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【思考録】孤立無援ではないらしいが -2月編/22-

 家族からのマイナスイベントは、逆に私の就職活動を加速させた。

 赤ペンしてもらった部分は直ちに修正し、その日のうちに証明写真を撮った。個人的にも探してみて、それをハローワークの相談員に見せて求人票を印刷。ピックアップした求人を比較した。

 それから失業給付の手続きで後れを取っていた分も進めた。説明会に顔を出し、受け取る予定のない失業給付についての理解を一応手に入れる。……が、正直なところはあまり頭に入らなかった。

 失業してからの話ではなく、こちらとしては就職する方へ動きたかったからだ。

 そうして全部で六通もの封筒を郵便局に委ねた。雇用に関する書類なので大判の封筒。クリアファイルを百円均一で購入し、郵送料。証明写真。職務経歴書と履歴書の印刷代。決して安い金額ではない。大判の封筒はハローワークの相談員から貰うことが出来たのは本当に助かった。

 年齢も年齢だし、何らかの実績も持っていない。多少、パソコンに関する知識を持っているだけ。応募したら通るわけではないだろう。さすがに疲れた。

 二月の十八日から始まる週はこのような感じで始まり、進んだ。イライラと頭を痛くすることもあったが、それで手が止まってしまえば望む結果は容易く遠ざかり、達成できなくなる。
 翌週にはもう、二月の末日を迎えるということも全く考えていなかった。

 しかし私がここまで出来たのは、家族に対する反発心や抵抗力ばかりではなかった。

 私の事情を知る人、知らない人。どちらでも良い。そんな人と過ごす時間はあらゆるマイナスな話題を忘れさせた。もちろんそのためにはいくらかの金銭を必要とするが、私が自分を保たせるには十分どころか、ありがたみが大きすぎて恐れ多く、費やした金額では足りないのではないかというくたいだ。

 いや、足りないとしたところでそれ以上出すものもなかったのだが。

 この楽しい時間を心置きなく過ごすために、就職に関する資料の作成や送付を急いだと言っても過言ではない。動機がなんとも利己的だが実際にそれで乗り越えられたのだから良いとしている。あとはこの書類選考が通るか通らないか。果報は寝て待てである。

 結果をいえば六通送った応募書類のうち、選考を通過したのは三通だった。特に可もなく不可もない。ここから今度は選ばなければならないのである。面接をしたのはさらに翌週の二月二十五日から始める一週間。同時に二月が終わり、三月が始まるという事実に私は驚いたものだ。

 早ければ、この三月の半ばあたりから働き始めるのかもしれない。

 そうなったときの生活保護の受給はどうなるのだろうか。三月から働いたのなら、給与が出るのは四月からだ。収入が認められると生活保護費は減算される。まさか四月から突然無くなることはないだろうが、確認は必要だろう。

 確認と言えば、私の銀行口座に二件の振り込みが確認された。

 一つめは生命保険の解約によって発生した返戻金である。六千五百円ほど。あると嬉しいが、これによってまるまる減額されると思うとやや元気を失う。

 二つめは詳細不明の入金であった。『給与』としか書かれていない名義で振り込まれている。その額、二千円と少し。なんだこれは? 誰だ。

 二月の給与ということは一月の勤務報酬ということなのだろうが、一月は入社待機で働いていない。出来れば思い出したくなかった事実だが、どうにも人を小ばかにする悪癖が先方にはあるようだ。

 例の、その入社待機を指示し続けている会社だろう。一月の給与は補償すると宣っていた。しかも分割でだ。もしかしてこれがそうなのではないか。確認の連絡をするのも疎ましい。

 銀行にこの不明な入金について詳細を調べてもらったやはり細かいところは分からなかった。

 この『給与』という名前での入金は十二月にも発生しており、金銭的に困窮していた私は訝しく思いながらもありがたく使わせていただいていた。全くこれが仇である。

 十二月の『給与』と一月の『給与』は違う銀行口座から入金されていた。
 薄気味の悪さを覚えずにはいられない。この入金は家族に例の生活保護の通知が来る前に入っているので、これが家族の仕業ではないことは間違いない。とすれば心当たりはもうそのブラック会社しか私には残っていない。

 弁護士にこれを相談するには、私の金銭事情が障害である。

 出来ればあの会社とアレとは関わりたくないし、名前も声も見聞きしたくないのだが。それに二月が終わろうというのに連絡を寄こさない。

「二月末までに入社の準備が出来なかったら」
 この話はもう忘却の牢の中か? 大事を前にすれば私のコトは些事であるということか。夜道に気を付けてもらった方が良さそうだ。

 ここに来ても私がこのことをウェブ上に流さないでいることは、最後の温情なのだがそろそろもう捨てても良いような気がしてきている。

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