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風邪のときの三種の神器

「あ、今、エヘン虫をキャッチしたかも」とお風呂からあがって、バスタオルで身体を拭きながら思った。案の定、翌朝、喉がやられていた。声が出ない。

私はいつも、風邪をひいた、まさにその瞬間をわかるような気がするのだけれども、それを人に言うと、そんなわけない、と笑われたりあきれられたりする。

今読んでいる向田邦子さんのエッセイ集『男どき女どき』の中の

『若々しい女について』の冒頭に

冬になるとよく体験することですが、「あ、いま、風邪ひいたな」と思うことがあります。

『若々しい女について』

とあった。「ほら、やっぱりね」と勝ち誇ったような気分になっている。

とそんなふうに、風邪をひいたのが4月末。GWは、ほぼ床に伏せて終わった。熱が出て、PCR検査もして、幸いにも陰性だった。

熱が下がると、今度は、咳がひっきりなしに出て、特に夜は咳がひどくなって眠れない。私は風邪やインフルエンザにかかると、咳が長引くタイプで、下手をすると完治までに1ヶ月くらいかかってしまう。

ああ、まだ1時か、まだ3時半か、と時計をみる度に朝が遠いことにがっかりしながら、横になって咳をし続ける。時々、起き上がっては水を飲んでまたベッドに戻るの繰り返し。

そんな夜が続くと「ああ、シラフで朝までなんてやってられない!」という気分になって、ふと思い出したのが、かりん酒。

子供の頃、風邪のときにお湯で割って飲ませてもらったかりん酒。実家の庭にはかりんの木があって、自家製かりん酒を常備していた。

母におねだりすると、さっそく送ってくれた。子供の頃のよりも、ずっと濃いお湯割で飲んだ。うまい。

連鎖的に思い出して、夫にヴィックスヴェポラップを買ってきてもらった。子供の頃は母に塗ってもらったが、今は自分で塗った。思えば、あの頃の母より、今の私の方が年が上なのだ。

子供の頃、風邪といえば、カステラ、かりん酒、ヴィックスヴェポラップだった。熱が出るたびにおねだりしていたカステラ。食欲はないけど、カステラなら食べられると主張した。

あなたにも、風邪ときのおねだりアイテムがあるだろうか?

夫にとってのそれは、ハーゲンダッツのいちご味のようだ。私が風邪で寝込むたびに、買ってくるハーゲンダッツのいちご味。悪寒がして震えているのに、差し出されたハーゲンダッツに怒ったことがあったけれど、彼なりに、とっておきを差し入れてくれたのだった。それにしても、タイミングが悪い。

今はまだ、時々咳が出るけれど、夜は眠れている。ああ、このままよくなっていくんだろうな、という段階まできた。送ってもらったかりん酒の瓶は、何日か前に空になってしまった。

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