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肩甲骨はがしが危険で無意味な理由と肩甲骨スライドのやり方

「ご自身の身体を大切に思うのであれば、これは絶対に受けない方がいい施術だと・・・」
今回の動画は肩甲骨はがしにまつわる医学情報完全版に加えて、あたらしい肩甲骨はがしに変わるセルフエクササイズをお届けします。

※このnoteでは、整形外科医:歌島大輔が医学的根拠をもとに、わかりやく、かつ実践的な医療健康情報をお届けします。
ときどき出てくる「ふんぞり男」とは、その名の通り、ふんぞり返って態度がデカい患者さんです。


肩甲骨はがしはアリ?ナシ?

今日の内容は「肩甲骨はがしの完全版」です。

「肩甲骨はがしは本当に良くなるの?」
「過去に肩甲骨はがしと言われる治療を受けたり、そのようなセルフエクササイズをしたけれど良くならならず、今も肩こりがある・・」

このような人にとって、まずこれさえ見ておけば解決するという内容をお届けします。
僕は整形外科医、そして肩関節鏡手術の専門家として日本でも有数の手術件数を誇るフリーランス医師です。
イメージしていただくといいのは「ドクターXの大門未知子」ですね。

ふんぞり男「お、おい、どうした、お前、そんなビッグマウス、お前らしくない」

「私、失敗しないので」と言ったことは一度もありません。
そもそも「どうなったら失敗というのか」と、医師をしていると思うのです。
そして、医師が言いそうで言わない言葉の代表は「手術は成功しました」です。
手術は失敗や成功などシロクロつけられるものではありません。
どんなに大変な手術だとしても、最終的に「成功」と思えるレベルにするのが手術です。
しかしその一方で、成功か失敗かの判定基準は曖昧です。

患者さんが手術して良かったと思えれば成功かもしれませんし、反対にどんなに完璧な手術をしても患者さんが満足しなければ失敗かもしれません。
ですから「私、失敗しないので」という医師は、大門未知子以外にはいないフィクションなのです。

 ふんぞり男「どうした、肩甲骨はがしの話だろうが!」

失礼しました。
最初に、なぜこのような話をしたかといいますと
「肩甲骨剥がし完全版」を話すに値する人間なのかという疑問にお答えしたかったからです。

僕の立場や考え方からすると、世の中で行われている「肩甲骨剥がし」についてはどちらかというと否定派です。
しかし、肩甲骨の重要性が身にしみているのも事実ですし「肩甲骨はがし」と称してこういう治療をされるとしたらアリだなと思う部分もありますので、完全否定派ではありません。

ぜひ今回の話で、ニセ医学に近い肩甲骨はがしではなく
「医学的根拠に基づいた肩甲骨はがし」ができるようになっていただきたいです。

今回の話は完全版ですから、治療家さんがおこなう肩甲骨はがしも、セルフエクササイズとしておこなうセルフ肩甲骨はがしも両方含めた話です。
そして、後半には「シン肩甲骨はがし」として
「肩甲骨スライド」というセルフエクササイズをご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

肩甲骨はがしの健康被害

実際には、肩甲骨はがしの健康被害の報告は多くありません。 

ふんぞり男「は?じゃ、なんでお前は否定派なんだ?」

実は治療家さんがされるような施術の健康被害は、なかなか報告されにくいのです。
例えばこちらの論文(*1)のように「肩甲骨はがし」を受けた後、肩が痛くなり上がらなくなってしまったとします。
そのようなときに、患者さんはどうするかと言えば、多くの場合が他のところにいきます。

この論文でも、別の鍼灸院に行かれたわけです。
整形外科に行くという患者さんも多いです。
「やはり、医者にいかないといけないな」と思われるわけですね。
ですから、私も「肩甲骨はがし」を受けて肩が痛くなったという患者さんをたくさん拝見しています。

整形外科医から見て、絶対ヤバい肩甲骨はがし

YouTubeなどで多いですが「うわー、強敵だコレ!」といいつつ、肩甲骨の周りを思いっきり押したり、裏側に手を入れようとグイグイしたりして、患者さんも「いたーい」と言っている動画がありますよね。

ふんぞり男「おお、あるな!つい見ちゃうんだよな。俺もやったら肩こり良くなるか!?」
「 いままで、どれだけ僕の話を聞いてきましたか?」という感じであきれてしまう、ふんぞり男さんですね。

しかし、そのような動画も最後には「スッキリしました−」「剥がれましたね」などとなり、見て受けたくなる人もいるかもしれません。
あれだけやれば剥がれるだろうし、痛みもラクになりそうだなと思うかもしれません。
ですが、ご自身の身体を大切に思うのであれば絶対に受けない方がいい施術だと思います。

