赤ちゃんの世界の探索はどう変化していくのか[理論編②]

こんにちは、臼井隆志(@TakashiUSUI)です。普段は0~2歳の赤ちゃん+保護者向けワークショップの開発とファシリテーションをしています。ここでは「子どもの探索活動」をキーワードに認知・発達・振る舞いについてのリサーチ過程を公開していきます。

前回の記事では「赤ちゃんはあらゆる行為のなかで[予測と確認]を楽しんでいる」と書きました。ボールをつかんで落とすとき、ボールが落ちることを予測して、実行して、確認する、という思考の過程があります。

では、この[予測と確認]は、どういう過程を経てできるようになっていくのか。これは発達心理学の礎を築いたジャン・ピアジェ(1896 - 1980)という人の理論をひもとくのがわかりやすそうです。

ピアジェは、赤ちゃんから青年までの発達を研究し、知能の発達には段階があるということを説き、現代の心理学の礎を築いた科学者です。しかも、実験室を使わず、自分の3人の子どもの行動観察にもとづいて理論を立ち上げています。妥当性や信頼性がないデータだ!という批判もありますが、ピアジェが収集したデータとそれについての解釈はいまもなおフレッシュに読めます。

10歳の頃に白スズメについて書いた1ページの論文が博物学雑誌に掲載され、とある博物館の学長の助手を務めることになったという逸話もあり、観察の天才だったことがうかがえます。

ピアジェの発達段階説

そんなピアジェは、子どもの発達をいくつかの段階に分けています。

この中でぼくが「赤ちゃん」と呼んでいる0~2歳までの子は「感覚運動期」にあたります。

感覚運動期における認知発達の流れは、ざっくり以下のようになっています。

まず身体に備わった反射で、いろんな刺激に反応(触られたものをさがす)し、自分の身体の確認する(意識して指をしゃぶる)ことができるようになり、ものの確認(シャカシャカを鳴らす)、ものとものの組み合わせ(棒で太鼓を叩く)、因果関係の認識(「たたく」と「こする」で音が違う)というふうに、だんだんと複雑なことがわかっていきます。[予測と確認]をする時間的・空間的範囲がどんどん広がっていくステップと考えてよさそうです。

では、ひとつひとつのステップを見ていきましょう。

1. 反射(0~1ヶ月)

指をおくと手を握り返してくることを「把握反射」、ほっぺたや口に触れたものの方向に頭を向け目標を探すことを「探索反射」、唇に物が当たるとそれを吸うことを「吸啜反射」などと呼びます。こうした生まれた頃から備わっている反射を「原始反射」というそうです。

この段階は[予測と確認]とかではなく、刺激に対して応える反射行動です。脳が発達してくるにつれて、失われていくそうです。

この反射は、のちの発達に関する予言的なもので、歩く動作をする「歩行反射」とか、頭から落ちた時に頭を守るように手を伸ばす「パラシュート反射」とか、知れば知るほど興味深い反射がたくさんあります。脳科学の分野でも、かなり研究が進んでいるようです。

2. 第一次循環反応(1~4ヶ月)

ピアジェは赤ちゃんが何度も同じことを繰り返すことから、彼らの物や身体への反応を「循環反応」と名付けています。

この段階では、反射が十分にトレーニングされ、身体をだんだん意識して動かせるようになってきます。「吸啜反射」でものを口に入れることを学び、「探索反射」で口に入れるものを探すことを学んでいるので、意識して腕を動かし、自分の指が口に入るように運んでいくことができる、というわけです。

また、口と指、足と足、手と手など、自分の体の部位同士を動かして確かめます。よく赤ちゃんが二つの足をこすりあわせていたりするのも、この第一次循環反応だと言って良さそうです。この段階では、物ではなく自分の身体を繰り返し確かめることをします。

というふうに考えるとわかりやすいのですが、実際の赤ちゃんはもっと複雑に、いろんな動きをしています。ものをよく見るし、姿勢も変えようとするし、手足を動かして、自分の身体の確認以上に、もっといろんなことを試しているように見えます。

最近の日本の研究でも、赤ちゃんの上にモビールをつるし、赤ちゃんの腕とモビールを紐でつなげ、生後3ヶ月と4ヶ月の赤ちゃんがそれぞれどのように運動するかをモーションキャプチャーで記録し、アルゴリズム解析したものがあります。(『新奇な環境における乳児の運動の多様性と変化可能性』)

この研究では、4ヶ月の赤ちゃんは「自分が手を動かすとモビールが動く」ということを分かっていて、そのために新しい運動パターンを試し、環境に適した運動パターンをつくりだそうとしている、ということが明らかになっています。これ、のちに書く「因果関係の理解」ということが、もうすでに4ヶ月の段階でできてるじゃんってことなんですけども。

3.第二次循環反応(4~8ヶ月)

このあたりから自分の身体から身の回りにある様々な物へとどんどん興味が広がっていきます。ものを持つことができるようになり、視線をいろんな場所に向けることができるようになり、少しずつ自分で姿勢をつくれるようになってくると、興味を持った物に向かって手を伸ばしてつかむようになっていきます。

そうすると、物を口に入れるだけでなく、振ってみたり、叩いてみたりして、目と手を使って物を観察できるようになります。

この時期のガラガラは、振ってみると音がなるし、透明のガラガラであれば、中の粒が動くのも目に見えて、おもしろいようです。ペットボトルに米や小豆を入れてキャップを接着したものでもよろこんでくれるかと。

4.第二次循環反応同士の協応(8~12ヶ月)


