見出し画像

研究者って④

好きなことをしているの?

研究者をしているとよく言われることがあります。

「好きなことができて良いね」「趣味を仕事にできて良いね」

周りの研究者の方々がどのように答えるかはわかりませんが、私自身はこのセリフを投げかけられるとほんのちょっとだけ違和感というか「んー」という気持ちになります。もちろん、嫌いではありませんし、好き嫌いの二択だったら間違い無く好きを答えるでしょう。しかし、好きではあるものの、研究はあくまで仕事だと思っています。生き物が大好きだから生物学者になっているわけですが、生き物が大好きと、生物学者であることが大好きはそれほど一致しているとは思えていません。そんな生半可な好きで研究をしているのか!とお叱りを受けるかもしれませんが、正直な気持ちなので仕方ありません。ただ生き物が持つ不思議さに対してはものすごく興味を持っていて、それを探るには研究者であることが最も近道なので研究を続けています。「好き=興味がある」とイコールで結べるような定義であれば好きなのかなとは思いますが。

「研究大好き」に対する違和感としては2つのポイントがあげられます。まず第一に、趣味は仕事になりにくいというか、研究は好き”だけ”では到底やっていけない世界であるということです。これは全ての仕事においてそうだと思うのですが、なぜか研究者となると、好きでやっているんでしょ感が強くてちょっとひっかかります。未熟者なりに周りの成功している研究者を見ていると、確かに好きで研究している人は大多数だとは思いますが、盲目的に研究が好きというよりは、好きだけど研究に対してはどこかとても冷静に向き合っているという印象を受けます。これは研究者って①で書いた多面性と類似しているかもしれません。きちんと研究というルールに則る冷静さを持ち合わせながら、自分の好きを満喫できる人たちが研究者をしているような気がします。だから、好きでありさえすれば良いとか、好きなら必ず研究をやっていけるとかいう年長者の台詞を、これから研究世界へと向かおうと思っている学生や、将来の夢は研究者!という生徒の皆さんは真に受けないで欲しいと思います。反対に、周りの人に比べてそれほど大好き感を持てなくても、一人でブツブツ考えて、なんとなく実験でデータを出したりそれをまとめたり発表して人の意見をある程度素直に聞くのが得意な人は、研究を続けてみるのも進路選択の一つとしては悪くないのかなと思います。

もう一点は、好きであることを前面に出して趣味感を漂わせてしまうと、なぜか「好きなら我慢しろ」という言葉が飛んでくることがあります。これは個人的に本当に避けたいと思っていますし、研究業界的にも避けるべき言葉だと思っています。研究対象の生き物の生活時間帯や成長サイクルに合わせなければならないので、勤務時間以外に仕事をしなければならないことが特に我々発生生物学分野では多いのですが、好きだから夜中にラボにいるんでしょ的な声かけはやめてあげてください。必要だからラボにいるのです。研究という”仕事”はあくまで科学に基づくものであって、個人の感性や見解にどっぷり依存して進められるものでありません。また、極めて冷静な立ち位置から物事の把握に努めるものであり、好きも嫌いも関係ありません。結果に対するワクワクみたいな感覚は常に持ち合わせていますが、ラボの作業は好きで好きで仕方がなくやっているのではなく、夜中であろうが昼間であろうが私自身はある程度「無」の感情で作業していることが多いです。

というわけで、好きでもない仕事をしているという訳では全くありませんしどちらかというと好きというのは間違いないのですが、ここで言いたいことはいろいろな気持ちや立ち位置で皆さん研究に挑んでいるんですよということです。もちろん好きに越したことはないのかもしれませんし、「研究大好き!」と動いている先生方を見ると、うらやましく思える時も多々あります。しかし、世界中が研究を発展させるためには、多様な人々が研究に関わることが大切だと思うので、研究好きじゃなきゃ研究を続けられないと頑なに思う必要は全くないですし、逆に研究嫌いと思う人がいてもいいくらいなのかもしれません。

ちなみに好きなことを仕事にして良いのであれば、ミシュランガイドMichelin Guideの覆面調査員とかやってみたいです(正式にそういう職業があるのか知りませんが)。研究者は結構向いていると思うのですが、ミシュランさんどうですか? 笑


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?