見出し画像

「調べれば分かるものをなんで暗記しなきゃいけないの?」に対する私なりの答え、あるいは楽しく歴史を学ぶ方法

先日、学生さんが

「歴史の勉強きらい。調べたら分かるものをなんで暗記しなきゃいけないのか」

と嘆いているのを聞いて、それはね……と語りかけようかと思ったんですが、求められてもいないアドバイスをするほど無粋なことはないと思いとどまって、替わりにここに書いてみることにしたのです。

結論から言うと、調べれば分かるものを暗記しなければいけないのは

「明確な問いがなくてもその知識を取り出せるようにするため」

です。

あんまり意味のない暗記

たとえば水の性質について

化学式はH2Oで、水素と酸素の化合物。水分子の酸素原子と水素原子は共有結合で結びついており、その結合は水素原子と酸素原子から価電子を1つずつ供給されてできている。

という知識を暗記している人がいた場合

「水の化学式を答えよ」
「水分子を構成する酸素原子と水素原子の結合を何結合と呼ぶか」

といった問題には即答することができます。
一方で、暗記していなかったとしてもスマホさえ持っていれば、10秒も待たずに同じ答えにたどり着くことが可能です。

暗記の意義は、まさにこの10秒早く答えられること……ではありません。もちろん会話の中でことあるごとに

「ちょっと待ってください……今、意味を調べますので」

とやっていたらテンポが悪いことこの上なしですが、知識を暗記しておくことの本当の価値は他にあります。

それは、明確な問いを与えられない場合でも、その知識を取り出せるようになるということです。

明確な問いがないシチュエーション

たとえば、あなたが使い捨てカイロを発明すべく試行錯誤を繰り返していたとします。鉄粉の酸化作用を利用して熱を得るいう基本設計は出来上がり、あとはもうちょっと早く熱くなれば実用レベルに達するのに……となった時

「早く熱くなるように、反応を促進する触媒はないか」

と探すことになります。
実はその答えの一つは「水」なのですが、まだ使い捨てカイロが発明されていない段階では、その答えはネットで検索しても出てきません。

水の性質を暗記している人、つまり「調べる」という行為をせずとも水の性質という知識にアクセスできる人だけが

「鉄粉の酸化を促進できるような物質って何かないかな。酸化……錆びる……物体の錆びを促すもの……あ、水? 水、行けるんじゃね?」

と考えて答えにたどり着けるのです。

つまり、暗記を「明確な問いに対して答えるもの」だと考えるなら、ネット検索でも答えが見つかるのであまり意味はない。

しかし「なんとなくこんなものが欲しいんだけど、なんか良いのない?」のようにふわっとした問いに答えるには、知識を暗記しておかなければ対応しきれないのです。

歴史に関して付け加えるならば

「いつ」「誰が」「何をした」だけでなく「なぜそれをしたのか」「なぜそれができたのか」までセットにして学ぶことができれば、面白くなると考えています。たとえば

1615年に起きた「大阪夏の陣」で、徳川家康は豊臣家を滅ぼしました。

これだけを暗記するのではなく、徳川家康や豊臣家の人々やそれ以外の人たちがどんな人で、その時どんな状況にあって、なぜ教科書に載っているような行動を起こして、教科書に載っているような結果になったのか。そこまでを学ぶのです。

天下人・豊臣秀吉の死後、息子である豊臣秀頼が後継者となった。しかし秀頼はまだ幼かったため、当時最大の実力者であった徳川家康が実務を取り仕切ることになった。家康は1600年に起きた関ヶ原の戦いで対抗勢力を排除しその覇権を確実なものにすると、1603年に征夷大将軍に任ぜられ江戸に幕府を開いた。
対する豊臣家側は当初、秀頼が成人した暁には天下の権が戻ってくることを期待していたが、どうも家康にそのつもりがないらしいぞということに気付いて不満を募らせていく。
そして1614年、70歳を過ぎた家康は、生きているうちに徳川の支配を盤石なものとすべく、豊臣家に対して完全服従を要求。これに反発した豊臣家の皆さんは、兵を集めて家康に戦いを挑むことになった。豊臣家の狙いは、現在は徳川に服従している大名たちが豊臣に寝返ってくれること。彼らの中には、かつて秀吉によって取り立てられた者たちも少なくなかったからである。
この戦いが徳川家対豊臣家の最終決戦となるのか。諸大名はどう動くのか?

諸説ありですが、とりあえず大坂の陣の背景はこんな感じ。

情報量が増えてるじゃないか! と思うかもしれませんが、ここまでを掘り下げれば歴史の授業は暗記科目ではなく「おもしろい物語」になります。なんだか先が楽しみになりません?(ならなかったら私の筆力不足です、面目ない)
さらに

「秀吉が天下を取ったっていうけど、どうやって?」
「関ヶ原の戦いで覇権を確立ってどういうこと?」
「大阪の陣が終わった後、家康と徳川家はどうなったの?」

のように、その前後の時代に興味関心が派生していくことになれば、ようこそ歴史の沼へ。

意味のない単語や数字の羅列を覚えるのは苦痛ですが、物語として楽しむことができればストーリーはもちろん、固有名詞もごく自然に頭に入ってくるはず。
もしあなたが歴史の授業が苦痛だと感じるのであれば、学び方が(言葉を選ばずに言うなら先生が)悪いだけであって、決して歴史がつまらないものだからではないのですよと、今回一番言ったかったのはこれでした。

この記事が参加している募集

日本史がすき

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。 小難しい話からアホな話まで、気の向くままに書いてます。 「スキ」を押すと、これまでの記事のエッセンスやどうでもいいネタがランダムで表示されます。