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ルクソールからアスワンへ


2023/1/15


朝食5日目にして初のクレープ
宿泊者に大人気だった


時刻8:30。
私とナスジャは支度を済ませ、宿のロビーで鉄道駅行きのタクシーを待つ。
しかし、到着5分前にハリーの姿はない。

「様子を見てくるよ」

そう言って私が彼を探しに出ると、彼は屋上で朝食を食べていた。

「もうタクシー来るよ、大丈夫?」

「ごめん!大丈夫、すぐに行くよ!」



「すぐ来るってさ」
私がナスジャに伝えるも、彼はなかなかロビーに来ない。
そうこうしているうちに、タクシーが来てしまった。

「彼を見てくる!」
今度はナスジャがハリーを探しに。
すると、なんと彼は屋上で寝ていたという。


「遅くなってごめん!」
ハリーが慌てた様子でタクシーの元へ。

「Ok、行こう」

かくして私達はルクソール鉄道駅へ。
ここでアスワン行きのチケットを購入しなくてはならない。
しかし当然、すんなりとはいかない。
窓口は私達が観光客だと見るや、明らかに法外な値段を提示してくる。
買わないなら別にいいよ、とそんな調子だ。

インターネットでも同様の情報が出てくるが、肝心のチケットサイトが見つからない。

列車の出発時刻が迫っている。
さてどうしたものかと立ち尽くす私達に、一人の白人女性が近づいてきた。

「アスワン行きのチケットなら、ここで買えるわ」
そう言って私達をチケット窓口ではなく、何やら事務所のような部屋へ誘導する。

たしかに悪意は感じられない。

そして事務所に通されると、その白人女性は職員にアスワン行きのチケット3枚を尋ねた。ファーストクラスだ。

「私達は2等車で良いんです」
ナスジャが伝えると、その女性は
「料金は一人5ドルしか変わらないわ。1等車の方が快適だから、その方が良い」

語調、表情は真摯的。嘘ではなさそうだ。
その証拠に鉄道職員が悔しそうな顔をしている。

「ちょっとここで待ってて」
今度は鉄道職員が口を開き、事務所の外でタバコを吸い始めた。
意図はわかっている。単なる嫌がらせだ。
まともな料金では売りたくないのだろう。

「列車はいつも30分くらい遅れて来るから、大丈夫」
白人女性が焦る私達を落ち着かせる。

そして職員が溜息混じりに戻って来ると、椅子に座り
「Ok、じゃあクレジットカードを渡して」


「いや渡さない。端末の料金を確認した後、自分でタッチ決済する。63ドルだろ?」

鉄道職員は無言で端末を操作し、料金を私に見せる。

“69ドル”
「違う」

職員が再びゆっくりと操作。
“6......................9”
「違う」

白人女性も見守る。

“6..................….9”
「違う」


“6.............…”
「63 だっつってんだろ、さっさとやれ」


ようやく決済。

「ハハハハ!私はここで良いガイドとして働けるね!」
白人女性が声高らかに話しかけるも、鉄道職員は無言で目を合わすこともなかった。

結局、彼女が何者なのか分からず終いだったが、何とか無事に乗車。

ルクソール鉄道駅
アスワン行きファーストクラス



「うわぁぁぁあああ!」
突然、ナスジャが驚き声を上げた。

「えっ、どうしたの?」


「ネズミが…ネズミが走ってたぁぁぁ…!」

そう、ファーストクラスといっても座席は狭くボロボロ。
彼方此方に埃が溜まり、地元らしき客はミカンの皮を通路に捨てた。

ただ唯一、私達に絡んでくる輩がいない。
それだけでもファーストクラスを選んだ価値があるとすべきだろう。
4,5時間も拘束された車内で延々と絡まれたらたまったもんじゃない。


アスワン到着


今度はここから宿までの移動手段を確保しなければならない。
タクシーは論外。かといって徒歩では遠過ぎる。
私がインターネットで調べるも、良い情報が出てこない。

ハリーは完全に機能しないどころか
「早く決めてくれよ」
とばかりに忙しなく歩き回る。


「私が駅前で探すから、ここで荷物を見ていて」
ナスジャが私に伝えて外に出ると、程なくして急ぎ足で戻ってくる。

「3人で100ポンド(約500円)のミニバスを見つけたよ!ドライバーが待ってるから早く行こう!」

そうして乗り込んだミニバスで、宿から徒歩10分程の場所まで移動。


「おいおい違う。1人100ポンドだから、3人で300だ」

「えっ…いや、3人で100って言ったじゃない!翻訳して伝えて、確認の写真も取ってる」

「いやいや、300だ」

私が100ポンドを強引にドライバーへ渡す。
「ナスジャ、降りよう。大丈夫だから。ちゃんと荷物を持って」
そうして降りた後も、ドライバーは私達に向かって「金が足りない!」と叫ぶ。

