僕等は屈伸する。バベルの塔のてっぺんで。 - 対戦ゲームの挑発行為に関する考察

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 ピヨった相手に昇竜拳を2回空振って後ろ投げでフィニッシュ。これはゲージが溜まるので戦略的な行為です、決して舐めプレイ等の挑発行為ではありません。

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 対してこの屈伸は戦略的に意味はなく、所謂挑発であると解釈されるのが一般的です。gifのフレームレート甘すぎてちゃんと屈伸に見えなくてすみません、本物はもっとちゃんとカクカクします。

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 でもこの屈伸は挑発ではありません。波動拳にスパコン合わせるためにコマンドだけ入れてボタン我慢してる動きなので、戦術であり、必要性があります。なのでこれは怒ってはいけません。

 挑発行為とそうでない行為について、正しく伝わったでしょうか。ちなみにこれはストⅤに限った話で、他のゲームはまたそれぞれ、一見煽ってる有意義な行動や、言われないとわからない無意味な行動があります。説明されないと全く同じにしか見えないって方も居ると思います。
 今回はこの、煽り行為について……の前に前提として。煽りと心理戦についての分析、という動画があります。こちら日本語字幕を有効にしてご覧ください。

 結論はつまり、トッププレイヤー同士の戦争化したeSportsにおける相手の実力に対しての尊厳的挑発はアリ寄りのアリなので、煽られても冷静だったヤツの勝ちです、という話なんですが。
 私のような一般ゲーマーが趣味の一環として、いい歳こいてゲームばっかしてる連中や、事実まだ義務教育が終わってない連中と、アホな煽りかまされながらアホやってる時にどう向き合うか。どう温まらないで過ごすか。

 冷静に見るには、客観的な知識が必要ですよね!
 という言い訳で今回は、挑発の歴史をさらっと振り返ってみます。

 まず、対戦ゲームで挑発とされる行為を、3種類に分類します。
 先程の屈伸や、シャゲダン、アオリイカ等の無意味な行動を繰り返すもの、これをダンスタイプと呼称しましょう。
 次に死体蹴り、死体撃ち等のオーバーキルを行うこと。これを追い打ちタイプとします。
 あとはそもそもゲームシステムに挑発ボタン等が存在するパターン。これはシステムタイプとします。
 他にも細かいモノはありますが、ざっくりこんな感じに分けられるかと思います。

 まずは格闘ゲームから、過去の挑発を振り返ってみましょう。

 追い打ちタイプと言えばまず真っ先にモータルコンバットシリーズが思い浮かびます。決着がついた後、無意味にオーバーキルを行うという意味では追い打ちタイプです。しかしこれ、システム上用意されているという意味ではシステムタイプですし、必ず避けて通れないモノという意味ではむしろここまでが試合かもしれませんね。
 なのでこれは、それぞれのタイプに分かれる前の祖先であり、ここから挑発は分流し進歩していくのだという理解です。

 システムタイプとしての初期の例としてはまず龍虎の拳、ボタン押すとまんま挑発が出ます。まあこれ一応、相手の気力ゲージを下げる効果があるんですね。なのでこの時点では戦略的な価値が存在してて、純粋な挑発とはほんのちょっと違います。

 で、面白いのはここから。どうやら少なくとも制作サイドの意識として、ある時点までは、挑発はゲームを盛り下げたりしない、大きな問題にはならないと信じられてたようです。

 例えばシステムタイプの挑発、これはこの後にどんどん無価値化します。単なるスキだけなら兎も角、挑発によって相手のゲージを増加させる、ハンディキャップとしての要素すら持たされる場合もあります。ギルティギアシリーズのRAKUSYOとか有名ですね。
 それから追い打ちタイプにも、マーブルVSカプコンなんかは、なんとカッコよく死体蹴り決めて勝ちポーズでスコアボーナス!なんてシステムがあったりもしました。今やったらまー怒られそうなモンですが……と思ったら今のKiller Instinctが死体打楽器システムついてましたっけね。すげーや。

 これらの要素が果たして当時どれだけ盛り上がったのか、それともケンカになったのか。まあ少なくとも制作サイドの意識はこの頃まだ、これは煽りでマナー違反だ!良くない!やめよう!ではなく、挑発は軽いコミュニケーションとして、死体蹴りはちょっとした魅せプレイとして、作られた様子です。
 実際、私の通ってた学校は、大乱闘スマッシュブラザーズで撃墜後のアピールはむしろマナーですらありました。アピールもしないのは根暗みたいな風潮だったんですが、そういうのって少数派なんですかね?

