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「絵がうまい人」の3パターンーArtとTalk㉚ー

皆さんこんにちは、宇佐江です。
美術に関する話題を毎回お届けしている「ArtとTalk」も、お陰様で今回が30本目になります。いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は、アートの原点とも言うべきシンプルなテーマ。
「絵がうまい人」
についての3パターンを、私の経験からまとめてみたいと思います。
「絵がうまくなるにはどうしたらいいですか?」という質問を受けることもたまにあるので、私自身もまだまだ道半ばですが、絵を描くことに対してなんらかのコンプレックスがある方のご参考にもなれば幸いです。

それでは参りましょう~!


そもそも絵がうまいって、どんな人?


「絵がうまい人」
ときいて、あなたならどんな人、もしくは絵を思い浮かべますか?

「絵心がない」というテーマの某有名バラエティ番組企画もありますが、あれを観ていると、
「この絵、そんなに絵心ないこともないけどな……」と思うことが私はたまにあります。
多分、普段絵を描かない人が思う「うまい絵」と、絵を生業としている(収入面だけでなく精神的な意味も含め)人が思う「うまい絵」には違いがあるのかもしれません。

幼少時のお絵かき教室から始まり、中学美術部、高校美術科、美大対策の画塾、美術大学(油画専攻)―――で、現在地方美術館にて勤務しながら漫画家・イラストレーターとして活動している、いわば美術まみれの人生を歩んできた私がこれまでの37年で学んだ経験から、「絵がうまい人」には3つのパターンがあると考えています。

①形がとれる人(デッサンがうまい)
②バランス感覚のいい人(センスがある)
③描くのがめちゃくちゃ好きな人(継続)

これです。
それでは、順にご説明していきましょう。

①形がとれる人

そもそも、数値化が難しい芸術分野に対して「うまい」と評価する基準はなんなのでしょう?それはまず、ある一定の「正確性」「再現性」を指しています。
たとえば、歌。
「歌うまいね!」
とカラオケで褒められる人って、「音程がとれている」「本物の歌手の歌い方を忠実に再現できている」人なんですよね。

絵も同じで、「うまく形を捉えている」「リアルに描けていて、まるで本物が目の前にある(居る)みたい」
こういう絵は、美術用語で「写実的しゃじつてき」と言います。そして、「自分は美術がよくわからない」と思っている人でも「この絵は素晴らしい!」と理解しやすく好まれるのが、このような写実傾向のある絵の場合が多いです。

目の前のものを写し取るように描く。
単純なことですが、これができる人とできない人が世の中にはいて、難なくできる人=「絵がうまい人」と言い換えられるのが、もっともポピュラーなパターン。

ちなみに、この「写実」を身に着けようとする訓練がいわゆる「デッサン」ですが、訓練がある以上、上達もあるもの。
スタートは形が全然とれなくても、枚数を重ねていけばある程度、写実的なものは描けるようになります。要は、描こうとしているもの(対象物)を如何に「見て」、その構造と空間を脳が「どこまで把握」できるかが問題で、手先のことは実はそこまで関係ありません。

写実的に言う「絵がうまい」は、永遠に手に入らない才能ではなく、個人差は勿論ありますが、努力次第で上達可能なのです。


②バランス感覚のいい人

さて続いては、いわゆる「センスがある」と呼ばれる人たちです。

これは絵に限らずですが、「あの人ってセンスある~」って憧れられる人って、まわりに少なからずいますよね。特に、経験が浅い10代の頃は、元々自分が持っているカードで生活をしているわけですから、この差が残酷な程明確です。

しかし、何気なく使っているこの「センス」という言葉の正体。考えたことありますか?

