日本史学習の方法(2021年度版)

ぜんこうです。いよいよ新年度も近くなりました。そこで、学習案内の記事の方も改訂したいと思います。前回のものから内容を大きく拡張し、目指すレベル別に学習法、参考書紹介を行います。

今回は、参考書を詳しく紹介するので日本史のみとなります。世界史を見たい方は、下の記事をご覧ください。

1.通史学習概論

参考書を紹介する前に、まずは抽象的に方向性を示したいと思います。これは、どこを目指す場合でも共通になります。

通史学習の大原則
①単語からではなく、理屈から
②本を読むときは、理解できているか自分に問いかける
③タテの視点、ヨコの視点を意識する

①単語からではなく、理屈から

教科書を疎かにして、定期テスト前になると一問一答でしのごうとする方がたまにいます。これは、点数いりませんよと言っているのと同じようなものです。歴史を学ぶときは、「理屈から」が一番楽です。例えば、弘仁・貞観期は、「天皇制の唐風化」という理屈がわかっていれば、嵯峨天皇の官制改革、弘仁貞観文化、平城太上天皇の変などが繋がって見えてきます。

単語を覚える勉強は、理屈を身につけてからのものです。理屈は、単語を整理するためのものだと思ってください。理屈がわかっていないのに単語だけ覚えたら、必要な時に必要な知識がアウトプットできません。

よく、「走るとせっかく覚えたことがこぼれ落ちちゃう」みたいな、テスト前一夜漬け高校生を漫画などで見ると思います。単語から覚えてしまう人は、それと同じ状態です。知識が体系だっていないので、試験のときに焦り気味になってミスを誘発しますし、そもそも力がついていません。

授業を聞いて、あるいは後に紹介する参考書を読んで理屈を理解してから、単語を覚えるようにしてください。

②本を読むときは、理解できているか自分に問いかける

日本史を学ぶときは、必ず本を読むと思います。教科書はもちろん、『実況中継』『なぜと流れが分かる本』のような初学者向けの参考書、『実力強化書』『日本史の論点』のような入試レベルの参考書など、様々です。

しかし、どんなに素晴らしい参考書や教科書を使っていても、理解できなければ意味がありません。例えば教科書の文体は堅いので、初学段階では、教科書より実況中継のような読みやすい文体の本の方がよいです。また「論点」のような本は、切り口・視点を変えることで理解を深める本ですので、文を読むことでいっぱいいっぱいになっているようでは、まだ早いでしょう。

何事においてもそうですが、「とりあえず終わらせれば力がつく」ということはありえません。目的があって、そしてその目的を達するに足る実力があって、はじめて力がつくのです。それが不明確なままなんとなく勉強を進めると、時間に見合った力がつかず、モチベーションの低下にもつながります。受け身学習からの早期脱却を。

③タテの視点、ヨコの視点を意識する

歴史は、政治・文化・経済・社会・外交それぞれが独立して展開しているのでなければ、奈良時代と平安時代は全く異質な時代というわけでもありません。歴史は、諸要因が絡み合いながら、漸次進行しています。

難関大学の論述問題で問われるのも、こうした側面です。例えば文化には、それを生み出した政治的・経済的背景がありますし、在地の動向は、中央の政治の動向とも密接に関わっています。

とはいえ、教科書・参考書一冊ではどこかに力点をおいて区切らなくてはなりません。ですから、複数の参考書を参照する必要があります。一番まずいのは、ある一冊の枠組みに凝り固まってしまい、その枠組みを超えた問題が出されるとフリーズしてしまうことです。複数の視点を獲得し、要求に合わせて論旨を自由に再構成できるような歴史理解が必要になってきます。

なお、1周目の段階ではそこまでやる必要はありません。頭がこんがらがりますし、全部中途半端になります。一周目ではは理屈を理解し、その後で全方向に対応できる視点を身につけましょう。

2.到達点別学習法

次からは、到達点別に学習法の概論を紹介します。1.通史学習概論は読んでおいてくださいね。これは、一人一つあてはまるわけではありません。東大/私大併願の人は③と④ですし、一橋などは②と③になると思います。

学習法⓪基礎の定着

まずは、初学〜センター試験で不自由しないレベル(8割安定)まで持っていく学習法について書いていきます。

①授業がある人(学校・予備校)

授業で理屈を理解し、教科書の記述を読むのも並行させつつ、網羅型問題集・一問一答で単語の知識もつけてください。『詳説日本史』一節分(章の一つ下。数字付きの小見出しになっている単位)くらい進んだら復習をしましょう。網羅型問題集としては、『詳説日本史ノート』『ウイニングコンパス』などがあります。これ以外でも、網羅型問題集ならばかまいません。(※網羅型問題集=教科書本文に出てくる単語はほぼ問われているような問題集。)個人的には、書いて覚えるほうが記憶の定着は促されると考えていますので、一問一答より網羅型問題集を勧めています。

