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コーヒーショップの物語

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コーヒーショップを舞台にした、可笑しな、トンデモな、妙チクリンなお話。
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プレリュード

爽やかな初夏の朝 コーヒーショップの窓の外では スズメ達が噴水に集まって 小さな翼をシャンプーしている 音大行きのバス乗り場では 客はバスの屋上にハシゴで登り ピアノを楽譜初見で弾かないと 乗せて行ってもらえないそうだ ラヴェル先生が入試用に作曲した 『プレリュード』を上手く弾けない人は スズメの冠婚葬祭のための祝い歌や レクイエムを補習させられている 遠い昔 私も高校の体育館で ザ・ローリング・ストーンズの曲の イントロをトチったことがあるから 何処かで補習を受ければよかっ

石狩挽歌

コーヒーショップに夏が来て 向かいの席の女子高生が ブルーソーダを飲み始めた 青い液体をストローでチュー コップの中身が減っていくにつれ 女子高生は足先から海になっていく 水位は下腿から太ももへ お尻からウエストへ胸へと上昇し ブルーソーダを飲み干した時には 頭のてっぺんまで真っ青な海になった 途端にバッシャーン! 身体が崩れて 海水が一気にぶち撒けられた 店内はたちまち一面の海になり セーラー服がゆらゆら浮かんでいる 客達は取りあえず泳ぎ始めた 潮汐と潮流の循環が始まり セ

雨のコーヒーショップ

今日は雨の日 小雨から本降りになると コーヒーショップの窓の外を アノマロカリスが泳ぎ始めた カンブリア紀の海棲生物だ 雨足がさらに増してゆき ついにどしゃ降りになると デボン紀の肺魚や三葉虫と一緒に シーラカンスの群れが泳いでいる まるで太古の水族館だ しばらく見惚れていると 雨足がいくぶん穏やかになり 窓の外はイモリやサンショウウオや カエルのご先祖さんみたいな 怪体な姿の両棲類ばかりになった それでもずっと見ていたら 雨はすっかり小降りになり ドスンドスンと音を立てて

九官鳥

今日はコーヒーショップで 売買契約を結ぶことになっている しかしコーヒーをひと口飲んだ途端 売るのだったか買うのだったか 金額はどのくらいで そもそも誰と何を売買するのか きれいさっぱり忘れてしまった まあいいや だけど 何となく気分がスッキリしない ふいに至近距離から視線を感じたので となりのテーブルを見ると 鳥類行商人が双眼鏡を眼に当てて じっとこちらをウォッチしている 私はとても腹が立ったので 強い口調で文句を言った 「きみ、失礼じゃないかっ!」 すると鳥類行商人は 「

あんた誰?

土曜日の午後 コーヒーショップに子象が入ろうとしたが ドアの間に胴体がはさまって そのまま動けなくなってしまった 店の外から象使いの少年と通行人が しっぽを掴んでエイヤッと引っ張っている 店の中からは客達と店のスタッフが 子象の頭を押しているがびくともしない それでもウェイトレスが注文を聞くと 子象は「ぼくカフェ・オレ!」と答えた やがて運ばれて来たカフェ・オレを 子象は長い鼻を使って口の中に流し込んだ と思ったら胴体を荒っぽく引き抜いて びっくりしているみんなを尻目に 大通

コーヒーにミルクを垂らし スプーンでかき混ぜると カップの中から声が聴こえてきた 「明日はゴミ出しの日だよ。」 うるさいなぁ分かってるよ と思いながらカップを覗いてみると 超小型の牛が泳いでいる スプーンで取り出してやると 小さくても豊満なおっぱいから ミルクがぴゅるぴゅる出続けている おっとトレーの外にこぼさないよう注意 すると 隣りの客がこっちを見て 「ああ、また牛が出ましたか。 私は家内に捨てさせましたよ。」と言う 「明日はゴミ出しの日だよ。」 牛は同じことを繰り返して

奈落へ

コーヒーをひと口飲むと 下腹部に非常に強い便意が襲ってきた そう言えば今日は朝方から 何となくお腹が妙な具合ではあった この店では駅構内のトイレに行くしかない けっこう遠いんですよこれが ふうぅ~ 何とか治まったようだから 我慢して自宅に帰ってゆっくりと… すぐにまた強烈な便意が戻ってきた うううぅ~~ぐむむううぅぅ~ 「ランチセットお待ちの方!」 ウェイトレスのカン高い声が今日は癪に障る それより前のテーブルでお喋りしている 女子高校生達に感付かれてはならない 上半身が左斜

