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【体験録】やるもしないもご自由に -2月編/09-

 担当者と狭い個室で二人きりになるのも、そろそろ慣れてきたころだ。ビジネスとは違うが『ビジネスライク』という言葉が似合うような、表面的なやり取り。内面を全てさらけ出す必要はない。言えば何か変わるのかといえば、何も変わらないのだ。

 私は皮膚科と歯科を希望したが、内科の受診も進められたので行くことにした。歯科は直近で行ったことのある歯科医のところを伝えた。

「分かりました、ちょっと見てみます」
 生活保護の『医療扶助』で病院に行くには、その病院が『医療扶助』で受けることが出来るかどうかを確認しなければならない。これについては前の記事を読んで頂けると良いと思う。

 自覚している不調部位は歯、皮膚である。内科を勧められたのは朝が起きづらく、一月の栄養失調気味が響いているのか、元々低血圧で低血糖だったのが拍車をかけている可能性があったからだ。眩暈、立ち眩みは日常的なので気にしてはいなかったが、負担してもらえるうちに確認してもらった方が良い。

 担当者が戻ってきた。
「すみません、こちらの歯医者さんは、えっと『医療扶助』で行くことが出来ないです」
「そうなんですか?」
「はい。割と新しい歯医者さんでしたよね?」

 そうだったか? 元々歯科医はそこにあり、リニューアルして再開業しているように見えた。外野である私からはそう見えていて、実際はまるっと入れ替わって新しくなったのかもしれない。

「そうかもしれません。すみません、詳しいところはちょっと」
「あ、ですよね。小さい町医者とか、新しい病院だと、……えっと、その『医療扶助』の申請って、病院側が出すんですけど、まだ申請を送って無かったり、受理待ちだったりするんで」

 なるほど。申請して確認され、審査があり、落ちることもあれば通ることもあるが最終的に受理されるかどうかの判断に至るまで、大変長い時間がかかるものだ。その歯科医がどうなのかは分からないが、行けないなら仕方ない。

「ちょっと探してみます。内科と皮膚科も合わせて」
「はい、お願いします」
 内科も皮膚科もそんなにかかった覚えはないし、看板を見た覚えもない。近場にあっただろうか。意識して見ないからやはりここはインターネットの力を借りて探すしかあるまい。

「今後はこんな感じですかね?」
 担当者はおもむろにそう言った。

 こんな感じとは?
「こんな、というと……」

「病院に行って、ひとまず。で、就職活動をする感じで、出来る限り早く復帰したいと」
「え? ええ、そうですね」

 それが普通の流れだと思うが……。いや、私の場合か。
 人によってはケガや病気で動けなかったりするだろうし、他に家族がいる場合もあるだろうし、扶助の中には出産に関するものもある。ライフイベントが重なっていないから、私は復帰だけを見て動けるわけだ。

「まずは病院を探して連絡します。すみません、流れを伺ってもいいですか」
「あ、はい。まずは病院を探してください。それを私に連絡してくだされば、確認はすぐなのでその日のうちに『医療券』を作成します。お受け取りはいつでも大丈夫です」

 行きたい病院がまた受けられない病院だったら二度手間だ。候補を二つ以上見つけた方がいいのか? いや、それよりも。

「その『医療扶助』によって受診できる病院のリストなどはないでしょうか」

 そこから探した方が早くないか?
 しかし担当者は首を横に振った。

「そうですよね、でもすみません。ないんですよ」

 Uh?

 え、どうやって確認してるの?
「そうですか、分かりました」
 貸し出せるリストがない、という意味として受け取ることにした。

 生活保護受給者は他にも多数いるわけで、その人ごとに手渡していたら紙もインクも無駄である。病院だって新しく出来ては静かに閉める現状である。
 随時更新されるリストを紙で出すコストはない、と判断されるのも当然だと思った。

「じゃあ、あの、すみませんが」
「はい、こちらで探して連絡します」
 予定やタスクがあった方がいい。どうかするとすぐに糸が切れて崩れやすくなってしまう。リタイアはいつでもできるから、今ではない。

 新たに書き込まれたスケジュールに目を向けながら思った。

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