②授業がない人

参考書で独学する人は、初手教科書だと文章が読みにくいので頭に入りません。『実況中継』『なぜと流れがわかる本』『共通テスト日本史Bの点数が面白いほど取れる本』(個人的に推奨)など読みやすい参考書を最初に使って理屈を理解し、それから教科書を理解するようにしましょう。

そしてアウトプットは①と同様です。網羅型問題集・一問一答で単語の知識もつけてください。『詳説日本史』一節分(章の一つ下。数字付きの小見出しになっている単位)くらい進んだら復習をしましょう。網羅型問題集としては、『詳説日本史ノート』『ウイニングコンパス』などがあります。これ以外でも、網羅型問題集ならばかまいません。(※網羅型問題集=教科書本文に出てくる単語はほぼ問われているような問題集。)個人的には、書いて覚えるほうが記憶の定着は促されると考えていますので、一問一答より網羅型問題集を勧めています。

これをやってもらえば、教科書本文レベルの単語と、日本史の発展的な学習をする上で必要な知識・理解はつくはずです。その指標として、「センター試験8割」があります。センター試験は、事実関係や年代の知識・史料読解の能力を測るのにちょうどいい試験です。既習範囲でセンター試験8割を超えたら、次のステップに行ってかまいません。

学習法①共通テストで日本史を使う人

※「学習法⓪基礎の定着」の続きです。初学の方、既習範囲においてセンター8割安定くらいの実力がついていない方は「学習法⓪基礎の定着」をまずご覧ください。

試行調査よりセンター寄りになったとはいえ、評価と根拠問題、史料問題への適応が必要です。また、学習の方向性として、理屈を理解することが必要となってきます。来年以降はどのような問題形式になるかわかりませんので(試行調査寄り)になる可能性もあります、盤石な力をつけましょう。

しかし先述したような、「理屈を軽視して単語ばかり詰め込んでいる受験生」でなければ、直前期の演習を経て9割を超えることは可能なはずです。

高3の9月頃には通史が終わっていて直前演習までに時間があり、かつ安定してさらに高いレベル(ほぼ満点安定)を目指すとすれば、『大学入学共通テスト日本史Bが1冊でしっかりわかる本』で資史料を使った考え方を学ぶといいでしょう。

直前期(12月〜)の演習としては、センター過去問・対策問題集をやるのがよいでしょう。センター過去問15年分、対策問題集5回分、昨年の問題+試行調査合計4問くらいやれば良いと思います。

センター過去問を多めに入れているのは、第一回の共通テストでセンターへの回帰が見られたから、という理由だけではなく、知識の定着の確認に有用であるためです。順番は、「センター→共通テスト+試行調査→予想問題」が良いと思います。逆算して、全て終わるよううまくやってください。

共通テストと、試行調査(1回分のみですが)の解説は↓より。

学習法②知識型論述を課す大学を受験する人

※「学習法⓪基礎の定着」の続きです。初学の方、既習範囲においてセンター8割安定くらいの実力がついていない方は「学習法⓪基礎の定着」をまずご覧ください。

なお、論述の学習は、通史が終わってからでないとやってはいけない、ということはありません。通史と並行で結構です。高3の春に順次始められるといいでしょう。

まず、自分の志望大学が課す論述問題の重さを大まかでいいので把握してください。例えば以下のパターンのうちどれでしょう(複数選択可)。最初にゴールを見定めることが大事です。

①短文論述(-50)・知識。単語しか覚えていない受験生を排除するためと思われる。
②中文論述(50-150)・知識。教科書の内容の組み合わせで解ける。
③中文論述(50-150)・知識、思考。テーマ設定が特殊で、教科書からは離れている。
④長文論述(150-)・知識。文章が長いが基礎的。
⑤長文論述(150-)・知識、思考。視点を据えて論述することを求める。再構成して言語化する力が必要。

論述に入る準備として、基礎的な事項を、網羅的に書けるようになっていなければなりません。これは教科書を進めるのと並行でやってください。最適な教材としては、

①相澤理先生の『日本史論述ポイント集』

②野島博之先生の『論述の基本』

などが挙げられます。

教科書レベルの知識をつけたら、次はそれを問いに合わせて運用する能力を磨きます。いろいろな大学の過去問を解いてみましょう。

まずは論述の書き方を学んでください。論述で使ってはいけない言葉、そもそも日本語の組みたて方などを学ぶ必要があります。そうした「作法」を学ぶものとしては、『「考える」日本史論述』がおすすめです。志望校の過去問は避けて、簡単な問題から「書く」ことの練習をしてみてください。

論述問題集では、極端に傾向が異なるものでなければ極力全部解きましょう(過去問演習の時間を圧迫する恐れがある場合を除く)。時間は無制限でいいです。最初は自力で考えて欲しいですが、最終的には教科書類も見て大丈夫です。問いに答えること、問いに答えるために過不足なく知識をアウトプットすることを学びます。