これ、私は、「バランス感覚のいい人」のことだと思うんです。


例えば同じ24色の絵具セットを使っていても、サッサッサッと色を決め、手数てかずも少ないのに仕上がりがめっちゃ素敵!なセンスのある人と、沢山色を使ってこねくり回して悩みに悩んで、よし!と思っても、他の人と比べて「なんかぐちゃぐちゃ…」と絶望するような人と両方います。
私自身が、タイプとして①でご説明した写実が得意なタイプなので、こういうセンスのいい、バランス感覚の優れた人って本当~~~~に学生時代憧れました。いや、今も…。

でもね。

面白いのが、こういう「センス(バランス感覚)のいい人」って、逆に形をとるのが苦手な人も結構多いんですよ。
デッサン描くのが苦手、とかね。
思うに、自分のセンスに自信がない人はその分目の前の「形」に集中するし、センスのある人は自分を信じるあまり、目の前のものに対して観察が少し足らない、もしくは気にしない傾向にあるのかもしれません。
両方出来るハイブリットな天才肌も、たまにいるのが憎らしいのですけれど。。。

ちなみに、センスは色に限ったことではありません。
絵なら、画面の中にどうモチーフを配置するか、余白とのバランス、いわゆる「構図こうず」もセンスです。
冒頭申し上げた絵が苦手な人の作品を「そう思わないな」と私が感じるとき、どういう絵を見てそう思うのかというと、

「この人、確かに形はとれていないけど、画面に対してモチーフの入れ方が絶妙に心地いい。線も伸びやかで勢いがある。強弱のバランスもとれているし……センスあるよな……」

という具合。
逆に「上手!」と褒められている絵も、フリップボード全体を絵として評価するのであれば
「うーん?」と思うこともあります。

こういう着眼点が、絵に親しんでいる人とそうでない人の違いかもしれません。もちろん、どちらが正しいということはないのですが。

また、「形をとる」ことより少し難易度が上がりますが、センス、つまりバランス感覚を身に着けることも、描く枚数と「良い作品をたくさん観る」経験を重ねていけば、決して身に着かないものではありません。
私も、もっと、身に着けたい…(修業中)。

③描くのがめちゃくちゃ好きな人

さて最後になりますが、これがある意味一番重要です。

「下手の横好き」って言葉がありますが、こと美術や表現に関して、趣味ではなくそれを仕事にしたいと思うほど熱心に取り組んでいる人の「描くのが好き」な気持ちほど、作品を魅力的にするものは他にありません。

私が昔から大好きで、憧れている漫画家のひとりに『うしおととら』『からくりサーカス』(ともに小学館)などで知られる藤田和日郎先生がいますが、私の中で藤田和日郎先生の絵って、まさに「気持ちに溢れた絵」なんです。
「形」とか「バランス」とか、そうした技術的なものを吹き飛ばすような勢いで圧倒的な描写による迫力。特に、『からくりサーカス』の中盤頃からの絵柄には凄まじいものがあります。

美大受験でニッチもサッチも行かない自分の絵に色々と悩んでいた時期、久々に『からくりサーカス』を読んだ私は
「ああきっと、『絵がうまい』って本当はこういうことだ。たった1コマの絵で、こんなに心を動かされてしまうような説得力」
と、打ち震えたことがありました。

形がとれる人も、センスが良い人も、もとから素質があることを「才能」とも呼びますが、結局それって「技術」。努力を重ねていけば上達しますが、
「描くのが好き!描かずにおれん!!」
という気持ちだけは、残念ながら努力では手に入らないんです。

そして、絵がうまくなるために一番欠かせないのが「継続すること」。

その継続のために必要不可欠なのは、デッサン力でもセンスでもなく、「描くのが好き」という気持ちのエネルギー。
それがないと、真っ白な紙と向き合い続けることはできないのです。





今週もお読みいただきありがとうございました。
「これを読めば絵がうまくなる!」的に書こうと思ったわけではないにしろ、結局、かなりマニアックな話になってしまったかも…。
言いたいことが伝わったか不安…。
これからも、相変わらずこんな感じですが、宇佐江の「ArtとTalk」を温かい目でお楽しみいただけたらと、思います。

あなたが最近、絵を描いたのはいつですか?

◆次回予告◆
『接客業のまみこ』㉟㊱

それではまた、次の月曜に。


*こちらは「鑑賞」に関する素朴なギモン話。↓


*ゆるいのか深いのか?宇佐江によるアート話その他はこちら↓









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