相互作用

インタラクションというはたらきの言語化を試みる

UIデザインの世界ではインタラクションというはたらきについて考える機会が多くあります。インタラクションは相互作用と訳されることもありますが、この“相互”という部分に着目し、デザインとしてどのように捉えられるのか、どう活かすのか、直近の考察を述べたいと思います。

解釈:インタラクションとは何なのか

実際には学術的な定義などがあるのかもしれませんが、私なりに「こういうことではなかろうか」という解釈に基づいて話を進めてみたいと思います。

人間と道具のインタラクションというものを考えたとき、インタラクションとは、

「人間」から「道具」への作用
「道具」から「人間」への作用

これらが連結して相互に作用し合っている状態のことを「相互作用」、すなわちインタラクションと呼ばれるはたらきなのではないかと考えられます。この作用の連鎖の中では、人間が道具に対して与える作用の結果、道具が人間に与える作用というものがあります。その結果再び人間が道具に作用するという連鎖が続いていくことも当然考えられます。

インタラクションを構文として捉える

では、このような作用の連鎖をどのように記述すれば良いものでしょうか。
同僚たちと議論しながら私なりにこれを研究してみた結果、ある定型文によってインタラクションの構文を表すことができる可能性が見えてきました。

インタラクションの構文とは次のような文によって記述することができます。

因子 によって、主体 は 対象 を 行動 する

各要素を順に解説します。

因子

因子は作用のきっかけ動機となる現象です。インタラクションの起点であったり、前の作用の結果の場合もあります。

主体

主体はこの構文の主語に当たります。作用の主体を表す名詞を代入することができます。ほとんどが人間あるいは“もの”になると思います。

対象

対象はこの構文の目的語、名詞が入ります。オブジェクトベースな操作手順として知られる「名詞→動詞」構文の「名詞」にあたるオブジェクトをここに代入することになるでしょう。

行動

行動は主体が行う動作です。オブジェクトベースな操作手順として知られる「名詞→動詞」構文の「動詞」にあたる振る舞い方をここに代入することになるでしょう。

例文:人間からシステムへの作用

UIデザインにおけるインタラクションをデザインすることを考えてみましょう。まず、作用の主体が人間である場合です。
インタラクションの構文は次の形式でした。

因子 によって、主体 は 対象 を 行動 する

ここに具体的な要素を当てはめてみようと思います。例えば iPhone の通知によってアプリケーションを起動するという行動を表した場合です。

因子:iPhone に通知が届いたので
主体:ユーザー
対象:画面に表示された通知バナー
行動:確認
「iPhone に通知が届いたので、ユーザーは画面に表示された通知バナーを確認する」

構文に必要な要素を代入することで、一つの作用を表す文章が現れました。
では、アプリケーションを起動するというところも含めて考えてみようと思います。

因子:通知バナーを確認したところ興味深かったため
主体:ユーザー
対象:画面に表示された通知バナー
行動:展開
「通知バナーを確認したところ興味深かったため、ユーザーは画面に表示された通知バナーを展開する」

人間の認知行動や思考判断的なところを考慮しながら、少し細かい粒度で動作を書き出してみました。因子としては前回の構文の結果を反映させていて、これらが連続性のある作用として成り立つように記述しています。

1. 「iPhone に通知が届いたので、ユーザーは画面に表示された通知バナーを確認する」
2. 「通知バナーを確認したところ興味深かったため、ユーザーは画面に表示された通知バナーを展開する」

例文:システムから人間への作用

先ほど作った構文では iPhone の通知を展開するところまでを表現できていました。ではいよいよ通知からアプリケーションを起動するところを表現したいところですが、これは主体がユーザーのままでは表現できそうにありません。なので、ここからはシステムから人間への作用を表す構文に切り替えたいと思います。

前回の続きから因子を記述します。

因子:ユーザーが通知バナーを展開する動作を行ったため
主体:システム
対象:通知に関連するアプリケーション
行動:起動
「ユーザーが通知バナーを展開する動作を行ったため、システムは通知に関連するアプリケーションを起動する」

動作の主体がシステムに変わりました。システムがユーザーに対してどのような作用をはたらくのか、この構文によって表現されています。

例文:相互作用の文として構成

では、これら一連の構文を連結して、相互作用として成り立たせてみましょう。

1. 「iPhone に通知が届いたので、ユーザーは画面に表示された通知バナーを確認する」
2. 「通知バナーを確認したところ興味深かったため、ユーザーは画面に表示された通知バナーを展開する」
3. 「ユーザーが通知バナーを展開する動作を行ったため、システムは通知に関連するアプリケーションを起動する」

なかなか良い感じですね。
ユーザーとシステム双方の作用が、一つの構文によって表現できることが見えてきました。このようにして、さまざまな考え得る作用というものを定型文に当てはめながら書き出し、それらを連結することで「インタラクション」というはたらきを言語化できる可能性が見えてきました。

