見出し画像

日本史に関する読書案内

ぜんこうです。今回の記事は受験生対象ではありません。必修もそこそこに日本史に関する読書に没頭していた前期教養の読書経験を踏まえて、高校レベルと専門的な書籍の橋渡しをする本を紹介したいと思います。

特に誰かを対象としているわけではありませんが、大学に入ったばかりの一年生や、日本史を学び直したい大人の方の役に立てればと思って書きます。

歴史好きの高校生の皆さんは、「大学に入ったら読みたい!」という思いを持って、勉強のモチベーションを上げてもらえれば幸いです。

①高校日本史から一歩飛び出して

以下紹介するのは、オムニバス形式の書籍です。好きな部分だけ読むこともできます。

『大学の日本史』シリーズ(山川)

確か昨年の情報誌で「教養編」としてご紹介しました。中世編は東大の先生が多く関わっているためです。全体的に、教科書で説明が足りてなかったかなと思うところに関して記述が厚くなっています。書き方も読みやすく、導入向けと言えるでしょう。

『〇〇史講義』シリーズ(ちくま新書)

有名なシリーズです。古代、中世、近世、明治、昭和というくくりです。戦乱編、宮都編、人物編などありますが、まずは無印を購入することをおすすめします。(ただし、明治史は【テーマ編】、昭和史は1、2、【戦後編】が無印にあたります。)大学の日本史と同じくくりにしましたが、こちらのほうが難しいです。書店で見比べてから買うことをおすすめします。
なお、近世史無印は、「女性の力を問いなおす」というサブタイトルがついていて毛色が違います。

②好きなテーマの新書・日本史リブレットを読む

読書の楽しいところです。必ずしも①のステップを踏んでいる必要はありませんが、わからないところが多かったら、教科書や①に立ち戻ってください。

ここでは時代別に、読んだことのあるもののうち特に良かったものを紹介します。新書で自分が買うのはちくま、岩波、中公、講談社現代が多いです。現在の新書・リブレットのラインナップであれば、興味を刺激されるタイトルの本が一つはあると思います。書店をぶらぶらして、気になったものは手に取ってみてください。自分もそういう選び方をしています。

古代

河上麻由子『古代日中関係史』(中公)
大津透『律令国家と隋唐文明』(岩波)
大津透『日本史リブレット 律令制とはなにか』(山川)
倉本一宏『蘇我氏』『藤原氏』(中公)
東野治之『遣唐使』(岩波)

中世

亀田俊和『観応の擾乱』(中公)
呉座祐一『応仁の乱』(中公)
桜井英治『贈与の歴史学』(中公)
新田一郎『日本史リブレット 中世に国家はあったか』(山川)
伊藤俊一『荘園』(中公)

近世

尾脇秀和「氏名の誕生」(ちくま)
紙屋敦之「日本史リブレット 琉球と日本・中国」(山川)

近現代

坂野潤治『日本近代史』(ちくま)
加藤陽子『戦争の近現代史』(講談社現代)
瀧井一博『伊藤博文』(中公)
清水唯一朗『原敬』(中公)

全体

『日本史の論点』(中公)※塚原先生の著書とは別物です。

太字にした『律令国家と隋唐文明』、『贈与の歴史学』などは、東大を日本史で受験した人には面白いと思います。

③通史を詳しく把握する

もっと詳しく、現在のスタンダードを把握したいという欲が出てきたら、読んでみてください。

『日本の歴史』シリーズ(講談社学術文庫)

『天皇の歴史』シリーズ(講談社学術文庫)

前者は全25巻、後者は全9巻の本です。今まで紹介してきた本より内容が詳しく、先行研究の参照も多いです。ゆえに大量の新情報が入ってくるので、頑張って食らいつかないとついていけません。しかし、ある時代・分野を語るにあたってはこのくらいの知識は必要、という最低ラインかなと感じています。
また現在の通説を把握するうえで信頼がおけるものの一つでもあります。

④専門的な内容に踏み込む

以下紹介するのは論文です。

『岩波講座日本歴史』シリーズ(岩波書店)

全22巻の論文集です。目次をめくってみて、興味のひかれるものがあれば見てみるといいと思います。各時代の1巻目の最初の論文は「〇〇史への招待」というもので、それぞれ古代・中世・近世・近現代のおおまかな研究の状況をさらいつつ、しの時代を理解する手助けになるイントロダクションです。まずは図書館でそれだけ読んでみてもいいでしょう。

『展望日本歴史』シリーズ(東京堂出版)

全24巻の論文集です。これも興味のひかれるものがあれば見てみるといいでしょう。「日本歴史」と並んで作問の際に参考にしています。

研究史について

本を読む上で自分が気にするのは、研究史上の位置付けです。例えば有名な網野善彦先生の「日本社会の歴史」(岩波新書)などはよく読まれていますが、それが現在もスタンダードかと言うと、必ずしもそうではなく、批判され、通説でない記述もあります。戦後のマルクス主義歴史学、そしてそこから脱して現在に至るという研究の歴史の中で、スタンダードは変化してきています。(詳しくは桜井英治「歴史に法則性はあるのか」『東大連続講義 歴史学の思考法』(岩波書店)を参照してください。)
しかし、(当然のことながら)それぞれの本には研究史上の位置付けが書いてあるわけではないですし、研究史を把握するにもそもそも時間と手間がかかります(自分も勉強不足です)。ですが、研究史上の位置付けがある、ということを頭に入れておいて頂けると少し見通しがよくなるのではないかなと思いこの項を執筆した次第です。
ただ、だいたいの研究史がどんかものかというのは文章中で触れられることも多いですし、同テーマの本・論文を数冊(本)読めばなんとなくわかってきます。研究史を正面から扱っているものもあります。小林和幸(編著)『明治史研究の最前線』(筑摩書房)などは研究史を中心として、明治史研究上の「最前線」を説明しようと言う書籍で、こういう本が他の時代でも増えればいいのになと思います。

おわりに

以上、拙いながらも日本史を学ぶ上で重要と考える書籍とその位置付けを述べてきました。自身の未熟さゆえに内容が甘いところもあろうかと思いますが、引き続き精進してまいりますので、ご寛恕いただければ幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?