風と共に去りぬ

コーヒーを飲んでいると 窓に伝書鳩が降りてきた うん? 私に宛てて? 指にパン屑を乗せて差し出すと 小さな嘴でせわしく啄ばんでくる ふふ 可愛いやつ 光沢のある胸をなでてやると ククルルと喉を鳴らす ふふ ほんっと可愛いやつ 足に付けてあるアルミの円筒から 通信文を取り出して読んでみよう どれどれ 「あなたに伝えることは何もありません」 丸文字で書いてある はて いったい誰が私にこんなことを? いぶかっていると 「あんたに伝えることなんか何もないよ」 伝書鳩がややイケズな口調

The Wind Began To Howl!

白いコーヒーカップが モジモジしている様子なので 私はどこか痒いのかと思い 指先でひとしきり掻いてやった すると紫色の煙が立ち昇り ガラケーの着信音みたいな 安っぽいファンファーレと共に ジミヘン魔神が姿を現わした 願いごとを叶えてくれるらしい だったらさえないファンファーレを あのウッドストックで演奏した 『スター・スパングルド・バナー』に 変えてもらえないか頼んでみよう すると前のテーブルの町内会長が 「ジミヘンなら『紫のけむり』だぞ」 さもそれが当然のような口調で言う

ドキがむねむね

毎日コーヒーショップに来ては テーブルにノートPCと書類を広げて 何やら書いたり考えたりしている メスのニワトリがいる 近くのオフィスに勤めているのだろう 品の良い赤いトサカがよく目立つから 来ていることがすぐにわかる 今日はトーストセットを注文したようだ ゆで卵が付いているけど スーツ姿のキャリアニワトリが 共食いになるゆで卵を食べるのかどうか 食べるならどんなふうに食べるのか 私は気になって仕方がない きょときょと動く眼やトサカを ついじっと見つめてしまいそうになる しか

リーマン

お昼過ぎには スーツ姿のサラリーマンが多い コーヒーショップでほっと一息だね みんなノートパソコンを開いて 液晶画面を覗きながらコーヒーを飲む 私のはもっと小さいミニノートパソコン いいでしょ 仕事用じゃないもんね えっへん 詩を書いておるのだぞ なんてお仕事中ごめんなさいっ! 愚にも付かないことをコソコソと‥‥ ここまで書いてコーヒーを一口啜ると 隣りのテーブルのサラリーマンが覗き込んで 「きみ、それは違うよ」と言ってきた 「我々は現在はリーマンと呼ばれている。 ベルンハル

春のキャンペーン

トーストセットを注文すると 今は春のキャンペーン期間中とのことで 赤い三角くじを引かされた 「お目出とうございます。当選です」 グラマラスなウェイトレスが言うには 姪っ子が一人当たったのだそうだ 長い間会ってないなぁ…… テーブルに着いて待っていると ずいぶん成長した姪っ子が現れた うんうん可愛くなったじゃないか ふふ 胸もふくらんできているな 私はなんだか気分を良くして 姪っ子の顔にマーガリンを塗りたくり ペタッ! 額にぽち袋を貼り付けてやった それはいいとして 今日はあの

大相撲珈琲場所

コーヒーをひと口飲んで カップを皿に戻すと バッチコーン! 右頬に張り手が飛んで来た もうひと口飲んで カップを皿に戻すと バッチコーン! 今度は左頬に張り手が飛んで来た ひるまず三口目を飲もうと カップに手を伸ばしたら 中からセピア色の雲みたいなものが もくもくもくもく湧いて来て ヤッ トッ トゥ! ドッス コイッ! すもう取りの摺り足で前進しながら 私の胸や肩を突き押しして来る おおっと! おっ? おおっ? 即座に立って応戦を試みたが 相手のマワシを掴むことはおろか いな

夏祭り

コーヒーショップで冷コ中 窓の外ではトウモロコシが 半被を着てイカ下足を焼く夏祭り 駅前広場に設営された 野外ステージではカラオケ大会 たまにはこういうのもいいな 近くの信用金庫のOLが 敏いとうとハッピー&ブルーの 『ぎんざのお地蔵さん音頭』 (S.55 キャニオン)を歌うと スイカが裸足で逃げ出した 続いてケアハウスなごみの事務長が 森雄二とサザンクロスの 『母性本能』(S.53 クラウン)を歌うと タイ焼きが身悶えして衣を脱ぎ捨て あんこを投げ付けて抗議している よりに