サンセバスチャンでバルめぐり
美食の街、サンセバスチャンでバルのはしごをする。ずっとやってみたかったことのひとつだ。
それは、夫のタイ駐在に帯同していた頃の夏に実現した。
夫の休暇を利用して、バンコクから東京→サンセバスチャン→バルセロナ→アテネ→サントリーニ島という旅程の夏休みだった。サンセバスチャンでは、3泊。
この旅程だったら、どこの街でも美味しいものにありつけるのだけれども、なんといっても楽しみなのはサンセバスチャンでのバルのはしごだった。
バルのはしごというのは、
こういったピンチョス(スペイン語で「串」の意味だそう)たちを2,3個つまみながら
高い位置から注がれるTxakoli(チャコリ)を1杯飲んでは(実際は、ビールでも赤ワインでも、コーラでも水でも構わないのだけれども)、また次のお店に移動するということだ。
食いしん坊だけど一度にたくさん食べられない、そのうえ、のんべえ。そんな私にぴったりなスタイルではないか!と、この光景を何かのテレビ番組で観たときに思ったのだった。他の街とはまた違う食の楽しみ方だ。
気候が最高なサンセバスチャン
そして、このはしごには、気候も重要なポイントである。常夏のバンコクから、毎年記録的な猛暑を更新続ける日本へ着いて、そこから向かったサンセバスチャンの気候の気持ちのよさったら!
近年は、ヨーロッパにも熱波が訪れて、必ずしも湿気の少ない快適な夏を味わえないから、この快適さはなんとも貴重な体験だ。
半袖でも過ごせる気温で、長袖シャツやジャケットを羽織っても、汗をかかないくらいに湿気が少ない。しかも晴れ。快適指数100%なのだ、本当に。ただ外にいるだけで気持ちよくて。
バルのはしごは夜に限ったことではない。朝食でも、昼食でも、おやつでもよいのである。
そして、夜も長い。私が訪れた7月は日没が21時過ぎだった。
と、昼も夜もぶらぶら歩きには最高な環境が整っていたのである。
サンセバスチャンのバル
さて、肝心のバルの話がまだでした。
旧市街にはたくさんのバルが立ち並ぶわけだが、仕組みは同じようでも、バルにはそれぞれの色がある。いわしに特化したお店、きのこ料理が人気のお店、ピンチョスやタパスはなくて、ステーキが有名なお店など。
実は、バルのはしごを楽しみにしてサンセバスチャンにやっては来たものの、うまく注文できずに、延々と飲み物にも食べものにもありつけなかったらどうしよう。そんな不安も抱いていた。
Gandarias(ガンダリアス) いつも多くの人でにぎわう
ドキドキしながらバルに入ってみると、そんな心配は無用だった。カウンターに立つとなんとなくの順番で店員さんが話しかけてくれて、オーダーするパターンか、またはタイミングを見計らい、目があった店員さんにこちらから話しかけて注文するパターンか、のどちらかだった。
グイグイと積極的に店員さんに声をかけないと注文する番が回ってこないのではないかと心配していたけれども…そんなことはなく、なんとなくの順番や、ふんわりとしたルールはあるのであった。
店員さんも、観光客慣れしているのかな。こちらが英語もスペイン語もロクに話せなくても、親切に対応してくれた。ピンチョスは、カウンターにあるものを指差しオーダーでも伝わるし、ね。
たいていの人が英語かスペイン語で話しているようだったけれども、フランス人はフランス語のままいくようだった。フランス語を話せる店員さんも多かった印象だ。地理的に近いことも影響しているのかしら。
次の旅行までには、英会話力を身に着けておくぞ、と旅行中にはいつも思うのだけれども、それを思い出すのが次の旅行のさなかなので、私の英語力はいっこうに進歩しない。
Ganbara(ガンバラ) きのこの鉄板料理が美味
Txepetxa(チュペチャ) いわしのピンチョスならここ
Nestor(ネストール) ピンチョスが並ばないステーキバル
気に入ったお店は2度、3度と訪れた。ここにあげたお店はお気に入りのお店たち。ステーキのネストールはさすがに1回で満足したけれど。
私の場合は、ピンチョス2品、ハーフビールまたはチャコリ1杯を1セットで3軒回ると、1食分としてちょうどよい具合でした。
悔やまれるのは、バスクチーズケーキを食べなかったこと。見かけて気になってはいたものの、満腹だったりしてタイミングを逃してしまった。
その後、バンコクでもバスクチーズケーキのブームが来ていて、「本場の味と比べてどうだ」とか、わかったようなセリフを言ってみたかったのに!
昔、イタリアンレストランのサルバトーレで食事をしたときに、同席した年上の人がピザを食べながら「ここのピザが一番本場の味に近いんだよね」と言っていた。それを聞いて「そのセリフ、ぜひ、言ってみたい!」と思ったのだった。
そののちに、ナポリでピザを食べたので、そのセリフをいつ言ってみようかといまだに温めているところだ。ナポリのピザの話はまた別の機会に。
バルはベビーカーで入店もあり
サンセバスチャンは、小さな子供連れのファミリーも多かった。バルにも、子連れは多い。こじんまりしたお店ばかりだが、ベビーカーを連れて入店することを遠慮する様子も、誰かが迷惑がる様子もない。
ベビーカーの隣に立ち、ワインを飲みながら、ピンチョスをつまむ母親たちをたくさん見かけた。日本では、あまり見られない光景だ。周りのリアクションも違うだろう。
どうして、日本では申し訳なさそうに、肩身せまそうに、子育てをしなければならないのだろうか。そんなことも思った。
サンセバスチャンへのアクセス
サンセバスチャンへは、スペインのマドリード経由で向かった。深夜着でマドリードへ着いて、翌朝の便でサンセバスチャンへ。
初めてプロペラ機に乗った。
空港からは、バスでホテルへ向かった。あともう少しで、ホテルに着くというところで胸にこみあげてくるものがあって、バス停で降りるなり私は吐いた。
前日の移動の機内で眠ってしまって、夕食を食べなかった。マドリードのホテルに着いてから、何か食べるものを買おうとしたが、近くの売店やホテルのカフェもすでに閉まっていて、結局、夕食を食べそびれた。
翌日も朝食抜きのまま、出発。すきっ腹にコーヒーばかりを飲んで乗り物を乗り継いだものだから胃がやられてしまっていたようだ。
バス停の目の前に売店があったので、そこで水を買って、吐いたもの流した。胃に何も入っていなかったおかげで、道をあまり汚さずにすんだ。
憧れの街に着くなり、こみあげてきたのは感動ではなく、胃液だった。ホテルで少し休んだら回復したし、今となっては笑い話だ。
記憶に残るのは、案外こういうしょうもない出来事だったりする。
ホテルの朝食会場のレストランの冷房がやけに強くて耐えきれず、上着を取りにいったん部屋に戻ったこととか。パイナップルだけを山盛りにして、食べている女性がいたこととか。オレンジのフレッシュジュースが美味しくて、何度もお代わりしたこととか。
そういうなんてことない光景の記憶と、そこにしかない気配の体感と。ふと考えさせられる場面とか。全部、ひっくるめて、私は旅行が好きだ。
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