論述問題集での練習ができたら、次は過去問に入ります。過去問演習をして志望校の過去問の特性をより詳細に掴むと共に、時間感覚を磨きます。

過去問はよく復習して、解答に至るまでの頭の使い方を再現できるようになってください。それでも時間があったら論述問題集に戻り、志望校の過去問と傾向が似ている大学を見つけ、東進の「過去問データベース」等で過去問をDLして類題演習をしてみましょう。

学習法③短答問題が主な大学を受験する人

※「学習法⓪基礎の定着」の続きです。初学の方、既習範囲においてセンター8割安定くらいの実力がついていない方は「学習法⓪基礎の定着」をまずご覧ください。

まずは、『日本史総合テスト』くらいのものから、教科書の定着と並行でやってしまいましょう。それが終わったら、『体系日本史』をやってみるといいでしょう。

あとは志望校の過去問や、形式や難易度が似た大学の過去問を進めましょう。(全部調べる時間はないので、都度質問箱やDMで問い合わせてください。)

◯求められる知識レベルが高い大学への対応

一部大学では、教科書レベルを超越した問題が出題されます。センター8割くらいの知識をつけたら、センターレベルの知識を固めつつ、センターを超える知識をつけていきましょう。

参考書としては、『読んで深める日本史実力教科書』が挙げられます。また東進の『日本史B一問一答』☆1、☆無まで覚えれば、単語のレベルで苦労することはないでしょう。ここまでやって知らない単語が出たら、それはだれもできません。差がつく問題ではないので、気にしないでください。

学習法④東大を受験する人

※「学習法⓪基礎の定着」の続きです。初学の方、既習範囲においてセンター8割安定くらいの実力がついていない方は「学習法⓪基礎の定着」をまずご覧ください。

教科書の内容についての盤石な知識をつけたら、次はそれを使いこなす訓練です。その下準備として、マクロな視点の獲得は必須になってきます。そのための参考書としては、『日本史の論点』が挙げられます。読んで(できれば問いに対する答えを自分で考えてから)、理解しましょう。

同時並行で、論述の書き方も学んでください。東大日本史は普通の論述問題とは毛色が違うとはいえ、論述問題であることには変わりないですから、使ってはいけない言葉、そもそも日本語の組みたて方などを学ぶ必要があります。そうした「作法」を学ぶものとしては、『「考える」日本史論述』がおすすめです。全部やる必要はありません。東大の過去問は避けて、「書く」ことの練習をしてみてください。

さて、論述の書き方をある程度学んだら、いよいよ過去問演習です。東大日本史の勉強をするときは、まずは過去問から入ることをおすすめします。過去問がもったいない、ということよりも、最初に変なクセをつけないことの方が重要です。

通史が最後まで終わっていない場合、できる大問だけで構いません。また最初は、時間制限をつける必要もありません。東大日本史の特徴をつかみ、解答できるようになるためには、早いうちに問題にじっくり向き合った経験が大切です。1問に1時間かけてもいいですし、教科書や参考書を見てもいいですから、極限まで粘って「ベスト答案」を作成してください。

過去問演習の答え合わせの際に参照して欲しいのは、
・『東大の日本史27カ年』(赤本)
・野島先生の解答例(昨年はnoteで販売していましたが、今年はわかりません)
・野澤道生の「日本史ノート」

です。解答例ならば自分もnoteに上げているので参考にしてください。

復習の時に重視して欲しいのも、頭の使い方です。上にあげたものは、資料文の使い方・思考の道程を文章化してくれているものです。自分の頭の使い方と照らし合わせて、どうするのがよりよかったのかを考えてみてください。

過去問演習の目安年数は直近10年ほどです。そこまで終わらせたら(一部直前演習用に残しておきたい場合を除く)、①さらに遡るか、②予想問題です。

昔の過去問は資料文形式でないものもあり、資料文の練習をしたいならば予想問題です。その場合推奨できるものは①『東大日本史問題演習』あるいは野島先生がnoteで上げる予想問題、②『東大入試プレ問題集』です。

また10年終わらせたところで区切り、新しいものには手を出さないという選択肢もあり得ます。東大日本史は試験場での思考が大事になりますから、「これが出るかもしれない」という思いで予想問題を解きまくってもあまり意味はなく、むしろそれが試験会場で呪縛になる可能性もあります。それよりは、10年を何度もやり直したほうがよいという考え方もできます。10年が不安な状態で終わってしまった(「本番これと同じ問題が出たら50点以上は堅い!」と思えるようなセットが一つもない)場合は、すでにやった過去問を解き直したほうがよいでしょう。

共通テストですが、問われている力は東大日本史と方向性が同じですので、東大日本史の対策をしている人は特別な対策は不要です。センター試験を使った知識の確認をよく行ってください。一つだけ言うとすれば、東大受験生は文化史・戦後史・原始が手薄になりがちなので注意してください。

おわりに

以上大まかに学習の流れを示してきましたが、経験の浅い人間が考えたあくまで一例に過ぎません。断片的ながらも同様のものを公開している方はたくさんいると思うので、多くの情報を取り入れて、方向性確定の一助にしてください。

ご質問、ご意見は質問箱にお願いします。


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