自邸について①

 今までnoteを書くつもりはありませんでしたが、私が経験したことを記載して、日々の生活の中で選択や決断が必要な際にどのようなことを考えたのか残すことにしました。

 建築を中心にした記事が多くなるかと思いますが、クライアントを含めてnoteを読んで下さる方がご自身の計画を考える際の選択や判断の参考になれば幸いです。

 ということで、今回は最近改修の計画を進めている自邸の話をしようと思います。


 私は今年で34歳となりました。2022年のはじめに結婚し、今年の秋には子どもが生まれる予定もあり、自邸をどうするか妻と一緒に考えるようになりました。

 まず最初に、世間における一般的な選択肢として、住居を考える上で持ち家に住むのか賃貸に住むのかというのは人によって選択の意見が分かれる永遠のテーマです。

 現在では、SNSやYouTube、書籍等の媒体で様々な意見を目にしますが、私はそれぞれにメリット・デメリットがあり、個人によって適切な方を選択すればそれで良いと考えます。

 建築の設計者の立場からすると、作りたい自邸のイメージ、理想の空間や暮らしがある場合は設計事務所や設計の自由度が高い工務店に依頼をして自分が心から納得できるこだわりが詰まった持ち家を採用し、住空間に興味がなければ災害等の有事の際のリスクが低い賃貸を採用するのが最適であると考えています。

 要は、一人一人の人生の中で自由に使えるお金は限りがあるので、そのお金はその人や家族がより豊かにしたい部分に注ぎ込むべきだと思います。建築や空間への興味の有無により金銭的なリソースを割くどうか決めれば良いということです。



 前談を入れましたが、我が家では自邸の計画を考えるにあたり、持ち家と賃貸のどちらを選ぶかを含めた下記の5パターンほどを考え、この中から最も適切だと感じる選択肢を選ぶことにしました。
(我が家はどちらかの実家に住むという選択肢は採用しませんでした。)

①新しく土地を購入し、その上に新築を建てる

②既に親族が所有している土地を譲ってもらいその上に新築を建てる

③築年数の浅い分譲マンションを購入しそのまま住む

④分譲マンションを購入しリノベーションして住む

⑤賃貸でアパートやマンションに住む


 建築業を営む身として、自邸の設計を行い見学会などを通じて仕事に活用する事を考えると①・②・④、居住する土地の利便性や将来的なRC造マンションの不動産的価値を考えると③、場所の自由度が高く災害などのリスクを考えると有事の際に住み替え可能な⑤が良さそうかなど、それぞれのメリット・デメリットを比較して判断しました。

 土地の利便性について、もう少し補足すると、妻や私の職場や打ち合わせ場所等への通勤距離、幼稚園・保育園・小中高といった子どもの通学距離、子どもの遊び場や習い事への配慮、住む場所の治安、住む場所の自然環境・景観、日用品を購入するお店への距離、隣家との距離、地震や水害などの災害リスクなどの条件も考慮しました。
 建築的には、上下水道やガスなどの設備インフラなどの状況も土地比較の際に確認しつつ進めました。


 一般のご家庭の場合①〜⑤のどのパターンも考えられると思いますが、私の家は妻との話し合いの末、②に近い形で土地選びを含めた自邸を考えることにしました。
 具体的には、私の実家の隣の土地を所有者の祖父から譲ってもらい、その上に建っている既存の2階建の木造倉庫を改修して私たち夫婦の自邸にすることに決めました。



 祖父から譲ってもらった土地自体はそれなりの広さがあるのですが、倉庫は建築面積で18坪程度、延べ床面積も30坪に満たない大きさでした。
 一般の方がこの古くて小さな倉庫を見ても住宅にするという判断はしないと思いますが、私は建物自体が小さいが故に、限られた建築予算の中で建物の素材や構造に自由度を与えることができると考えました。
 建築としても倉庫という用途ゆえに、2層の大きなワンルーム空間となっており、吹き抜けを介してひとつに繋がる空間が魅力的に思えました。

 また、私の実家は敷地がいくつも分筆されており既存の建物が他に5棟あり、将来的なことを考えるとそれらを解体する際に建物を解体する金額の負担が大きくなることが予想され、既存の建物は出来る限り改修して長期間使用した方が、金銭的にも環境的にも合理的だという判断をしました。

 さらに、近年は物価高により新築の建築費は急激に高騰しており、土地や外構の金額を除いた建物の本体工事だけでもそれなりの額(私の事務所の仕様の場合、約30坪の平屋の場合シンプルな形として計画しても3000万円は超えます。)となります。
 本来であればクライアントの要望に合わせて自由にデザインすることを目的としている注文住宅においても自由に計画できる部分が相対的に減っている傾向にあります。(もちろん予算が潤沢にあれば話は別です。)

 そのような観点からも、今後より自由で豊かな建築や空間をクライアントに提供するためにも、今回は敷地内の使えそうな既存建物を活用してできる限り自由な計画を考えました。
 今回の計画をこれからの空間づくりの試金石としたいと考えています。

 ここまでは、合理的な理由ばかり書いたものの、私の家系は祖父の代まで兼業農家として米を作っており、私が子どもの頃はこの倉庫で家族みんなで農作業をした事もありました。
 家族で過ごした思い出がある倉庫を使いたかったという気持ちもあったのだと思います。


 今回の判断に納得してくれた妻には最大限の感謝をしつつ、これからこの自邸の改修を進めていきたいと思います。


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