰囲気が悪くなることもないです。先にあげた問題意識をほぼ全て解決しているので、参考にできる部分は多岐にわたります。

まず、CPUを実現したことに関しては、既存の人狼でのアクションをコマンド化したことが大きいと思います。投票や占いなど、既にコマンド化されているものに加え、疑う・擁護するなど抽象的なアクションもコマンドになっているのが大きいです。

またカミングアウトや嘘の証言など、慣れてるプレイヤにとっては実質コマンド化されてるものの、会話でしか表現できないアクションがコマンド化されているのもポイントです。

これは定石やパターンを知らない人が、ゆっくり時間をかけて練習するという視点ですごく意味のあることです。

沼プレイを許してくれるしげみち

ソロでも遊べるアナログゲーム

ソロでも遊べる、という特徴はマルチプレイ前提のアナログゲームでも結構導入されています。

筆者が開発期間に遊んだゲームで特に良かったなと思ったのが、エバーデールやキャリコでした。これらは、マルチプレイ前提のゲームでありつつ、ソロモードも搭載しています。マルチプレイのルールから他プレイヤとのインタラクションを除き、手番の中でどれだけ高いスコアを取れるかというモードで遊べます。

マルチプレイと比べて寂しい感じはあるものの、そもそもリソースをシャカシャカ回していくのは結構楽しくて、パズルとして黙々と遊べる良さがあります。

マルチプレイと同じルールでプレイできるという点も良く、例えば先にソロモードで遊んでおくと、おおよそのゲームの流れが分かり、いざ皆で遊ぶときにインストがスムーズになるといったメリットがあります。この点は特に参考になりそうです。

友達とでも1人でも遊べるエバーデール

その他

他にも既存のゲーム、特に正体隠匿系は色々と調査していたのですが結構な数になりそうなので別の記事で改めて整理しようかなと思います。

実装

実装はかなり手探りでした。上記のとおりCPUでも遊べるという制約を満たしながら正体隠匿の面白さを最大化できるよう、ひたすら試作とプレビューを繰り返す感じで進めていました。

現時点から振り返ってみると色んなバージョンがあり、例えば最初は料理ですらなく、魔王を倒しにいく勇者一行の中に魔王のスパイがいるという内容でした。

初期バージョン

バトルを繰り返してレベルを上げていくというよくあるRPGをベースのゲームにしていたので色んな要素を載せれたんですが、盛り込みすぎて何がどう面白いのか散らかっていて分かりにくい状態でした。

なにより、敵であれモンスターであれバトルする、つまり暴力をふるってゲームを進めるということに違和感がありました。先にあげた問題意識でも、吊ったり噛んだりで人を殺すのは少なくとも雰囲気を悪くする一端ではあると思うので、できるだけ暴力は避けたいなと思いました。

非暴力の案としては『文化祭実行委員の中にライバル校のスパイが潜んでいる話』や『アイドルグループのAちゃん推し親衛隊の中にBちゃん派が潜んでる話』などが候補にありましたが、食材の種類や調理工程などでデザインの幅が持たせやすそう、という点を評価し料理を採用しました。また、料理の中でも闇鍋にしたのは、真っ暗な中で鍋に食材を入れるという状況が正体隠匿系と極めて相性が良さそうだったからです。

闇鍋をテーマにする場合、多数派はどっちなのか?という議論があります。自然に考えると良いこと(美味しい鍋を作る)をしようとしている方が多数派になりますが、逆にしても成り立つ世界観はあると思います。

例えば闇鍋の力で世界を混沌に陥れるカルト教団の中に、世界の秩序を守る鍋警察がスパイとして潜入する、という話だと多数派が鍋をめちゃくちゃにして壊すゲームになったと思います。

今回は説明のしやすさを優先して自然な順にしましたが、魅せ方に自信があれば逆順にしてもキャッチーにできたかなと思います。

鍋を作るヤンキー達の話だったころの企画書

他にも、食材や料理はリアルなものが良いかファンタジーに振り切った方が良いか?第三陣営はあるのか?密談はあるのか?など様々な検討事項があり、それらを1つずつ対応していき現在の形になりました。

達成できたこと

『ソロでも遊べる正体隠匿ゲーム』は達成できました。人間4人で遊んでいるときは普通の正体隠匿ゲームと比べても遜色ない体験ができ、何人かがCPUと入れ替わっても破綻なく遊べます。