ふんぞり男「じゃあ、なんで動画では良くなっているように見えるんだよ!サクラか?」

いやいや、そんなヒドいことは言わないでください。
サクラということもあるかもしれませんが、治療家さんも本当に効果があると信じて施術していると思います。
そうでないと、本当に悪ですから許せません。

しかし、医学的根拠が大いに不足しているのに効果があると信じておこなうのも善ではないです。
なぜ良くなっているように見えるかというと、実際に施術の直後は症状がいくらかラクになっているからです。
そのメカニズムとして、私のチャンネルをご覧いただいている人にはお馴染みになりつつあるかもしれませんが「プラセボ」と「オフセット鎮痛」があります。

プラセボとオフセット鎮痛

プラセボというのは、ニセの薬と書いて「偽薬」という意味があり、このニセの薬が医学研究では重要になります。
なぜなら、ニセの薬でも効果がある程度はでてしまうからです。
人間の心と身体は繋がっていますから、効果があると思い込めば本当に効果がでてしまう習性があります。

そのため、ある薬の効果を証明しようとしたら「ニセの薬よりも効果が高いこと」の証明が必要です。
このプラセボは、薬が苦ければ苦いほど「良薬口に苦し」の言葉通り効果が出やすく、治療なら痛ければ痛いほど効果が出やすいという傾向があります。

さらに「痛いことをされた直後は元の痛みが引いて感じる」というオフセット鎮痛という脳神経のメカニズムも相まって、痛い肩甲骨はがしの後はラクになるわけです。

ふんぞり男「なにぃ!思い込みと痛みの後にラクになるだけって、お前、詐欺じゃねぇか!」

いやいや、これも僕の考えでしかありません。
僕が知らない、もしくはまだ未知の医学的な効果が今後証明されるかもしれませんから、その余白は残しておきたいです。
しかし現状は「プラセボとオフセット鎮痛以外のメカニズムはあるのか・・」と疑問に感じています。 

ふんぞり男「普通に、癒着していた肩甲骨が剥がれたんじゃないのか?」
その辺りを詳しく解説していきますね。

とにかく肩甲骨を浮かそうとするのは全部・・・

肩甲骨は、背骨とも肋骨とも純粋な関節を構成しておらず「筋肉で繋がっているだけ」というのが大きなポイントです。
例えば、前腕骨だと手首と肘でしっかり関節として接合しています。
片方しか付いていないのは、先端の指などでないかぎりあり得ません。

この人差し指の中節骨という骨も、DIP(第1)関節とPIP(第2)関節の両端が繋がっています。
しかし、肩甲骨は肩甲骨肋骨関節や肩甲骨脊椎関節など、そのような関節は存在しません。
先ほどお話したとおり、筋肉で繋がっていて、肋骨の背中側に浮いているだけです。

そのため、筋肉の量や柔らかさによっては、肩甲骨のウラ側に簡単に手が入る人もいれば、ガチガチで全然入らない人もいるのです。

ふんぞり男「だから、そこに手が入るように剥がしてくれてるんじゃないか!」

実は私が知る限り、肩甲骨のウラに手が入ったほうが痛みがラクになるなどという研究はありません。
あれば教えてほしいです。
むしろ、肩甲骨が浮いてしまう状態は「翼状肩甲骨」という病的な状態です。
腕を動かすときに肩甲骨が浮いてしまうと肩甲骨は不安定になり、肩の痛み・腱板断裂の原因やそもそも肩が上がらなくなるなど、整形外科医としての印象は「良いことは何もない」という感覚です。

ふんぞり男「それ、ヤバいじゃないか!じゃあ、なんでもっと健康被害が出ないんだ!」 冒頭にお伝えした「悪くなってしまった患者さんを社会的に把握できていない」ことと、もっとシンプルに「剥がそうとしているけれど剥がれない」ことではないかなと思います。

肩甲骨周りが癒着するから剥がしたい・・・本当?

