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エンゼルケア


看護学生時代にエンゼルケアを経験することができないまま、看護師になった。就職して1週間も経過してなかった気がする。出勤すると、亡くなっていた患者がいた。師長さんが一緒にエンゼルケアにと私を誘ってくれた。人生初めてのエンゼルケアを師長さんと実施するのは緊張しかなかった。

おっとりとした、ゆっくりと喋る師長さんだった。身体を拭きながら、「私たち看護師は、人の人生の最後に立ち会わせて頂く、素晴らしい仕事なんです。この患者さんが、どういう人生を生きてきたかは、はっきり分からないけれど、お疲れ様でしたという気持ちを込めながら、処置をさせて頂くんです。」と言う。
看護師1年目の私は、この師長さんの言葉が心のどこかに染み渡ったのだろうと思う。説明できない涙が出て…止まらなくなった。

私の人生初めてのエンゼルケアは、涙で終わった。

それ以降、どのぐらいの患者さんのエンゼルケアに立ち会ったのだろうか?

看護師2年目ぐらいだったと思う。母が亡くなり、悲しみに朽ち果てた若い娘さんがいた。先輩看護師がこの若い娘さんに口紅を持っているかと問うと、持っていた。看護師が促すと、娘さんが自分の口紅で亡くなった母の唇に紅をさした。これが本当のエンゼルケアかもしれないと思った。残された家族がいかにして、大切な家族を失った心情を自らで受け入れられるかどうか・・これが不十分であると残された家族の人生にも影響が出てくるのではないかと思われる。このお手伝いをするのも私たち看護師の大切な仕事なのではないかと考える。この若い娘さんも最後、自分が毎日使っている口紅で母の紅をさし、送り出すことができたと・・・聞いてはないが、時間の経過でこの経験は大切なモノになるのではないかと思う。

エンゼルケアを実施する時、生きているかのように送り出したいと考えている。当然のことを丁寧に実施していく。温かい湯を使って、温かいタオルで身体を拭く。温かい湯を使って陰臀部洗浄を実施していく。温かいタオルで顔を拭き、保湿剤でマッサージしながら塗布する。通常のファンデーションでは乾燥により、粉が吹いたようになり違和感を感じる。リキッドタイプのファンデーションなら、皮膚に馴染んで違和感が少ない気がしているので使用している。そうすると、死亡確認した時の表情と比較をしても、表情に活気がでているような気がする。

娘さんが紅をさし母を送り出したのを経験してから、家族にエンゼルケアを促す声かけができるようになった。送り出す際に着る衣類を家族に準備してもらう、タンスの中の衣類を選択してもらうような声かけをすると、必死になって家族が対応してくれることが多い。

エンゼルケアは奥深い。

手技だけでなく、スピリチュアルな視点も必要かもしれない。家族への支援も大切であり、幅広い知識、視点も必要。なにより感性が必要かもしれない。




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