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第2弾!妄想孤独インタビュー【宇佐江、おやつ画について語る。】

──ずばり、「おやつ画」とはなんでしょう。

宇佐江:はい。「おやつ」というのは、私が勝手に言っている造語で、まんまですが、おやつの絵という意味です。
昔から食い意地が張っているので絵本でも食べもののシーンばかり覚えていたりして、自分でもいつのまにか食べものを描いてました。

《ショートケーキの王様》2023年 ©宇佐江みつこ


──「食べもの画」ではなく、「おやつ画」なんですね。

宇佐江:そうですね。「おやつ」ってなんか、幸せの象徴だと思っていて。そういう「ちょっとした幸せ」が、絵としてお部屋に存在していたらいいなあと思って描いています。「愛でる」感じに似てますね。

「おやつ画」をジャンルとして意識し始めたきっかけは、『ミュージアムの女』(KADOKAWA)を書籍化したときです。章立ての合間にコラムページをいただけることになって、そこで思いついたのが「ティータイムトーク」という、お茶のみ話的な雰囲気のコラム。それで、「ティーにはもちろん、おやつが必要だろう。」と思っておやつのイラストをたくさん入れたのが好評で、らくがきでなく作品としておやつを描き始めたきっかけだったと思います。

『ミュージアムの女』(2017年/KADOKAWA)コラムページより ©宇佐江みつこ


──おやつのモチーフはどうやって選ばれているんですか?

宇佐江:とにかく足を使って。自分で「描きたい」と思うものを探すところからですね。デパ地下のスイーツコーナーをぐるぐるぐるぐる、お店を回ってピンとくるものを探します。あとはパン屋さんもけっこういい「おやつ」が見つかることがあるので、よく行きます。

──やっぱり「おいしそう、食べたいな」と思うものを?

宇佐江:いや、食べたいものは実はぜんぜん関係ないんです。
ふしぎなんですけれど、「食べたいなあ」と思うものと「描きたいなあ」と思うものって違うんですよね。

たとえば、お店でケーキを食べるなら私はチーズケーキが好きなんですが、チーズケーキって今までほとんど描いたことがなくて。ちょうど先日、原画展用に描いたのが(カラーでは)初めてじゃないかな?絵面えづら的に、起伏がないというか。「おいしそうだな」というイメージが、うまく具現化できない難しいモチーフで。
それに比べて、ショートケーキは今までの私のモチーフで1番多いかもしれないモチーフなんですが、すごく…表情豊かで、絵としてとても魅力的に描ける且つ、おやつとしても王道というか、サマになる。

「絵で描いたときにうまく表現できるか」がやっぱり選ぶ基準ですね。

──いわゆる、「映える」スイーツの方が描きやすい感じでしょうか。

宇佐江:「映えるスイーツ」ありますね!!でも、私の「おやつ画」としては、そういうのはあんまりモチーフとして成立しないことが多いんです。

──ほう、「成立しない」とは…?

宇佐江:たとえば、フルーツタルトとかってすっごくおいしそうだし、見た目もパッと華やかだし、色もたくさんあってちょっとツヤもあって表情もあるっていう、一見最高なモチーフに思って、実際「これは絶対使える!」と買ってみたことがあるんです。でもなんか……画面のなかで、妙にのっぺりしてしまって。見た目の華やかさ「だけ」で終わってしまって「おいしさ」が伝わりづらかった。
なので結局、それは途中で描くのをやめてただ食べて終わりました(笑)

──それはふつうに、「おやつ」ですね(笑)

宇佐江:けっこう多いんです(笑)。「うう~ん、なんかちがう」って思って描くのやめて食べるだけって。正直5回に1回……。や、4回に1回くらいは、ありますね………、……3回に1回かな?(笑)

あと、いくら見た目がおしゃれでも、あまり奇抜な見た目のスイーツは選ばないです。絵を見た人が、「こういう味なんだろうな」と誰でも想像できるものを意識しています。なので必然的に、オーソドックスなものが多いです。そういう、あらゆる点を総合するとミスドがやっぱり、最強ですね(笑)。

《チョコ・ファッション》2023年 ©宇佐江みつこ


──ではここからは、個人的にもとても気になる具体的な制作の様子を。実際に、目の前におやつを置いて、描かれるわけですか?

宇佐江:そうですね、漫画とかの1コマでちょっと使う場合は写真の素材で描くこともありますが、「おやつ画」という一枚絵で描くときは必ず現物を買って、置いて、描くようにしています。

──描いていて、食べたくならないですか。

宇佐江:すごくなります。選んでいる時は食べたい衝動をオフにしているんですけれど、やっぱりショーケース越しでなく目の前で、匂いとか嗅げてしまうと……(苦笑)。なので「おやつ画」を描くときは、ごはんを食べたあととか、おなかが満たされている状態で描くようにしています。

色々、やり方は枚数を重ねるごとに変えていってはいるんですが、最近は、まず目の前に(おやつを)置いて、ひたすら鉛筆でデッサンして頭の中に落とし込む、形を把握するために何枚か描きます。そこから本番の紙に変えて軽く線画を描いて色の感じを当ててみる。で、ある程度「図」が固まってきたら、もう食べます。

──えっ?まだ描いている途中なんですよね?!