様々な物を目と手で確かめることを繰り返すと、物と物を組み合わせて遊ぶようになります。

この段階は、かなり不思議です。棒を使って、机の上においてあるペットボトルをひたすら落とそうとする子、お椀とお皿をシンバルのようにかち合わせる子など。物ごしの物の感触って、おもしろいんだろうなと思います。

たとえば、小学生の頃の帰り道で、傘で柵をカンカンカンカンってやったこととかありますよね。石ころでアスファルトをガリガリ引っ掻いたりとか。そういう触感の面白さに近いのでしょう。

この時期の赤ちゃんたちには棒の先にスポンジボールを接着したものと、箱や鍋などがあれば叩いて確かめることを楽しんでいます。

5.第三次循環反応(12~18ヶ月)

この段階になると、因果関係を意識して探索をするようになることが、明確に観察できるようになってきます。どんな感触がするのか、どんな音がなるのか、[予測と確認]のモデルがわかりやすくなっていきます。また、玉の道おもちゃなどでも、ボールをいれるとどこまで転がるかなど、操作をするようになります。

この時期はまだまだ誤飲がこわいのでビー玉などは与えられませんが、赤ちゃん向けの玉の道おもちゃもけっこうあります。くもん出版が出している「くるくるチャイムはオススメです。

6.心的表象

感覚運動期の最後には「心的表象」という最終段階があります。これは「いまここにない物事をイメージする」という段階だそうです。前の日に見たものを別の日に真似っこ(延滞模倣)したりとか、言葉を使うのもこの頃なのだとか。

と言いつつ、どんな説明をよんでも、ぼくにはこの段階がいまいち理解ができません。

たとえば、1歳になったばかりの子でも、空っぽのお皿とスプーンをつかって、ご飯を食べるマネっこをしたり、それをお母さんに与える仕草をして、お母さんが食べるフリをしているのを見て楽しんでいます。自分が離乳食をあたえられるプロセスを再現しているのかもしれません。何人もそういう子を見ていますが、これは心的に「食べる」という行為を表象しているじゃないか、という気がします。

ピアジェへの批判

さて、ここまではピアジェが定義する「感覚運動期」についてをおおまかにご紹介しました。もちろん、ここでいう月齢はあくまで参考指標です。お子さんによって個人差がかなりあると思っています。赤ちゃんについて学び始めた時に、このピアジェの考え方は彼らを観察する上で、非常に参考になりました。しかし、現場で関わっていると、上記の「心的表象」について「ちがうんじゃない?」というような違和感を覚えることもしばしばです。

「第二次循環反応同士の協応」と「第三次循環反応」って厳密に言うとどう違うのかよくわからない。8~9ヶ月ぐらいの子を見ていると「因果関係を分かっていない」のではなく「因果関係は分かっているが、身体をうまく操作できないからできない」というもどかしさのように見えます。その差は単に身体が操作できるようになっただけなのでは?とか。

ただ、ピアジェが考えた「感覚運動期の発達過程」が頭に入っていることで、「[予測と確認]が身体から物へと広がっていく」という物差しで赤ちゃんを観察できるようになっていると、ぼく自身は感じています。

実は、ピアジェの理論はさまざまな点で批判され、その後の心理学者たちが提案する新しい理論のたたき台になっています。例えば、知恵を身につけるのは他者とのコミュニケーションが不可欠であることとか、物がなくなっても存在することは2ヶ月児でも知っていることとか、そういうことがピアジェへの批判から分かってきています。このあたりもどこかでご紹介したいと思います。

ちょっと長くなってしまったので、今回はこの辺で。「物差し」という意味では「他者との関わり方の発達過程」や「姿勢と運動の発達過程」がかなり使えました。次回以降また書いていきたいと思います。

赤ちゃんの探索 目次

1. 赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか[観察編]
2. 赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか[理論編①]
3. 赤ちゃんの探索の世界はどのように変化していくのか[理論編②]
4. 赤ちゃんと関わるときのマインドセット①
5. 赤ちゃんと関わるときのマインドセット②
6. 赤ちゃんの探索の世界はどのように変化していくのか[理論編③]
7. 赤ちゃんの好奇心・不安・葛藤・勇気
8. なぜ「五感を使うのが大事」と言われるのか[理論編④]
9. 赤ちゃんは全身をどうやって使っているのか[理論編⑤] 
10. 赤ちゃんの探索と触覚の科学
11. 「いないいないばあ」はなぜ面白いのか
12. 探索環境デザイン[実践編]

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。感想、質問、こんな遊びもあるよ!など、お気軽にコメントください。

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赤ちゃんの探索

発達心理学・認知科学をベースに、赤ちゃんのさまざまな行動について考えるマガジンです。「赤ちゃんと関わった経験がほとんどないけれど、興味がある」「今度子どもが生まれるので、子どもが感じている世界のことを知っておきたい」という方に向けて、赤ちゃんが世界を知ろうと「探索」する物的...
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コメント1件

月齢に伴って、口で探索すること(Mouthing)については、多くの研究者が関心を寄せているようですす。たとえばRuff 1984では、Mouthingは視覚的なテクスチャに対して、Fingeringはtextured objectに対して頻度高く行うという結果を報告しています。Mouthingだと全体の形がわかる一方で、Fingeringは細かい特徴を抽出するのに向いていると言えます。論文では、Fingeringの方が、目で見ながら感じられるので同時に得られる情報が多いかもしれないと議論されています。

Infants' Manipulative Exploration of Objects: Effects of Age and Object Characteristics
http://psycnet.apa.org/record/1984-09192-001
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