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インタビューのお手本は

3年前、こんな記事を書いた。

息子、というタイトルにしているが私の「わかりやすい文章」は
子どもたち3人の「なぜなぜ期」に磨かれてきた。
さらに最近息子が「きこえとことばの教室」に行き始めて
「インタビューの神髄はここにあるのでは?」と思い始めた。

まず知らない人もいると思うので「きこえとことばの教室」について
説明していきたい。
私も息子が通い始めるまで全くどういうところか知らなかったからだ。

「きこえとことばの教室」はその名の通り「聞こえ方」や「話し方」に関する悩みをかかえた子のための通級である。
耳が不自由だったり、発声は発音が難しい子どもはもちろん
話せる言葉が少なかったり、コミュニケーションが難しい子も通う。

はっきり言われたわけではないし、発音も言葉数も未発達な部分があるが
長男が抱える問題の中で先生が一番主として解決しようとしているのは
「コミュニケーションが困難」であるように感じる。

長男の診断名は「軽度知的障害」であるので、
私はでっきり発音と言葉数が問題なのだと思っていた。
しかしどうやら違うらしい。
「きこえとことばの教室」に行くようになってから
毎日3~4個は新しい単語が出てくるようになった。
5歳という年齢でこのペースで新しい言葉を学んでいるとは考えづらいので
おそらく息子の頭の中にはもともと多くの語彙があったのだろう。
きこえとことばの教室に通い始めて、使えなかったその語彙たちが一気にあふれ出した。そんな気がする。

そうなると「発音の拙さ」も単なる発達の遅れじゃない気がしてきた。
息子は度を超える早口なのである。
慣れないうちは無口だが、慣れてくるとマシンガントークが止まらない。
「聞いている人」のことを一切考えず話したいことを話す。
ひたすら浮かんだ言葉を口に出している。
頭の速さに口の速さが追い付いていない。
発音ができないのではなく、発音を「意識していない」。

言葉の数も、発音もできないんじゃなくて
「人に聞かせようとしていない」からやっていないだけ。

言葉は人に伝えることを意識して初めて磨かれていく。
しかし、息子はそこを全く意識していなかったのだった。

私のせいかも、しれない。

息子はおしゃべりが大好きだった。
私は死にかけだった息子がおしゃべりしてくれるのがとにかくうれしくて
かわいくて、内容なんてどうでもよくなっていた。
3人目だから手を抜いた部分もある。
息子が気持ちよく話せるよう、よくわからなくても相槌を打っていた。
「うんうん」「そうなんだ!」「すごいねー」
さながらキャバ嬢である。

私はとにかく、聞いてあげることが大事だと思っていた。
「息子は発達が遅れているから」内容は気にしないことにしていた。
要は息子を舐めていたのだ、私は。

「きこえとことばの教室」は母子分離であるが、
息子はものすごく楽しいようで、隣室からでも話し声が聞こえてくる。
それを盗み聞きながら先生の「話の聞き方」の衝撃を受けた。

先生は話をただ聞いているわけではない。
話を広げていくのである。
広げると息子は再現なく話す。
しかし本筋から逸れてきたらその軌道を戻す。
めちゃくちゃな順序の話があったら
順序をつけて話しなおすように言う。
省略しない。させない。
息子の話がどんどん「人に伝える」文章になっていく。

これまで取材の本で何度も読んだ「良いインタビュー」のお手本を
先生は5歳の衝動的に話す子どもに対してやっている。

私も取材は何度かやった。
気持ちよく話させるのは得意だと思う。
だけど記事の体裁に整えていくのは少し苦手で、
そのテクニックのすべてがここにあるように感じた。

このテクニックは欲しい。

そう思ったから、息子と話す「話し方」を変えた。
そっくりそのまま先生を真似している。
質問する、言い換えて確認してみる、わからなかったら素直に聞く
何度も同じことを聞くことになっても順序を意識して聞いていく。
そうすると息子の話が驚くほどちゃんと「実」のあるものであることに
気づく。
相槌なんて打たなくても、ちゃんと反応できるくらい内容のあるものだと。

息子ともっといっぱい話したい。
息子と先生のお話を、もっともっと聞きたい。
この経験は多分、私の能力を飛躍的に上げてくれる。
母親としても、だけでなく、ライターとしてもだ。

見つけたぞ、私のインタビューのお手本。




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