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【CAST@NET vol. 001】 数えられる無限と数えられない無限

こんにちは!
私たち東大CASTは、「科学の面白さを、多くの人に伝えたい。」をモットーに、実験教室やサイエンスショーなどのイベントを実施している東京大学の学生サークルです。
この科学コラムでは身の回りの不思議から数学まで、科学にまつわる幅広いテーマを楽しんでもらえるように書いています。
よろしければ、他の記事も見ていただけると嬉しいです。(他の記事は今のところ一週間に一回のペースで更新予定です)


今回のテーマは数学で「無限」についてのお話です。


「無限」を数学で見てみよう。

普段「無限」という言葉は、とてつもなく大きなものを表す比喩としてよく使いますよね。では、数学的には、「無限」とはどういうものなのでしょう?今回はこの「無限」を一つの側面から見ていこうと思います。

まずは、1、2、3、4、...といった数、すなわち、自然数から考えていきたいと思います。
自然数(今回は自然数は0を含めないものとします)は1、2、3、…とずっと続いていきます。細かくいうと、全ての自然数nに対して、n+1も自然数なので、この列に終わりがないことがわかります。その意味で、自然数は「無限個」あるように感じますね。

次に、有理数を考えてみましょう。有理数とは、整数pとqを用いてp/qという形(ただし、q≠0とします)であらわされる数です。例えば、3/5とか7/3ですね。もちろん自然数も有理数の一部です。自然数である、pやqが無限にあることからわかるように、有理数も無限にあります。さらに、実数(有理数と無理数を合わせたもの)も無限にあります。さて、自然数も、有理数も、実数も同じように無限個あるように感じますね。
実は、ある方法を使って観察すると実数には他の二つと大きな違いがあるんです!そのキーが、「数えられるかどうか」です。

「数える」とは…?

「数える」というのはどういうことか見ていきましょう。
最初に、簡単な例として、偶数全体の集合を「数えて」見ましょう。1番目が2、2番目が4、3番目が6、4番目が8というふうに小さい偶数から、1番目、2番目、3番目、4番目という風に番号をつけることで、「数える」ことができます。

偶数を数えてみると…?

もちろん、偶数も自然数と同じように、無限にあるので数え終わることはできません。しかし、上のようにしていけば、どんな偶数nも、n/2番目というふうに番号をふることができます。このようにして、偶数をもれなく順番をつけることで、数え続けることができますよね、これを「数えられる」ということにしておきます。

有理数を数えてみる

実は、このことを応用すると、有理数も数えることができるのです!ちょっと意外じゃないですか?有理数なんて、自然数より遥かに多いような気がするのに、数えることができます。

1/1、2/1、2/2、1/2、1/3、2/3、3/3、3/2、3/1、4/1…
をずっと繰り返した列を考えます。この列、実はどんな有理数を考えても、いつかその有理数は列に登場するようになっています!
これは、下の図のようにちょっと変わった渦巻きのような動きを考えてみると説明できます。
(横の軸が分母、縦の軸が分子を表しています。そしてそれぞれの点に対応する有理数を与えています。

有理数をもれなく数える方法

変わった渦巻き、と言いましたが、実はこのようにくるくる動くことで、有理数が割り当てられたすべての点を通るようになっています。
要は、どんな大きな整数p、qを使った有理数p/qでも、図のように進めば、いつかは辿り着きます。そして、上の列に登場して、番号をつけられるんですね。

このうち、被っている数字(例えば、1/1と2/2と3/3など)をダブルカウントしないように左から1番目、2番目、3番目…というふうにカウントしていけば、実は有理数を「もれなく」数えられているんです!

有理数を数えている例(3/3=2/2=1/1で1番目と被っているのでカウントしていません)

偶数の時と同様、無限にあるので「数え終わる」ことはできませんが、「もれなく」数え続けられています。もれなく、というのは、どんな有理数でも上の列を繰り返していくと登場するので、番号をつけられるという意味です。(理由は一番下に書いています)偶数同様に、これは「数えられる」と考えられます。

実数を数えてみる

さて、ここまでいろんな例を見てきましたが、実数の場合はどうでしょうか?今までのように、実数もなんだか数えられそうな気もしてきましたよね。
具体的な方法は一旦置いといて、実数も「もれなく」数えられたと考えてみましょう。
数える順番はどんな数字でもいいのですが、とりあえず簡単な例で考えてみましょう。

1番目:1.4142、2番目:3.141592、3番目:1.1111、4番目:2.71828、5番目:1.22222、…(どんどん続く)
のように数えられていたとします。

実数を数えてみます。(他にも色々な数え方があります)

ちょっと待ってください、これって本当に「もれなく」数えられていますか?


n番目の小数点第n位に注目してみましょう

ここから話がややこしくなりますが、1番目の数「1.4142」の小数点第一位は4(水色の部分)ですね。
同様にして、 2番目の数の小数点第二位も4(紫)、3番目の小数点第三位は1(赤)、4番目の小数点第四位は2(緑)(以降繰り返し)…….というようにn番目の数の小数点第n位を考えていきます。

そして、小数点以下のみに注目してn番目の小数点第n位とは異なるような数を考えてみましょう。(異なる数であれば、なんでも大丈夫です。例えば、1番目の小数点第一位である4と異なる数は、0、1、2、3、5、6、7、8、9の9つありますが、どの数を選んでも構いません。)

今の例だと、例えば、0.33911…とか0.29344…とか、そういう数はいくつもありますね。

さて、上のように作った数(図では、0.33911…という数です)はいつまで経っても列に出てこなくないですか?
なぜなら、n番目の数と比較すると小数点第n位は少なくとも違うので、この上の列に出てくるすべての数とは異なるからです。実は、この数はいつまで経っても列に出てこない、すなわち番号つけすることができない数なんです!(しかも、各位で異なる数は9つあるので、実は番号つけできない数はとてもたくさんあることもわかりますね。)

このように考えると実数というのは、もれなく数えられません。このことから、実数は「数えられない」ということができるんじゃないでしょうか。

まとめ

今まで話してきた話をまとめると、自然数そのもの、偶数全体の集合や、有理数全体の集合は「数えることができる」(可算集合と言います)、しかし、実数全体の集合は「数えることができない」(非可算集合と言います)。要は、自然数、偶数、有理数は同じグループに属していると考えられますが、実数だけは違うグループの無限、ということです。

こう考えると実は、有理数と実数には決定的な違いがあるように感じてきませんか?実際に数学でも、この差が大きく影響していく場面もあります。

最後に余談ですが、「有理数と実数の数えられる・数えられないの中間くらいの大きさの無限ってあるのかなあ?」ということを考えてみます。実はこれ「連続体仮説」といって、未解決問題なのです。(厳密にいうと、今の数学の基礎を成すと多くの人が信じる公理の下では、正しいとも間違っているともいうことができないことが証明されている驚きの問題です!)

なんだか、無限の話って予想以上に深いですよね。これ以上喋ろうとすると「無限」に出てきそうなのでここら辺で今回は終わりにしたいと思います。

(今回扱った有理数は正の有理数ですが、同様の方法を拡張すれば一般の有理数も数えられます。ただ煩雑さを避けるため、正の有理数に限って説明しました。)

今回もお読みいただきありがとうございました。
今回は数学寄りの内容になってしまいましたが、もっと身近な科学や、理科にフォーカスを当てたものも公開する予定です!
ぜひ、他の記事もご覧ください。

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