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君の旦那さんは、君が思う以上に君の機嫌を取っていると思うよ

帰ってきた夫をいつもの通り玄関に迎えに行くと、夫の左手にはいつもの通りの黒い革の鞄があり、右手にはいつもは持っていない白い箱があった。

「え!?ケーキ?どうしたの?」と私がいうと
「なんか最近、うさみみがピリピリしているからサ」と夫。

その「ピリピリ」には思い当たる節がある。
この1週間くらい、私は考え事をしている時間が多くて、家の中で黙っている時間が多かった。迷うこととか、決めたいこととか、断りたいこととかがあって、頭の中ではにぎやかにおしゃべりしていたんだけれども。
断ることは特に私にとって苦手なことだから、断り文句なんかを頭で組み立てている時間は心に負荷がかかって、険しい表情をしていたことだろう。

そんな私を見た夫は、甘いもので機嫌を取ろうとしたようだ。実のところは、夫に対してピリピリしていたわけではないのだけれど。


このnoteでも時々書いている「昔よく行っていたバー」で、隣合わせになったおじさまが「家に帰っておばさんを相手にするより、若い女性とここでおしゃべりしてた方が何倍もいいからさ」と言ったのを聞いて、複雑な気持ちになった覚えがある。

そのとき確か、私は30代半ばに差し掛かった頃。職場の若い人にはおばさん扱いされ始める年齢だったから、「若い女性」の扱いに正直悪い気はしなかったのだけれども、一方で、歳を重ねたときに、夫がバーで見知らぬ若い女性を相手にこんなこと言ってたら、心穏やかじゃないなあ、と思ったのだ。
そのセリフが、たまたま隣合わせた妻より若い女性へのサービス精神から出たものだったとしても、だ。

「1人で飲みに来ていて、旦那さんに何も言われないの?」
と言う彼に
「うちは放任主義ですから。私に興味ないだけかもしれないけど」
なんて言ってみる私。

その日、「今日は、朝まで飲むぞ」と息巻いていたはずのその人は、0時近くになると帰ると言い出した。
マスターが「あれ?○○さん、朝までコースじゃなかったんですか?」なんてつっこむ。
その言葉を振り切るようにして、彼はお会計をした。

「君の旦那さんは、君が思う以上に君の機嫌を取っていると思うよ」
彼は私にそう言ってから、妻が待つ家に帰っていった。


そんなことを思いだしながら、ケーキの箱をあける。苺のショートケーキとチョコレートケーキ。夫の好物と私の好物。いつもだったら、夫がショートケーキで、私がチョコレートケーキの流れだろう。

「どっちがいい?」という夫に「ショートケーキ」と言ってみる。
「そしたら、それぞれ半分ずつ食べればいいんじゃない?」と夫。
妻の機嫌取りに買ったといえども、やはりショートケーキはゆずれない様子である(笑)。夫の提案にのって、ショートケーキとチョコレートケーキをお互いに半分ずつ食べた。

すっかり心がほぐれた夜。
でも、ピリピリをまき散らして機嫌を取らせてばかりいちゃあ、ダメよね。

っつーか、おばさんの何が悪いのよ?あなただって、おじさんじゃない!と相当な時間差であのおじさまに腹を立てたりしてみる。
でも、あのおじさまもきっと、妻にケーキを買っていった日もあるんじゃないか、っていう気がしているよ。




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