『諦めることを諦めよう』

と、言ってくれたのは、大学のときに付き合っていた恋人。

初めて年上と付き合った。
ひとつ上の先輩だった。

とても、繊細で優しい人。
死にたがりの私の気持ちを理解してくれたのは、その人もまた同じ衝動を知っていたから。

私をたくさん笑わせてくれた。
そして、たくさん泣かせてくれた。

たぶん、この頃から私は人前で笑うことに抵抗がなくなった。泣くのは……まだちょっとちっぽけなプライドが許せないけれど(笑)

『私は、いわゆる女性も男性も好きになれる。でも、今はあなたのことが好きだよ』

付き合う人にこのセリフを言うようになったのも、先輩が最初だった。

なりたくもない公務員になって、いずれ家を継ぐために実家に連れ戻されること覚悟していた私に。
この学生生活が人生"最後のモラトリアム"と自嘲していた私に

『諦めることを諦めよう』

と、言ってくれた。

『橋乃下がやりたいことをやりたいように、やりたいだけやって良いんだよ? 自分だけが我慢して、諦める必要なんてないんだよ?』

そう言ってくれた。

『諦めることを諦めよう』

この言葉のせいで、自我を加速させてしまい先輩とは別れてしまったけれど、でも、この言葉のおかげで私のモラトリアムはまだ続いている。

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