本当に肩甲骨周りが癒着していて、それが肩こりなどの原因なら剥がすこともできます。
手術的にも、ある程度の範囲なら指が入る程度の小さな創で比較的広範囲に剥がすことができます。
これだけ国民病で仕事もできないほどのツラい肩こりの治療法として、このような「癒着剥離」という術式が一般的に行われていないという事実は重いです。

整形外科医であれば、初歩の手術として行われるくらい手技的には難しくありません。
しかし、我々がそのような手術をおこなわないのは「効果がない」と思っているからです。

一方で、手術という大それた治療だからやらないという意味もあります。
そのため、代わりに筋膜に生理食塩水を注入する「ハイドロリリース注射」という治療をおこなう先生が、最近増えているのも事実です。

筋膜が癒着しているかの議論がわかれていても、筋膜に刺激を加えること自体の効果はあるかもしれないと考えられています。

実際「ハイドロリリースは肩こりに良いですよ!」と力説する整形外科医の友人もいますが、一方で「それだけではまた戻るので、リハビリをしなければならない」とおっしゃっています。
ここまでの話から、本当の意味で肩甲骨はがしが肩こり治療に効果を出すために必要なことが3つ見えてきます。

ハイドロリリース注射+リハビリ

これは先ほどの話ですね。
ハイドロリリース注射で筋肉と筋肉の間にスペースができますから、本当に癒着しているならそれが剥がれるでしょう。
その状態で適切なリハビリをすることが1つの作戦になり得ます。
しかし、これもエビデンスが足りません。
まだまだ標準治療まで遠いですが、1つの有力な仮説だと思います。

肩甲骨の動きの悪いところに介入する徒手療法+リハビリ

ハイドロリリースでやっていることを何らかの徒手療法で達成してリハビリをすることです。
俗におこなわれている肩甲骨はがしも含まれるかと思いますが、これは正直微妙です。
ハイドロリリース注射と違い、何らかの徒手療法によって筋膜や肩甲骨など狙ったところが剥がれたとする研究や論文を私は見たことがありません。

ふんぞり男「は?それなのに、あんなに肩甲骨はがしって治療が流行ってんのか!?」
ですから「肩甲骨を剥がします」と本気で説明している人や「筋膜を剥がします」と説明している徒手療法治療家さんはよく考えてほしいですし、患者さんはあまり信用しないでほしいです。
反対に、肩甲骨はがしと称して「実は何かが剥がれるわけではなく、実際・・」という説明など、少しでも医学的に妥当性がありそうな説明をされる治療家さんもいます。
なので、最後にどういう治療家さんの肩甲骨はがしならアリかもしれないというお話をします。

リハビリだけ

そもそも癒着しているかどうかすらわからないのに、ハイドロリリース注射も含めてやる必要があるのかと疑問です。
しっかりセルフエクササイズなどで動かしていけば良いのではないかと思います。

ふんぞり男「それじゃ良くならないから、困ってるんだろうが!」

それは、そのセルフエクササイズ自体が謎に肩甲骨を剥がすような方向性で語られたり、適当に肩甲骨周りをストレッチしようというフワッとした話だからです。
コンセプトがフワッとしているため、効果的とされるエクササイズがどんどん出ては消えるような世の中になり、患者さんもやらなくなってしまう現状なのです。
この辺りは私が感じる印象でしかないのですが、だからこそ新たな提案として「シン肩甲骨はがし」である「肩甲骨スライド」を紹介したいと思います。

シン肩甲骨はがし=肩甲骨スライド

ここまでお話した通り、まず肩甲骨を剥がすという意識から脱却しましょう。
剥がした先には浮かそうとする施術に繋がってしまいますし、どうしても肩甲骨のウラに手を入れようとグリグリしたくなってしまいます。
そのイメージが良くないのです。

むしろ、肩甲骨は浮いてはいけないのです。
肋骨に沿ってスムーズに滑るように動くことが、
安定して大きく動く良い肩甲骨の動きです。 
そして、こちらの論文(*2)は筋硬度計で測定した結果のようですが、肩こりが常時ある人は僧帽筋上部線維がカタいです。

まさに肩こりの典型的な場所ですね。
つまり「肩こりの人は僧帽筋上部線維が緊張している」ということです。

そしてもう1つ、こちらの研究(*3)では、肩と首の痛みは僧帽筋下部の筋力低下と関連していると示しています。

要は、僧帽筋の上が緊張して下が弱くなるのが問題です。
ということは、逆に上を緩めて下を強化すればいいわけですね。

そして僧帽筋のみならず、前鋸筋が肩甲骨の滑りにはとても重要です。
この前鋸筋が疲労してくると、僧帽筋上部が緊張してくることが明らかにされています(*4)。

ですから、大事なのは「僧帽筋上部を緊張させずに、僧帽筋下部と前鋸筋を使っていくこと」です。
そのためのセルフエクササイズが「シン肩甲骨はがし」こと「肩甲骨スライド」です。

かなりシンプルで、私が提唱する「クセになっちゃうエクササイズ」である「クセトレ」の1つでもあります。
まずこのエクササイズをやってほしい一番のタイミングは、肩こりがツラいと思ったときです。
少しでも張りを感じて、手を肩に伸ばしたくなるときはありませんか?