構文をメンタルモデルと関連づける

さて、ここまででシンプルな定型文によって相互作用が表せそうだということがわかりました。私はここにもう一つの観点を追加してみようと思います。それは人間のメンタルモデルとの関連性です。動作主体が人間(ユーザー)である場合、その行動原理は因子だけではどうやら説明しきれなさそうだと考えました。つまり、「通知バナーの存在には気づいたけれども、思考判断の結果、それを展開することにした(無視することにした)」という分岐するユーザーストーリーが抜け漏れているのです。この分岐を考えるためにはもう一つの要素「認知」を導入する必要がありそうだという仮説を立てて検討しました。

なので構文を次のようにカスタマイズしてみます。

因子 によって、主体対象認知 し、行動 する(しない)

認知は、主体(人間)が対象物を認知する行動、思考判断を含みます。「見る(見える)」だとか「聞く(聞こえる)」といった知覚動詞は、行動の変数ではなくどちらかというと認知の変数に分類されるのではないかと考えています。これを前述の例文に当てはめると次のような具合になります。

因子:iPhone に通知が届いたので
主体:ユーザー
対象:画面に表示された通知バナー
認知:音により通知に気づいた
行動:確認
「iPhone に通知が届いたので、ユーザーは画面に表示された通知バナーの音により通知に気づいたため、それを確認する」

少し長くなってしまいましたが、行動として現れる「確認」の根拠、このユーザーの認知行動がより具体的に記述できたような気がします。この認知の変数がユーザーのメンタルモデルに直結する部分になります。UIデザインという文脈では、実装モデル表現モデルメンタルモデルの少なくとも3種類のモデルをデザインしなければなりません。UIが表現モデルだとしたならば、ユーザーのメンタルモデルにうまく橋渡しができる表現モデルを構築する必要があります。インタラクションの構文で認知という変数を考慮しておけば、そのいくらかはデザインができるのではないかと考えられます。

『ほとんどのソフトウェアは実装モデルに従っている』
『ユーザーインターフェイスは、実装モデルではなく、ユーザーの脳内モデルに基づいて作れ。』

About Face 3, p54 - Alan Cooper / Robert Reimann / David Cronin 著、長尾高弘 訳

なお、この構文は主体が人間である場合にのみ適用されるものと置いています。なぜなら道具は人間のような高度な知性や意識を持たないからです。思考判断するのは人間(動物?)だけであるという前提に立ってこれを設計しています。もしかしたら将来の機械はタチコマのような高度なAIを搭載する可能性もありますが、現代の技術水準ではこれで十分だと思います。

追記:D.A.ノーマンの「行為の7段階モデル」を参照する

そういえばノーマンの「行為の7段階モデル」という考え方があったなあといただいたコメントを読んで思い出したため、再び考察してみることにしました。

「行為の7段階モデル」とは、人間が行為を実行に移すまでの認知構造をノーマンが体系化したものだそうです。

1. 目標の設定
  何をしたいのか、どのような結果を得たいのかを思考。
2. 実行意図の形成
  1のためにはどのような方針をとるのかを計画。
3. 行為の詳細化
  具体的にどのようなことをするのかを計画。
4. 行為の実行
  計画を実行。
5. 外界の状況の知覚
  行為の結果として外界に何が起こったのかを知覚。
6. 外界の解釈
  外界で起こった現象の意味を理解。
7. 解釈の評価
  当初の目標は達成されたかどうかを評価。

これらを踏まえると、先述で「認知」という変数を構文内に組み込んだ形をもう少し改める必要があるかもしれないなと考えました。認知は一つの過程としてだけではなく、きっかけから作用に至るまでの構文全体を通して行われるであろう認知構造として考える必要があるのかもしれません。あるいは、「認知」と置いていた部分は単純に構文を細分化して定義すれば解決するのかもしれません。
この辺り、専門的な知識を私があまり持たないため、裏付けのない想像の部分が大きいです。

まとめ

インタラクションの構文によって、人間と道具の間に起こる相互作用というはたらきを言語化することができる可能性を示しました。その結果、作用にまつわる各要素、動作因子、動作主体、メンタルモデル、対象物、振る舞い方を一つのフォーマットで書き出すことができるようになりました。このようにして動作因子とメンタルモデルに基づくデザインの検討材料というものを抽出することで、UIデザインの品質をより高めることができるのではないだろうか、そのように考えています。

界隈でよく言われることとして、インタラクション=アニメーションであるという捉え方があります。UIが動くことを設計するのがインタラクションデザインであるというのは、ちょっと視野が狭いというか、本来ならばインタラクションデザインというのはもっと本質的な部分を見るべきで、見えない部分にまで裾野が広がっているものなのだと考えています。人間(道具)が何をきっかけとして、対象物をどのように認知するか、どう作用するのか、その連関性を考えることがインタラクションデザインになるのではないかと思います。

このインタラクションの構文には今回ご紹介していない「検討すべき観点」というものが他にもあります。まだ実証実験段階であることや、全ての手の内を明かすのもどうかと思いますので、いずれ時期が来たときに改めて何かしらの形でご紹介することがあるかもしれません。

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コメント3件

プログラミング言語みたいだな♪
D.A.ノーマンの「行為の7段階理論」(誰のためのデザイン 増補・改訂版)っぽいな、と思いました。
この構造でいわゆるHCDの構造化シナリオを記述できるとかなり捗りそうだなと思いました。
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