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レベル5の凡人、勇者を羨む

年が明けて残念な事に仕事が始まってしまった。
連休中、大きな公園に愛犬の散歩に行くと、子供を連れた家族が所々で凧上げをしていた。あまりに遠くで気持ち良さそうに泳いでいる凧をじーっと見つめながら正月だなぁとしみじみ感じていたあの頃が既に懐かしく恋しい。

始まってしまったものは仕方がないので諦めるとして、新たな1年の始まりは何かを始めたくなるものだ。私も新たな年にある事を始めた。

ドラクエを。
あの国民的人気ゲーム、ドラゴンクエストを始めた。

新年早々始めることでもないし「よし!今年はドラクエやってみよう」なんて息巻いたわけでもなく「暇やな、ゲームでもしよかな」といった感じで私の人生初めてのドラクエが始まった。

私は30年生きてきたがドラクエをやった事がなかった兄は子供の頃からやっていたし、夫もそこそこに詳しい。兄の奥さんも好きなようで集まるとドラクエの話をしたりもする事もあるけどその輪に全く入れない私。

子供の頃、寡黙な父ですら家族で出かける準備をしていると「はよ、教会行くで」なんて意味のわからない発言を口癖のようにしていた。私はうちの家系はカトリックなのかと思った事もあったりなかったりで、でも本当に教会に行くのかと思っていた。父の言う「教会行くで」はドラクエでセーブする為に教会に行かなければという意味だったようで、父と実際の教会には一度も行った事がない。

私の周りにはこのようにドラクエが溢れていた。家にだってソフトはそれなりにあったのに全くやらなかった。

私はゲームが苦手だった。そしてその中でもRPGは壊滅的にダメでいつもすぐに諦めてゲームとおさらばするのだ。

思えば私が子供の頃に流行ったポケモンのゲーム。私はそのポケモンのゲームの緑、ピカチュウ、銀と3種類買ってもらったのだが1つとして最後までやり遂げた事もなければたぶん序盤で諦めている。やり遂げてもないのによく3つも買ってくれたものだ。
このゲームの思い出と言えば、兄が赤を選ぶから私は緑、兄が金を選ぶから私は銀と、地味な方を選んだということぐらいだろうか。

RPGはすぐに迷子になる。どこに行けばいいのかわからなくなる。それは夫曰く登場人物の話を聞いてないかららしい。確かに私はゲームで文字が出てくるとAボタンを連打する癖がある。

しかし私ももう30だ。
さすがにゲームで流れてくる文字くらい読める。本だってnoteだって読んでいる。なんかできる気がすると言う気持ちで私は眠っていたニンテンドー3DSを引っ張り出し充電をし、夫にドラクエのソフトを借りて電源を入れた。

電源が付いたことで壊れていない事に安堵し、日付や時間も正確である事に感動した。しかし、さぁやろうとドラクエのボタンを押そうと思うと3DSに内蔵されている『ゲームメモ』という機能が勝手に作動する現象が起きた。

あれ?と電源を切ってもう一度付けてもまた現れるのはゲームメモ。まだ、ゲームが始まっていないのだからメモする事など何もないというのに。いつ何時電源を付けても主張を続けるゲームメモ。

幸い電源がついた瞬間にドラクエのボタンを押せば始まることがわかったので、3DSをやる時はゲームメモが開く前にドラクエを押すというミッションがドラゴンをクエストする前に追加されてしまった。

今回記念すべき初めてのドラクエに選ばれたのは
『ドラゴンクエストⅪ-過ぎ去りし時を求めて-』

1からじゃなくていきなり11からやって大丈夫なのかというドラクエを全く知らない人丸出しの質問をして夫に呆れられた。

始まるとストーリーのアニメーションが流れる。既にAボタンを連打したい欲求に駆られるが親指を抑えて大人しくアニメーションを見る事にする。そうだ、私はこの始まってからの長い説明が苦手だったんだと思い出した。最初の説明を聞いてないから根本的に何を目的にロールプレイングしているのかがわからなかったのだ。けど、今回はちゃんと聞いたぞ、行ける気がすると謎の自信。

夫に手解きを受けながら進めていく。
「そこで光ってるとこでボタン押したらなんかもらえるから」

「そこにある壺壊したらええねん。樽と壺は壊したらなんか出てくるから」

そんな助言に耳を傾けながら、私は壺を壊す。勝手に人の家にお邪魔して壺を壊す。壊して出てきたものやお金を頂く。勝手に戸棚を開けて出てきたものやお金を頂く。

「泥棒やないか!!!」

ゲームの世界にまだ入り込めていない私は勢いよく突っ込んだが夫は軽く流した。

ドラクエの世界に徐々に入り込んだ私は容赦なく壺を割り、お金を盗み取った。そして、最初はどことなく可愛らしさを持っていたモンスターたちが自分が強くなる毎に気持ち悪さを帯びてくるのを目を背けたいのを我慢しながら先を進めていく。

少しずつ課題が解決されていく感じが楽しい。「あ、私ようやくRPGの楽しさに気づきかけてるのかもしれない」と胸がドキドキした。ここ最近、枕元に3DSを置いて寝落ちしている事があるくらいだ。


ドラクエを始めてたぶんまだ半分も進められていないと思うけれど、気づけば私はこのゲームの勇者に心惹かれていた。

主人公の勇者は目的を成し遂げようという志を持っている。旅の途中で出会った仲間たちと共にモンスターに出会う度に戦かう。たまに逃げられる時は逃げたりしながら。自分のHPが減れば宿屋やキャンプで自らの身体を休める。そして確実に経験を重ねてレベルを上げ、スキルを磨き、魔法の呪文という新しい事を覚える。そしてまたさらに強いモンスターと戦う。

そうやって自分を高め、周りのものに支えられながら目的に向かって突き進む勇者の姿に、これは人間の高すぎる理想の姿なのかもしれないと気づいた。

そもそも勇者と違って明確な目的など私には無い。もし、その目的があったならば困難に打ち勝ちそれに立ち向かっていきたい。身体が疲れたならゆっくり休んで、もうダメだと思えばたまには逃げたりして。そして、周りの人に支えられながら、様々な経験を積んでスキルを磨き興味ある事を学ぶ。こんなできた人のような生き方ができればいいのに。そう、私は気持ち悪いモンスターと戦いながらふと思ったのだ。

とはいえ、勇者のように生きることはなかなか難しい。けど、やはり魅力的な生き方だ。目的や目標すらない私はまだレベル5くらいでそれなりのモンスターにもなかなか勝てないだろうけど、いつか勇者のような生き方をしてみたいと夢見ながら3DSのAボタンを連打している。

こんなこと考えながらドラクエしてる人おらんやろなと自分に突っ込んみながら、思いがけずかなり壮大なぼやっとした今年の目標ができた事にほくそ笑んだ。

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