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(美大日記⑳)今夜、金沢では25人が。/雪の街にハラショー

2000年代。まだ新幹線が開通する前ののんびりした石川県金沢市で、美大に通いながらひとり暮らしをしていた日々を綴った、『美大時代の日記帳』。
プライバシー配慮のため、登場する人物・建物名や時期等は一部脚色しておりますことをご了承ください。

それでは、開きます。



今夜、金沢では25人が。

合評前日、午前2時。
提出期限まであと24時間プラス7時間くらいある。ちょっとだけ頭が痛い気がして、寝不足だからかもと思い仮眠を取ることに。あくまで仮眠として成立させるためにベッドではなくこたつにもぐって眠った。
寝づらい…。
90分覚醒説に基づきアラームは午前3時30分と午前5時にセット。1度目。消した。ぼーっとして、また寝た。2度目。消した。
……起きるか……。
朝が来て、『とくダネ!』を見ながら普通に朝ごはんを食べる。そしてまた描く。

なんか、時間がない状況故にいつものように段階を踏んで“仕事”(美術業界で言う「作業の過程」や「手間」などのこと)しておらず、どんどんカンで色を次々のっけていっている今回。なかなかどうして、悪くない。いつも、もっと、「こうしなきゃああすれば」とか、作戦立てて制作してきたけれど、もっと自分というものを信用してあげれば良かったなと思う。わざわざ意識していなくても、ちゃんともう、ある程度キャンバスの中をかき回したって離れて見れば
「あ~まあ、こんなもんだな」
と不思議と気に入る。

夕方になり、うっかり居眠りをしていたら耳元でケイタイが「リン!」となり、友からメール。
『どうしようもないもんを描いているどうしようもない私に、喝を入れてくれませんか?』
居眠りしてた私にそれ頼むか?というのはこちらの都合で、だいぶ煮詰まってるみたいなので小1時間くらい電話でおしゃべりし、また明日、ちゃんと一緒に学校まで絵を運ぼうという約束をしてお互いにプレッシャーをかける。電話を切ったあと、「今夜、金沢では25人の人たちが、同じ目的のためにキャンバスに向かって頑張っている」ということをあえて感じてみた。

時々寝落ちしながらも朝まで描く。

合評は散々だった。(ちなみに自分が約束したくせに友との待ち合わせには間に合わず、後から走った。)自分では中々、良い出来とまでは言えないし完成度も高くはないが、今後、良い繋がりになりそうなやつが描けたなあと思っていたのに、ゲストで講評に来ていた某大先生にボロクソに言われて、せっかくの合評明け自由だーひゃっほー!な気分が台無しに。
憂さ晴らしに、昨日電話で愚痴を吐き合った友人とカラオケで4時間全力で歌い倒したら、外はとっぷりと夜8時。私たちは若者っぽいことをした流れのまま、若者らしく、マックでごはんを食べた。

よく学び、よく遊べ若者よ。

そんなナレーションが空から降ってくるような気がする、20歳の夜のことだった。


雪の街にハラショー

よく降る。

金沢に来るまで、雪って、夜降って朝起きたら「わ~積もってる~ルンルン」とか言ってすっかり雪雲が去ったあとの青空のもと、雪道を歩く。みたいなイメージだったのだけれど、完全にそんな甘っちょろい幻想は覆された。昨日の朝からノンストップで降り続ける雪は夜が明けても、止まらない。ついに靴も中学時代スキーに行った時履いてたやつに履き替えた。もう、ローファーなんて、ありえません。
雪に埋もれた町は他人と化し、道を迷わせる。

学校では現在、着衣人物油彩。今回も有名な先生がゲストで来てくれているが、先日の合評で学生たちのやる気を根こそぎもぎ取った某先生とまったく違い、めちゃくちゃ良い先生。
きのうなど、私が制作しているのをじっと見て「君、去年、松坂屋に来てくれた子かな?」と声をかけてくれてすごくビビった。
確かに、その先生の個展を去年名古屋の松坂屋美術館で見た(この方は当時名古屋在住だった)。でも私、ちゃんと挨拶もしていないはずなのに。
「お母さんと来てたよね」なんて、すごい記憶力。御年70歳で、描く作風はとても繊細な美人画なのだけれど、物言いは雑駁で魅力的。

「この雪は富山出身の俺でも参るなあ~。講評さっさとやって、一刻も早く金沢脱出して名古屋帰りたいわ」。
私も名古屋帰りたいなあ。先生、連れてって。

帰り道、実はしばらく折り畳み傘しか持っていなかったので、観念して、小立野商店街にある昔ながらの傘屋さんにふらりと入った。かなり長い間迷った末、色は地味だけれどプリントと柄の部分が可愛い傘を店番のおばちゃんに渡した。おばちゃんはとても朗らかな人で、「今、期間中だから」と言ってくじ引きの箱と冬のプレゼント当選の応募をサービスで2回ずつやらせてくれた上に、くじ引き2枚ともハズレた私に
「何もなしじゃ可哀想だから」
と言って、奥の棚のどこかからチップスターのミニサイズを出してきて、私にくれた。

夜なのに、雪明りで明るい。帰宅してテレビをつけると、天気予報。
「明日も北陸地方、日本海側は大雪に見舞われ、時々、雷が鳴るでしょう」。
テレビの全国ネットに映る金沢の景色は、悔しいけれど、美しかった。





今週もお読みいただきありがとうございました。雪は、ほんとうに大変なのだけれど、やっぱり金沢に行こうと思ったら、雪の時期がいいなあと思ってしまうのです。
ちなみに「25人」とは、当時の金沢美大の油画専攻2年、つまり私のクラスメイトの数でした。

◆次回予告◆
何を載せるか未定回。

それではまた、次の月曜に。


*「合評会」それは世にもおそろしい美術系学生の試練。↓


*その他、金沢美大生ライフはこちら↓


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