宇佐江:以前までは描き終わるまでは食べなかったんですが、最近はもう、途中から集中力が食欲に乱されることを自覚してきたので食べちゃいます。ただその前に、デジカメで角度変えてバシャバシャ撮っておいて、後半はデジカメの画像をもとに描きます。

でもこれ、欲望のままっぽいですが、一応理屈もあって。見てるだけだと、「味」は理解できないですよね。前半はひたすら「こんな味だろうな」と想像して描いて、途中食べて「あ、思ったよりバター感がある」とか、「クリームが軽い」とか、そういう情報を加味した上で後半を描くという2段階方式にしています。

あと、ちょっと絵画的なことを言うと、私のおやつ画って基本写実しゃじつ(本物っぽい、リアルな作風)なので、最後まで実物を見て描いていると「デッサン」(形を写し取る)で終わってしまうということに気づいたんです。ひとつの絵として成立させるためには、どこかに3次元ではなくあえて2次元要素を持ち込んで、視覚情報を制限した方が作品化しやすいと自分のなかで思うようになって。それで、あえてツメの作業に入る後半はデジカメ画像と、自分のなかのファンタジー的なおいしさのイメージとを織り交ぜて、「理想的なおやつ画」を目指して描いています。

──リアル、という言葉が出ましたが、宇佐江さんにとってのおやつ画の理想は、「リアルに描くこと」なんでしょうか?

宇佐江:リアルももちろん大事にしていますが、どちらかといえば「おいしそう」の方が私にとって、より重要です。

《チーズケーキ》2022年 ©宇佐江みつこ

(他の作家さんの)漫画とかで出てくる食べものの絵って、デフォルメが入っていた方が「ああ、おいしそうだな~」って思うことが多くないですか?「すごくリアルに描いているな」っていう食べものの絵は、すごいなあ~とは思うんですが、少し冷たい感じがするというか。もう、湯気がほかほかした感じとか、卵がとろけている感じとか、チーズがのびている感じ。そういうのって少し強調した方がより食欲をそそられますよね。ただ、私のおやつ画の場合はストーリーの中の1コマではなくあくまで「1枚の絵」なので、「『おいしそう』に比重は置いているけれど、『リアル』にも片足乗っけつつ『おいしそう』の方を向いているような絵」っていうのを理想にしています。


誘惑と戦う制作風景。背景のポストカードはフランスの画家・シダネル。


──楽しいモチーフ選びから、絵画とのシビアな向き合いかたまで、いろいろなお話をありがとうございました。では最後に、宇佐江さんの考える「おやつ画」に関しての今後の目標はなにかありますか?

宇佐江:少し前までは、「おやつ画」を壁一面にいっぱい飾りたい!という目標があったので、そのために販売も控えて作品をストックしていたのですがその夢をテツクリテさん(関市/2022年)で叶えられました。
※その時の様子はこちら↓

ですので、次の目標は、その時のお客様から「販売もして欲しい」とご要望をいただいたので、今、少しずつですが、販売用のおやつ画も増やしているところです。

また大きな目標として、絵本を作りたいです。「おやつ画集」という形でもすごく作ってみたいなと思うんですけれど、絵本にしてちょっと文章も添えてみたくて、自分の中で「こんなふうにしたいな」っていう構想があるので、……どなたか、一緒に「宇佐江みつこと、おいしそうな本」を作りたいなと思ってくださる出版関係の方、いらしたらぜひ、ご連絡をお待ちしています!!!



☆今回ご紹介した宇佐江みつこさんのおやつ画は、現在、岐阜県美術館内ミュージアムショップ、「ナンヤローネSHOP」にて展示販売中です。詳しくは、こちらの記事でご紹介していますのでぜひどうぞ!


インタビュアー/宇佐江みつこ
構成、文/宇佐江みつこ


※お詫び※
今回の記事の配信は2月20日(月)の予定でしたが、宇佐江先生がおやつ画資料のドーナツを深夜3時に2個も食べて胃もたれを起こし、確認作業が遅れたため、配信が遅れてしまいました。お待ちいただいていた読者様に深くお詫び申し上げます。





今週もお読みいただきありがとうございます。
妄想孤独インタビュー、深くは考えずライトにお楽しみいただけたら幸いです。

◆次回予告◆
『接客業のまみこ』㉙㉚

それではまた、次の月曜に。


*妄想孤独インタビュー、幻の第1弾はこちら↓


*宇佐江みつこのおやつ画の世界。そのほかのおやつはこちら↓




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