ナスジャはバッグからお金を取り出した。

「ナスジャ!払う必要ないから、大丈夫!」

散々インドで同じ事を経験した私は、彼が追いかけてこない事をわかっていた。

しかし彼女は止まらなかった。
そして200ポンドをドライバーに渡した。

正直、無理やり止める事も出来たのだが
『これも彼女にとって良い経験なのかな…』
と、見守ることにした。


とにかく、宿まであと僅か。
しかし私達の目指す宿は治安の悪い地区にある。

「ここ汚いよ!別の道は無いの?」
ハリーが私に問う。

「無いと思うよ、この辺は全て同じだ」

ハリーはイライラしながら私達2人の先を足早に歩く。だが彼はインターネットが出来ないので結局、私のグーグルマップに頼るしかないのだ。
彼は振り向き

「次は!?どっち!?」

「うーん、ちょっと待って…あぁ、左だね」

「左ね、早く宿に行こう!」

そうはいっても、ナスジャは私達ほど早く歩けない。また、凸凹の路面で重いバックパックを背負いながら歩くのは、意外と神経を使うのだ。


「ハロー!ハロー!」
「マネー!マネー!」

砂埃の舞う、一面砂色の細道。
子供が私達に迫ってくる。

それを掻き分け、何とか宿に到着。

今回、私達は直接部屋を見てから決める事にしていたのだが、宿のスタッフは値段に見合った部屋を紹介してくれた。
3人で泊まれる個室、ナイル川を見渡せるバルコニーもある。

「うん、まずはここに2泊しようか」

そんな雰囲気の中

「いや、ここは寒そうだ。虫だって出るかもしれない。それにしては値段が高いから、安くしてくれない?」
ハリーが宿スタッフに問う。

「何言ってるんだ、この個室で900。3人なら一人当たり300ポンド(約1,500円)。ほとんど相部屋と変わらない値段だ」
「値下げはできない、良い部屋だろ?」

「うーん、じゃあ米ドルはポンドに両替できる?」

「できるよ、レートはこうだ」

「いや、そのレートは悪過ぎる。前回の宿はもっと良かった」

「知らないよ前回の宿なんて!」

「…うーん、じゃあこの宿の一番良い部屋を見せてくれ」

「ここが一番良い部屋だ」

「これが一番?じゃあ他の宿を探すよ」


私が間に割って入る。
「どうやって?」


「君はインターネットを使えるだろ?」

「いや使えるけど、俺はここで良いと思ってるから。仮に他の宿を見つけたとして、そこが君の言う“良い部屋”かどうかはわからないだろ?」

「もし他が駄目ならここに戻ってきたらいい」

「今から探して、駄目ならまた戻ってくるって?いやいや、俺はやらないよ」

「………じゃあ、まずはここに一泊する。そして駄目だと思ったら他に行く」

「ハリーがそう言ってるけど、ナスジャ、君はそれで良い?」

「うん…Ok…」


「……わかった、じゃあまずは一泊しよう」



疲れた心身にナイル川の流れが沁みる。
有名な川で思いつくのはタイで見たメコン川、そしてインドのガンジス川だが、ここが一番綺麗で優しい。

そういえば、アスワンは世界で最も降水量の少ない場所の一つらしい。
どうりで川が濁っていないわけだ。

そしてアフリカは本当に空が美しい

写真や言葉では伝え切れないほど



夕食はローカル店にて

安い店を探して歩き回り
ようやく見つけたホットサンド
20EGP(約100円)

宿で食べようとテイクアウトし、アスワンの中心部を練り歩く。

「ビール飲みたい」
正月しか酒を飲まないと言っていたナスジャから意外な提案。
「おぉ、良いね。買いにいこう」

「早くしないとホットサンドが冷めちゃうよ!」

「そうだねハリー、じゃあ、今食べちゃうかい?」

「いや、ここは空気が汚いから駄目だ」

「……じゃあ先に帰ってる?俺達は酒を買ってすぐ戻るから」

「いや君のグーグルマップが無いと帰れない」

「…………」

「わかった、待つよ」


左から
ハリー、ナスジャ、私


結局
彼らは母国語で会話を始めたので
聞き取れない私は一人で晩酌

静かに川を眺めて飲む酒もまた美味い
宿泊者が始めた
キャンプファイヤー

パチパチと爆ぜる音が
エジプトの夜空に溶け込む

もう一本ビール買っておけばよかったな



しかし


いつまでこの調子が続くんだろう…

2023年3月から世界中を旅して周り、その時の出来事や感じた事を極力リアルタイムで綴っています。 なので今後どうなるかは私にもわかりません。 その様子を楽しんで頂けましたら幸いです。 サポートは旅の活動費にありがたく使用させて頂きます。 もし良ければ、宜しくお願いいたします。