このときがエクササイズを開始する「スイッチ」です。
「クセトレ」は毎日時間を決めて時間をかけておこなうストレッチではなく、日常生活の中でついやってしまうエクササイズですので、この「スイッチ」も重要視しています。

肩甲骨スライドのやり方

1.指先を肩甲骨の内側のラインに持っていく

この手が重要で、肩甲骨の動きを感じられます。
そして、僧帽筋上部が緊張しないように僧帽筋上部を触れながら、肩甲骨が上がってこないようにします。

肩甲骨上部が緊張している典型は「シュラッグ」といい、肩甲骨が上に上がる状態です。こうならないように上から手を置いていると思ってください。

2.肩甲骨が先という意識で、肩甲骨を肋骨に沿って前に動かす

あくまでも肘や腕を動かそうとするのではなく、肩甲骨を肋骨に沿って前に動かそうとした結果、腕が勝手についてくるというイメージで動かしてください。

つまり「肩甲骨を動かす!」ということです。
そして、いけるところまで肩甲骨を前まで動かします。

3.肩甲骨をできるだけ背中側に寄せる

今度は反対に肩甲骨をできるだけ背中側に寄せてください。
これができると肘は背中側に移動し、手は外側に移動していきます。
この動きも肩甲骨を思いきり動かす中で、勝手に手がついていくことを意識してください。

常に肩が緊張しないように、肩甲骨が下の方でスライドしていくイメージをもってください。
上にあがってきてはいけません。

このように肩甲骨を前や背中側に動かす動きは、まさに肋骨の上をなめらかに滑らせる動きになるので「肩甲骨スライド」とよんでいます。

最初に肩甲骨の内側に触れていた指先は、肩甲骨が前に動けば肩甲骨が触れなくなり、反対に背中側に動けば肩甲骨のより外側が触れます。
指先で肩甲骨の動きを感じながら、肋骨上を大きくスライドさせる運動ですね。

コツは「ゆっくりと肩甲骨が上がらないように大きくスライドを繰り返すこと」です。
そして、このスライドの幅や滑らかさが向上すれば、まさに動きとして「肩甲骨が剥がれた理想的な状態」のため「シン肩甲骨はがし」ともいえます。

これも「クセトレ」なので、何回・何セットなどノルマはありません。
気づいたらやってしまっている状態を目指してください。

こんな治療家さんの肩甲骨はがしなら…

肩甲骨のウラに手を入れる施術は、ここまでお話しした通りオススメしません。
オフセット鎮痛やプラセボのような一時的な効果しかない可能性の割に、
強く痛い施術は、次のリスクがあります。
「炎症を起こす」
「筋肉を傷める」
「反対に筋緊張を起こす」

ただ、先ほどの肩甲骨スライドも一回説明を聞いて上手にできる人もいれば、肩甲骨が動いている気がしない人もいます。
その場合

「肩甲骨ってこんなに動きますよ」

「僧帽筋上部をゆるめて、下部と前鋸筋を使うとこういう感じの肩甲骨の動きですよ」

と示してくれるような施術をする治療家さんでしたら、とても頼りになりますね。

「うちの肩甲骨はがしは剥がしません。むしろ剥がしたら病的な状態です。」

「肩こりや肩痛予防・改善のために理想的な肩甲骨の動きとして僧帽筋上部を緩めて、下部と前鋸筋を使うような動かし方をマスターしてもらいます。」

「これができると、肩甲骨が剥がれたかのようにスムーズに肩甲骨がスライドします」
このような説明で、それに基づいた施術と指導をしてもらえたらいいですね。
私が治療家さんなら、間違いなくそうします。
あくまで、私の個人的意見ですので参考程度にしてください。

まとめ|本日の一言


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参考論文

(*1)島田慶ら、日本東洋医学系物理療法学会誌, 47巻2号 外傷に起因すると考えられる肩関節の病態に鍼治療が有効であった一症例
(*2)矢吹 省司. 臨床整形外科. 2007 肩こりの病態―対照群との比較を中心に
(*3)Daniel M Wang et al. J Osteopath Med. 2022 Lower trapezius muscle function in people with and without shoulder and neck pain: a systematic review
(*4)Jun Umehara et al. J Shoulder Elbow Surg. 2018 Scapular kinematic and shoulder muscle activity alterations after serratus anterior muscle fatigue

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