また、ソロモードにちゃんとシナリオを付けれたのが良かったです。正体隠匿系というゲームの性質上ミステリーとの相性が非常に良く、真犯人は誰か?いわゆるwho done itの文法が使えます。

これらは古くから語り尽くされてきた分野でもあるので、ある程度テンプレ通りに構成していくだけでそれなりにまとまってくれます。

結果的に、ソロモードが淡々と課題をこなしていく無味乾燥なチュートリアルにならず、物語を追いながらゲームの遊び方も身につくものにできたと思います。

達成できなかったこと

ゲーム全体を通して「もっとこうしたい!」という箇所は沢山あるんですが、先にあげた問題意識に沿って振り返ると主に3つになります。

CPUの質が低い

必要なコミュニケーションをコマンド化したことでゲームとして破綻はしてないんですが、プレイヤを楽しませるレベルにまでは達していません。トークゲームである以上、人間同士で遊んだときの会話が楽しくなるようデザインしているので、そこを磨くほどCPUが付いてこれなくなってしまします。

また、犯人推理の論理パズルが複雑になったときそれを理解できないということもあり、人間なら落ち着いて計算すれば分かることが分からず、それを伝える手段もないという状況があります。

先にあげた問題意識で「雰囲気が悪くなりやすい」という話がありましたが、これは味方との意思疎通がうまくいかないことも原因になります。悪い言い方をすると「馬鹿な味方に足を引っ張られて負けた」と感じてしまうような展開になるととても体験が悪くなります。スプラトゥーンやポケモンユナイトで味方にキレて台パンしたことがある人なら共感できると思うんですが、これは正体隠匿ゲームでもよくあります。

現状の闇鍋人狼のCPUはその馬鹿な味方になってしまうことが多く、味方のCPUに誤解されたせいで負ける、というのがこのゲームで一番退屈な展開です。

この問題への対応としてまず一つは、真面目に精度を上げていく方向です。CPUもゲーム進行と独立して自由なタイミングで発言してくる + 人間の呼びかけにも応答してくれるチャットボットのように振る舞うのが理想的です。

もう一つはCPUを別の存在にする方向です。例えばCPUは幽霊みたいなやつになってて、ハッキリと会話はできないけどなんとなくは意思疎通ができるといった感じです。そもそも完全に人間と同じようには振る舞えないので、世界観や見せ方を工夫してCPUは人間と別のルールが適応されてるとする案です。

チュートリアルが不十分

現状、チュートリアルでは基本的なルールと食材・お守りの効果について説明していますが、本当に説明すべきなのは論理パズルの方です。

例えば闇鍋人狼には「闇鍋ができたあと、情報を共有した人が本当のことを言っていると仮定したとき、犯行可能だった人の食材を調べて白だったら情報を出した人が嘘をついていることが確定する」といったシチュエーションがあります。

何かを仮定した上でアクションを起こし、その結果次第で仮定を振り返るというプレイはゲームに慣れてくるまでは難しく、リアルタイムで進行するトークゲームの最中は落ち着いて考えることができないので、そういうことこそチュートリアルで練習できるようにすべきでした。

アイテム課金

マネタイズに関してはほぼ何の工夫もできなかったなと思います。

現状では、マルチプレイで遊べるキャラやお守りのアンロックを売っていて、これはボードゲームが拡張セットを売る構図に近いです。

アイテムやテキストを増やすだけでベースとなるゲームはそのまま使える点は優れているのですが、結局アセットを増やしていかないと成り立たず、そもそもの問題意識だった開発規模に依存するという点を解決できているとは言えません。

例えば最初は弱い食材しか使えなかったのが、レベルを上げていくと強力な食材が使えるようになる、といった育て要素とそれに耐えるゲームをデザインすることも検討していたんですが、どうしてもボードゲームとしてのまとまりの良さと両立させることができず断念したという経緯です。

まとめ

正体隠匿ゲームに感じている問題意識をもとにソロでも遊べる正体隠匿ゲームとして闇鍋人狼を作ったところ、部分的にはうまくいったものの品質が及ばなかった点もあった、という話でした。

今後は、ゲーム自体はちょっとずつアップデートしていきつつ、デザインの話もいくつかトピックがあるのでそれも書いていけたらと思います。

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