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「食べる音楽」リターンズ

No.7 やる気の源、楽屋弁当

これくらいの おべんとばこに
おにぎり おにぎり ちょっとつめて
きざみしょうがに ごましおふって
にんじんさん さんしょうさん
しいたけさん ごぼうさん
あなのあいたれんこんさん
すじのとおったふーき
作詞:香山美子 作曲:小森昭宏<おべんとうばこのうた>より

 過日、恩師プロデュースによる声楽演奏会に出演した。これから世に羽ばたいてゆく若者たちを紹介するという名目の公演であったため、出演者の多くは、夢と希望にあふれた20代の若者たち。「門下生の会?やろうぜ、やろうぜ、いえーい♪」と、一緒に盛り上がったはずの同世代歌手たちは、知らぬ間に制作側へとまわって若者たちをサポート。古参組に分類された筆者も、「今日の主役は若者だから」と、ゆる〜い気持ちで劇場入りした。

 しかし、楽屋入りした筆者を待ち受けていたのは、恩師差し入れによるお弁当、しかも大好物のヒレかつサンド !先ほどまでのダレた空気はどこへやら。突然気持ちは高揚し、ゲネプロもウキウキのまま快調に終了。本番前にきっちり6切れのサンドを腹に収め、全てのカロリーをエネルギーに変える勢いで、アリア2曲を歌う。いつにも増して音楽装飾が多めになってしまったのは、明らかにヒレかつサンド効果。ごちそうさまでした!

 そんなわけで楽屋弁当とは、演奏に際して、士気に関わるものなのだ。少なくとも筆者にとっては、ステージで誰と共演するのか、ということと同じくらい重大なファクターである。演奏前にうっかりつまらないものを口にすると、それだけでステージにあがる気力を失いかねない。幸いなことに、食べ物に執着する性分であることが知れ渡っているせいか、素敵な楽屋弁当との幸せな出会いに事欠かない。

 某民放人気クラシック音楽番組収録でのこと。その日は早めに楽屋入りし、自分の出演するコマに備えていた。ほどなくすると、番組スタッフが楽屋弁当を運んできてくれた。メニューはカレー。ソースとごはんはセパレート、しかも3種類の中から好みの味を選べるという豪華さ!さすがに、これだけ長く全国放送で愛されている番組は、お弁当まで何か違う、と感心しきり。

 筆者が選んだのはスパイシーなグリーン・カレー。ココナツ・ミルクの甘みと青唐辛子の刺激的な辛みが、時間差攻撃で口中をくすぐり、なんとも心地よい。具材である鶏肉もジューシーで、噛み締めると絶妙な歯ごたえを残しつつホロリと崩れる。当然その日は、スパイスの刺激も手伝ってか、ゲストの芸人さんに勝るとも劣らないハイテンション。歌いながらガリアルドのステップを踏みそうになるほど、ノリノリのまま収録を終えたのであった。美味しいお弁当をありがとうございました!

 でもMCのおふたりは、ちょっと苦笑されていたかも……?ごはんによってやる気が大きく左右される歌手を、どうかお許しください。

お気に召しましたらサポートをお願いいたします。今後の作品制作に役立てたいと思います。