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ビューティフォーだったから

”英会話とダイエットに、一生励み続けているのが女である”
というようなことが書かれていたのは、山田詠美さんの小説だっただろうか…。違う人の言葉かもしれない。それどころか、フレーズもニュアンスも違うかもしれない。

とにかく、私の姉は英会話とダイエットに一生励み続けている女に当てはまる。

体質が似ているはずの姉だが、太ったり痩せたりの振り幅が私よりも大きく(それがダイエットの成果や反動なのかもしれないが)、大人になってからも、結構な費用をかけて色々な類の英会話レッスンを受け続けていたが、お世辞にもその成果が出ているようには思えなかった。

母親になった今は、ハードな日々だからか増量する機会がなくなったようである。それに、とてもじゃないけど、英会話のレッスンを受ける時間は捻出できないようだ。

そんな中、姉が始めた英会話へのアプローチは、娘を「国産バイリンガル」に育てあげること。
姪が乳児の頃から、せっせと英語の動画や音楽を聴かせ、保育園に通うようになってからは、熱心に英語の本の読み聞かせに励んでいる。残念ながら、その成果のほどはなんともいえない。

ただ、姪がよく使う英単語がある。

「ダイナソー」だ。

しかし、それは、日本語でみていたイギリスのアニメ、ペッパピッグの影響だろう。主人公のペッパの弟が大の恐竜好きで「ダイナソー」の言葉をしょっちゅう言うから。
サザエさんでいうところの、いくらちゃんの「はーい」的な位置づけである。

姪にとっては、恐竜よりも先に覚えた言葉が「ダイナソー」だったというわけだ。


先週末、姉と姪と夫の4人で外食をした。

姪へはバレンタインデーのお返しに、可愛らしい缶に入ったアイシングクッキーの詰め合わせとダイナソー型のチョコレートを用意しておいた。

食事の前にそれらを渡す。
ラッピングを開けて中身を見た彼女の顔がぱーっと輝いた。

「後で食べてね、お店ではしまっておいて」
と言うと素直に片付けた。

食事もおしゃべりもひと段落して、そろそろ帰ろうかという頃、姪が
「ちょともう一度、缶を開けてみてもいい?ビューティフォーだったから」
と言った。

「ビューティフォーだったから」

それは
「綺麗だったから」「素敵だったから」「可愛かったから」

でもなく、

「ビューティフォーだったから」

なんとも今の彼女にしっくりくるフレーズだ。

缶をあけてにんまりとした姪は、さっとひとつだけお菓子をつまんだ。
彼女にとっては、つまみ食いをしたいがために、とっさに出た言葉だったかもしれないけれど。

「お!ついに英語教育の成果か」とはさすがに思わなかったけれど、英単語のシンプルさの方がしっくりくるときがあるのね、なんて思ったのだった。
とはいえ、姪のバイリンガルへの道は、とてつもなく遠いとも思うのだけれども。


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