 さて或いは戦略の一環としての挑発も、潰えた訳ではありませんでした。システムタイプ挑発はその最初期からゲージ下げという技だったワケですが、ストリートファイターⅢにはPAという技がありました。
 モーションとしては挑発系のノリなんですが、PAした後の攻撃力や防御力が上がったりと戦略的な意味があります。なので、PAによる怒られが発生することはありません。むしろPA締めのコンボが多用されるキャラも居ます。

 あとこれは特殊な例ですが、鉄拳のブライアン。あのガード不能攻撃が挑発って聞いた時は、へー、変なのと思いました。なんか技なんだろうと思ってましたし、実際の運用もまあ技ですね。
 タオカカの挑発コンなんかも要するに技としての運用です、スタートボタンの配置でコンボ難度が変わるのはホント、なんで挑発にボーナス補正付けたんだろうね、としか。

 追い打ちタイプも戦略的価値があったりします。戦国BASARA Xなんかは、特定の行動でスタイリッシュポイントが溜まって、次のラウンド有利に進むんですよね。なので、死体に吹き飛ばしとかエリアル当てとくのが常識みたいです。まあ果たして狙ってそう作ったのか、単に造りが甘かったっぽい挙動にも見えますが……対戦ゲームって、そういうトコまで攻略の範疇なんです。
 但し!同じく戦略的価値のある追い打ちタイプだったP4U。A連でバーストが溜まるので死体殴り得だったんですが、これは非難轟々だったようで、後に修整されました。元ネタのRPGから参入した非格ゲープレイヤーも多いタイトルで、そこら辺もあったかもしれませんが……同時期にネット対戦が一般化したことも見逃せない要素です。
 つまり、BASARAとペルソナの間に、プレイヤーの意識が変化した可能性があると見ています。

 ここまで格ゲーの挑発について見てきましたが、対戦ゲームは格ゲーだけではありません。PCゲーマーはFPSやRTSで世界の不特定多数とネット対戦し、挑発していました。
 ここら辺すみません、あんまり覚えてないので表面だけなぞりますね。

 例えばTF2。Team Fortless2のほうです。決着後、武器を捨てて逃げる相手チームを追いかけて倒すミニゲームが始まりますが、これなんかはモーコンで紹介した、無意味オーバーキルまで一試合、の流れを汲んでいますね。
 それからTF2、Titan Fall2のほうです。こちらも撤退戦があります。まあ挑発というと空気感は全然違いますが、終わりの合図として役割は同じところにあるのかなということで、一応併せて紹介しました。
 まあTF2って言いたいだけですね。

 それ以外だと、アピールボタンがあるゲームは多いですが、実際に行われる挑発は追い打ちタイプの死体撃ちと、それからダンスタイプのティーバギング、要するに屈伸ですね。これらが使用されてきました。屈伸はFPS発祥であると、先の動画では紹介されていますね。RTSでは勝ち確定から無意味な補給機召喚連打等があります、これはどうだろう、ダンスタイプに分類してみますか。
 システムタイプのアピールは、FPSだと実行中3人称視点に切り替わることを利用して、曲がり角の確認なんかに使われたりするようです。グリッチであるとして修正されるのが普通みたいですが、結構長いこと放置され、最早戦略の一環となっているゲームもあるとかないとか。

 さて、PCゲーマーの主戦場は早い段階でインターネットでした。そしてこれってゲーセンと大きく違うことがあります。
 それは、物理的に手が届かないことと、同じ相手と当たりづらいこと。

 昔のゲーセンでは……ええ、もう、灰皿が飛んでくるだとかトイレに連れ込まれるだとかの話は耳タコでしょうし、ここはもう少し刺激の強い話をご紹介。
 これは友人の体験談なのですが、負かした相手が台を回ってこっちに来るその殺気を読み取り、瞬時に席を立ち、順番待ちに紛れ込んで「あいつ逃げたなー」みたいな顔で出入口のほうをチラ見するというテクがあったそうです。そうすると、台向こうから来たイカツいチンピラみたいな相手が、出て行った相手を追いかけるように外へ行くんだとか。安全を確認して再度席に戻る、といった戦術を用いていたと聞きました。
 それからこっちは、別の方から聞いた話。あまりに危ない人だと、台パンや灰皿投げを超えて、台押しと呼ばれる超必殺技を使うそうです。これは、筐体を一気に押し込んで、筐体と壁の間に対戦相手を挟み込んで潰すという大技で、人にも筐体にも大ダメージとなるでしょう。危険ですのでくれぐれも真似しないようにしてください。
 まあ何をするにもされるにも、人間顔はよく覚えるように出来ています、顔を合わせて何ぞやらかすと、その時の顔ぶれに顔を覚えられる、永劫付きまとうリスクがあるわけですね。

 対してネット対戦。今でこそID晒されるのはそこそこリスキーになってきましたが、基本的にネットでの挑発はゲーセンと比較するとローリスクです。どれだけ恨みを買っても大抵は一期一会なんですね。
 まあそれでも、やりたい放題過ぎて名の知れ渡った悪人なんかだと、ID見るなり即キックされたりもしたみたいです。

 で!2008年頃かな?格ゲーも家でネット対戦が普及し始めた頃。これが前に述べましたBASARAとペルソナの間ですね、一期一会の相手に対する、比較的ローリスクな挑発行為に、格ゲーマーが晒され始めるわけです。

 基本、ネット対戦のコミュニケーション機能というのは、それが一期一会のものであれば、間違いなく荒れます。ボイスチャットでもテキストでも関係ありません。なので昨今の傾向としては、限界までそういった機能を排除し、やり取りできる言語や情報を絞り込むのが主流です。
 それでも例えば、カモンとナイスしか言えないスプラトゥーンでアオリイカが出たり、一言も喋れないダークソウルで前蹴りやガード連打をしたりして、絞られた機能からなんとか挑発ダンスを踊ってやろうとするのは、最早人間の本能です。そしてこのダンスタイプの挑発は、コミュニケーション機能を絞られた状態から彼らが編み出した挑発なんですね。
 このダンスタイプ最大の特徴は、これが挑発なのか喜びのダンスなのか、ぶっちゃけ伝わらない人には伝わらないことです。事実、英語の読めないガキンチョだった私は、当時CoDやBF1942で何らかの挑発ダンスを受けたかもしれませんが、見事に一つも伝わってません。
 先程PCゲーム挑発事情覚えてないと申し上げましたのは、つまりそういうこと。当時挑発されてるかわからなかったんですよね。

 で、格ゲーマーに、そして私にも、そのダンスタイプの行動が挑発であると伝わる下地が出来たのが2008年頃。ネット対戦が普及し始めてからではないかというのが私の推測です。
 そこら辺でようやく、日本語の匿名掲示板やらで、屈伸や死体蹴りは挑発行為だ、マナー違反だという意見が浸透したのではないか……という肌感覚です。実際にはもっと前からそういう意見はありましたが、それと同じくらい気にしない派、何でもしたらいい派の人もいた印象です。

 上も感覚の話で、事実との乖離があるかもしれませんが、ここから完全に想像の話になりますのでもっと信用しないで下さい。恐らく、規模の小さいゲーセンコミュニティで、見知った人とやってる分には、気にしなければ気にならなかったのかな……と。私の小学校の、スマブラのアピール必須みたいな風潮の例もありますし。
 逆に、人気のゲーセンでとっかえひっかえやる分には、二度と合わないかもしれない人に引っ掛けられた死体蹴りって気になるかもしれません。
 以上、根拠が自身のビミョーな経験のみの、怪しい推測でした。

 まあ推測の話はここら辺にしておきまして、現代格ゲーにおいて、屈伸と死体蹴りは、めでたく挑発行為と認定されることに相成りました。
 屈伸は兎も角、死体蹴りはできないゲームも多いし、できちゃうゲームのほうが悪いのでは、という意見もあると思います。それでも採用される理由は、どうやら、決着後も入れ込んだ技が出切ったほうが手触りが良いから、ということのようです。
 なので無意味にあるわけではないと、と言ってもまあ今後減っていくんだろうなあとは思いますね。
 余談ですが、屈伸もそういえば、UNIって最初ラウンド前に歩けたんですが、あれいつの間にかなくなってましたね。メルカヴァの開幕腕立て伏せが見た目超マズくて、身内で遊ぶ分には毎回やる位大好きだったんですが、うーん諸行無常。

 ……と、動画にするつもりでここまで台本書いたのが、確か2019年の暮れの辺り。驚いたことにその後、グラブルバーサスがリリースされると、無価値な挑発と減っていくはずの死体蹴りがバッチリ存在し、全然話が違うじゃんと私は頭を抱えたのでした。

 屈伸挑発死体蹴り、これらは誰も気にしてなかった頃が昔ありました。気にしなさすぎてゲームシステム自体に取り込まれることすらありました。
 しかし今、制限されたコミュニケーションから機微を読み取れるように、もう感性が開いてしまって、新たな言語として屈伸から煽りを受け取れるよう、現代ゲーマーの皆さんは屈伸言語を習得してしまったかもしれません。
 よく考えて下さい、屈伸は新たな言語、それも国境を越え全てのゲーマーに通じる夢のような言語です。そしてその言語に載せる想いは、挑発、侮辱、煽り……に限りません。
 我々は、不様にスタンした相手を煽り倒す時に屈伸します。でも、ボディシールドを譲ってくれた味方にもまた屈伸します。マッチングに気付かず棒立ちだった相手が帰ってきた時に屈伸し、誤って横取りしたアイテムを返却する時にも屈伸します。もしかしたら、愛を伝える時もまた、我々は屈伸するのかもしれません。
 屈伸という言語が持つ力は、単に挑発のみに留まりません。屈伸による真実のコミュニケーションは、時に終わりなき戦争すらも終わらせ得るのです。


 これは蛇足になりますが、前述の論はランダムマッチングにおけるモノです。もう死体蹴りはサムいって浸透した後の話、ゲーセンでしつこく死体蹴りしてくるくせに妙に馴れ馴れしくて誰からも疎まれた結果対戦相手を無くした人を、私は知っています。そんな感じで身内の範疇では、悪質と判断されるプレイヤーとまず関わらないという選択肢がとれます。
 なのでこの記事は、誰と当たるかわからないランダムマッチングに向けた話でしたと、付け足しておきます。

 挑発行為ってどうしても、Twitterで言えばすぐ、する方が悪いかされる方が下手糞かって水掛け論になりがちなので、一度客観的に眺めてみると面白いかなあ、という話でした。

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